Webサロンで講師してそうな顔だから、お前の名前はサロメ
「お前は誰なんだよ」
ベリアルはゲームチェアを台所まで引き出した。
毛布を体に巻きつけたベリアルはまるでイモムシ。
流しの前に陣取って、シンクの中に放り込んだ女の頭に話しかける。
「聖水が出るってことは、神族なんだよな」
聖水は魔族を殺す。
排水溝のぬめりも落とす。
「ぬめりって、文字からして濡れた感がするから不思議」
ベリアルは、菜箸で頭をつつく。
目鼻口耳、顔の中の穴からは聖水の滲出を認めない。
「首のところはどうなってんだ?」
フライ返しで頭を裏返す。
「なんだこれ」
首の切断面は真っ平らな黒い板で覆われていた。
「いや、板じゃないな」
箸でつついてみると、当たり判定がない。
「真の闇だ」
魔界でも真の闇は存在しない。
闇の魔術で生成されたもっとも暗い闇でも、吸収率は99.95%。
「どこまで入るんだ?」
ベリアルは恐る恐る、菜箸を闇の中に差し込んだ。
「え、怖い」
どこまで差し込んでも手応えがない。
「これ、現実世界のバグだろ」
さすがの魔王も怖くなって、15センチで引き返した。
「先っちょは無事だから、一応安全みたいだけど」
ベリアルは吸い込まれそうな闇を見つめた。
この先に何があるのだろう?
裏世界?
「それって、理想的なゴミ箱じゃない?」
聖水の使い道も考えてみた。
「こんなにダラダラ出るなら、集めてフリマで売れそう」
シンクの汚れも落ちるし。
カビ取りにもなる。
メガ女神が送りつけてきたのだから、
「女神様聖水かな?」
ベリアルは恐る恐る聖水にまみれた菜箸の臭いを嗅いでみた。
「ツンとする臭いもないな……ごほ」
鼻の奥が痛い。
やはり魔族には毒のようだ。
薬品の臭いを確かめる時は、直接鼻を近づけず、手で空気を自分の方へあおぐようにして嗅ぐのが正しい。
「気をつけないとな」
さらによく見ると、切断面の際に小さな刻印が幾つか見つかった。
「この三角形は位置合わせ用なのかな」
髪は銀髪のショート。
目の色は青色。
顔立ちは西の世界、北半球にいそうな典型的な美人。
「Webサロンで講師してそうな顔だから、お前の名前はサロメだ」
その時、近付いてくる足音に気付いてベリアルは顔を上げた。
安普請の部屋には廊下の音がよく響く。
「結構かかったな」
ゴン、ゴン、ゴン、ゴン、ゴン。
扉がノックされた。




