第5話「よく分からない」
4月14日
雨だった
朝からずっと降っていた
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校舎の窓が少し白くなっていた
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教室の空気も、いつもより静かだった
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みんな眠そうだった
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黒田は机に突っ伏していた
坂本は朝からうるさかった
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「雨の日ってテンション下がるよな」
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誰に向けたわけでもなく言っていた
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岡崎は笑っていた
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「お前、毎日同じテンションじゃん」
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それで少しだけ周りが笑った
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白石も笑っていた
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小さくだった
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でも、ちゃんと聞こえた
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その瞬間、坂本が少しだけ嬉しそうだった
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理由は分かる気がした
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誰かを笑わせると、少しだけ安心する
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たぶん、そういうやつなんだと思う
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授業が始まった
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雨の音がずっと聞こえていた
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先生の声より大きかった気がする
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途中で、プリントが配られた
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後ろから前に回すやつだった
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白石のところで、一回止まった
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「はい」
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そう言って、後ろに渡していた
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ただそれだけだった
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でも、少しだけ目がいった
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手が白かった
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変なところを見たと思った
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すぐに前を向いた
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そのあとも授業は続いた
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何も起きていない
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昼休み
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今日は教室に残るやつが多かった
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雨だからだと思う
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坂本がパンを食いながら話していた
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「白石ってさ」
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その言葉で、少しだけ空気が向いた
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「なんか、よく分からんよな」
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黒田が少しだけ笑った
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「何が?」
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「いや、静かなのに普通に喋るし」
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「普通じゃね?」
岡崎が言った
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「いや、そうなんだけどさ」
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坂本は少し考えていた
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「なんか、“壁ある感じ”しない?」
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その言葉で、少しだけ静かになった
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白石は、その時いなかった
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購買に行っていた
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「壁っていうか」
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藤井が珍しく口を開いた
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「距離が一定って感じ」
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全員が少しだけ藤井を見た
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藤井はすぐに黙った
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自分でも驚いたみたいだった
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神谷が、そのあと静かに言った
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「誰に対しても同じだからじゃないか」
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「……あー」
坂本が納得した顔をしていた
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「優しいけど、近くない感じ?」
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「そんな感じ」
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黒田は話に入らなかった
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でも、聞いていた
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岡崎は笑っていた
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「お前ら考えすぎ」
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そう言いながら、少しだけ窓の方を見ていた
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その時、白石が戻ってきた
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会話は自然に止まった
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白石は少しだけ周りを見ていた
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「どうしたの?」
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坂本がすぐ笑った
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「別にー」
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白石は、それ以上聞かなかった
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そのまま席に戻った
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何も変わっていないように見えた
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でも、少しだけ考えた
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もし、今の話を聞いていたら
どう思ったんだろうと思った
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放課後
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雨はまだ降っていた
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傘を持っていないやつもいた
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坂本が騒いでいた
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「うわ、最悪。濡れるやん」
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その横で、白石が少し迷っていた
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傘を見ていた
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一本だった
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黒田は先に帰った
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岡崎もすぐに出ていった
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神谷は教室に残っていた
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藤井はカバンを持ったまま立っていた
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少しだけ空気が止まった
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その時、白石が言った
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「……一緒に入る?」
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坂本が最初に反応した
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「え、いいの?」
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白石は普通に頷いた
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「濡れるし」
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それだけだった
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特別な言い方じゃなかった
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坂本は笑っていた
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「じゃ、お言葉に甘えるわ」
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二人で出ていった
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教室が少し静かになった
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藤井は窓の外を見ていた
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何も言わなかった
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神谷はノートを閉じていた
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その顔が少しだけ難しそうに見えた
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俺も窓の外を見た
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小さい傘だった
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距離が近かった
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でも、白石の表情は変わっていなかった
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いつも通りだった
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その“いつも通り”が、少しだけ分からなくなった
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家に帰った
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雨の音がまだ残っていた
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今日も特に変わったことはなかった
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でも、少しだけ考えた
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坂本が嬉しそうだった理由も
藤井が黙った理由も
神谷が難しい顔をした理由も
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たぶん、全部違う
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白石は、同じだった
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たぶん、本当に普通に傘に入れただけなんだと思う
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それでも——
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——少しだけ、よく分からなかった
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