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第3話「名前」
4月10日
朝、教室に入ると
昨日より少しだけ声が多かった
理由は分かっている
白石がいた
昨日よりも、何人かが話しかけていた
「白石って呼べばいい?」
誰かが聞いていた
「はい」
それだけだった
でも、そのやり取りで少し変わった気がした
“転校生”じゃなくなった
名前になった
坂本はもう普通に話していた
黒田も昨日より近かった
岡崎は笑いながら何か聞いていた
内容は聞こえなかった
一ノ瀬は変わらなかった
見ているのかも分からない
神谷は昨日と同じだった
でも、ノートに何か書いていた
昼休み
白石の周りに、何人か集まっていた
「前の学校どんな感じだった?」
「部活やってた?」
質問は普通だった
白石は、全部ちゃんと答えていた
嘘はなさそうだった
でも、全部同じ温度だった
誰に対しても
放課後
教室を出るとき
少しだけ目が合った
何も話していない
それだけだった
帰り道
坂本が言っていた
「もう普通に馴染んでるな」
「そうだな」と答えた
そのあと、少しだけ考えた
“普通に馴染む”って、なんだろうと思った
家に帰った
今日も特に変わったことはなかった
でも——
——名前で呼ばれると、少しだけ近くなる




