魔王、羹(あつもの)に懲りてふーふーする
「え、ホット烏龍茶?」
「混ぜ混ぜするとでも思ったか、愚か者め」
「さっきドリンクバーを見に行った時はまだ悩んでいたじゃないですか」
「ふ、甘いな。悩んでいたのではない、深い読みを入れていたのだ。今の私に負けはない」
テーブルについたベリアルは、温かい烏龍茶を先ずは一口。
「人間界に来て分かったことが三つある」
「それは興味深い、魔王様、お聞かせ願えますか」
ユージは大仰な仕草でお辞儀した。
「砂糖は麻薬」
「ああ、それは分かります」
「そして、人間の体に限界はない」
「どういうことです」
「この体は油断するとすぐに巨大化するのさ。横に」
猫型ロボットがエビドリアとサンドイッチを運んで来た。
『おまたせしましたニャ。点滅している棚から取ってニャ』
受け取りながらベリアルが続ける。
「私は学んだ。しょっぱいに甘いは終わりのない呪い」
「だから烏龍茶」
「いただきます」
ベリアルはスプーンをエビドリアにつっこみ、口一杯に頬張った。
「うぎゃ」
慌てて烏龍茶を飲もうとしたが、これもまだ熱い。
ユージは何も言わず、自分のオレンジジュースを差し出した。
「あっつい」
ユージのオレンジジュースを飲み干したベリアル。
申し訳なさそうに、自分の烏龍茶をユージに差し出した。
*
「ふーーふーー」
「なんで、エビドリアにしたんですか、熱いのに」
ベリアルは必要以上に慎重に掬ったドリアに息を吹きかける。
「だって、家で作らないだろう、ドリアって」
「確かに作りませんね。パスタは作りますけど」
「外でスパゲティー食べるのって、何か負けた気がするのよ」
「何に勝とうとしているんですか」
ユージは烏龍茶を啜った。
これって間接キス? と一瞬だけ思った。
「世間一般の常識とか?」
「普段何を食べてるのか気になります。聞いてもいいですか?」
「あんまり面白くはないと思うけど」
最後の一口を飲み込んだベリアルは紙ナプキンで唇を拭った。
「その前に、おかわりしてくる。ユージは何かいる?」
「えーと、じゃあ、珈琲をホットで」
「オッケー」
ドリンクバーに到着したベリアルは新しいコップを取り出した。
先程はドリアが内包する巨大な熱量に敗北を喫したが、今度はそうはいかない。
ネットで見かけたあの飲み物。
それを再現しなければならない。
まず、コーラを二分の一。
そして乳酸発酵した白濁液を四分の一。
あ、しまった、氷をたっぷり入れないといけないんだった。
クラッシュ氷を入れると、盛んに発砲して吹きこぼれそうになった。
ふう、危ない。
でも想定内。想定内。
最後に、ソフトクリームを乗せて。
完成!
コーラカルピスフロート。
黒く濁った液体に、浮いた乳脂肪が液面で膜上の泡を形成していた。
……なんか思っていたのと違うなぁ。
ベリアルが戻って来ると、ユージは電話中。
ベリアルはユージの前に珈琲を置いた。
「はい、はい、じゃあ、また後で。……僕も愛してるよ」
ユージが電話を切ると、ベリアルがニヤニヤしていた。
「彼女さん? 愛してるって、ヒューヒュー」
「母です」
「あ、お母さん」
「さっき人間界に戻って来たって」
「なーんだ」
ベリアルはキョロキョロして何かを探しているみたいだ。
「お、今度は混ぜて来たんですね」
「三種混合だよ。ねえ、食べかけのドリアは?」
「食べかけ? ドリアの皿なら回収されましたけど」
「何だと!」
急にベリアルが立ち上がった。
「端っこのカリカリ、楽しみにしてたのに!」
店内にベリアルの怒号が響いた。




