利益相反(COI)に関する宣言
本題に入る前に、一つユージに確認しておかなければならない。
とても重要なことだ。
ドリンクバーから戻って来たユージにベリアルは尋ねる。
「あのさ、ユージは魔法庁のエージェントなんだよね」
ユージが頷く。
「魔法庁は魔族の天敵」
ユージがゆっくりと首を縦に振る。
「ユージは『まおーちゃんねる』のリスナー」
ユージは何度も頷く。
「それでいいの?」
ユージは首を傾げる。
「私の『市民税』が増えると魔王の力が蘇る。それって、ユージが魔王の力を復活させていることになるけれど、それでいいのかなと思って」
「いいんじゃないですか?」
「軽い。軽いね。ユージは勇者の息子だし、母親は聖女でしょ、元女神の」
「ええ、まあ」
「利益相反どころの騒ぎじゃないよね」
「まおーちゃんが、魔王ベリアルだってバレなければ問題無いのでは」
「それでいいのか」
「私も、まおーちゃんが、魔王ベリアルだって知ったのは、ついさっきのことですし」
ベリアルは自ら調合した三種混合ドリンクに口をつけた。
見た目は悪いが、不味くはない。
所詮は果糖ブドウ糖液糖の水溶液。
ただひたすらに甘いだだった。
「ひょっとして、お前、ゼロ課みたいな名前の部署に所属していない?」
ユージは不思議そうな顔をした。
「よくわかりましたね。魔法ですか?」
ベリアルは全てを察した。
「これを見てください」
ユージはタブレットを取り出して、魔法庁のデータベースを映した。
ベリアルはタブレットではなく、ユージの顔をまじまじと見る。
「どうしました?」
コンプライアンスとかコンフィデンシャルとか色々気になる。
けれど、それを指摘しようとして、止めた。
この人はそういう人なのだ。
勇者マモルの息子だから風貌は似ているけれど、中身は全く違う現代の勇者。
ならばそれを目いっぱい利用してやろう。
魔王らしく。
「ん、なんでもない」
ベリアルはにっこりと微笑んで、タブレットを覗き込んだ。
『アマテラス製薬製人造依代窃盗事件』
「今、二課がこの事件を捜査しています」
「二課?」
「天界絡みの事件を捜査する部署です」
「へー、これが盗まれた人造依代。確かに、サロメに似てる」
神族は恵まれているな、とベリアルは思う。
相性のよい依代を人間たちが用意してくれる。
魚が陸上で生きられないように、魔族は人間界では生きられない。
依代は魔族にとっての海。
そして、魔素の供給装置。
神族も事情としては同じなのだろう。
「昔は人間の遺体を依代に使っていたらしいのですが」
うん。わかる。
近代化が進んだ社会では、死体はそこらへんに落ちてない。
かといって、適当に依代を作ると、侵略行為とみなされて討伐される。
なかなかにジレンマ。
「今は、倫理的に難しいよね」
「いえ、神族が嫌がるんです」
「え?」
「若い依代がいいって」
傲慢!
魔族よりワガママじゃん。
「それで、人造依代」
「内緒ですよ」
ユージが自分の唇に人差し指を押し当てた。
「魔王ベリアルが本体で、まおーちゃんは依代、ですよね?」
「まあね」
「魔族は何を依代にしているんです?」
「それって、魔法庁のエージェントとして聞いてる? それとも、ユージとして?」
「魔法庁のエージェントとして、です」
絶対、ユージ個人の興味だろ。
まあ、私は優しいから。
「ダンジョンで死んでた冒険者」
「なるほどー、その冒険者に感謝ですね」
こいつ、見た目は勇者なのに、中身は天界のクソ倫理観でできているんだな。
そういえば――
ベリアルは行きがけの様子を思い出した。
車に処された暴漢が呻いているのに、ユージは全く眼中になかった。
あれ、ちょっと不思議だったのだけど、今、理解した。
ユージの世界は、天界と人間界の上層部とネットにしかないんじゃないか。
まあ、いい。
それならそれで利用価値はある。
ベリアルは勢いよく三種混合ドリンクを吸い込んだ。




