第7話「距離」
4月18日
朝は少しだけ暑かった
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教室の窓が開いていた
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風が入っていた
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白石はいつも通りそこにいた
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変わらないように見えた
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でも、周りは少し違っていた
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話す人数が増えていた
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減ることはなかった
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坂本はいつも通り話していた
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「今日さ、体育あるやん」
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黒田がすぐ返す
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「どうでもいい」
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そのやり取りは昨日と同じだった
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でも、その中に白石がいた
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それが違いだった
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授業中
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少しだけ席が近いと気づいた
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昨日より近い気がした
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理由は分からない
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偶然だと思った
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でも、偶然は増えていくと偶然じゃなくなる
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そんなことを少し思った
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昼休み
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白石の周りに人がいた
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坂本
岡崎
黒田
藤井
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同じ場所にいるのに、会話はばらばらだった
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それでも、崩れてはいなかった
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白石は、その中心にいた
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何かをしているわけじゃない
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ただ、そこにいるだけだった
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「お前さ」
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岡崎が言った
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「休日って何してんの?」
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白石は少し考えた
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「家にいることが多いです」
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「へえ」
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それだけで終わった
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坂本がすぐに話題を変えた
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「映画とか見たりせんの?」
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「見ることもあります」
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また、それだけだった
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会話は続く
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でも、深くはならない
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藤井はずっと黙っていた
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時々、白石を見ていた
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でも、話しかけなかった
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その理由は分からなかった
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黒田は途中で言った
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「なんかさ」
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少しだけ間を置く
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「お前、誰とでも同じなんやな」
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その言葉に、少しだけ空気が止まった
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白石は少し考えてから
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「そう見えますか?」
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とだけ言った
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黒田は少し笑った
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「まあな」
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それだけだった
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否定でも肯定でもなかった
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昼休みが終わる頃
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誰も特別なことは言わなかった
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でも、少しだけ残った
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“同じ”という言葉だけ
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放課後
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白石は少し遅れて教室を出た
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廊下にはまだ人がいた
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坂本が誰かと話していた
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黒田はもういなかった
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藤井は窓の外を見ていた
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神谷は教室に残っていた
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一ノ瀬はいなかった
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白石はそのまま歩いた
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誰とも一緒ではなかった
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でも、誰からも離れてもいなかった
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その距離が少しだけ分からなかった
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家に帰った
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今日も特に変わったことはなかった
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でも、少しだけ考えた
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近いのかもしれないと思った
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でも、遠いとも思った
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どちらでもない気がした
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——その距離が、いちばん分からない




