冒険者ギルド
で、でさー、ふと気づいたよ。
冷静なようでバカだな、私。あの納屋の中にも売れる物がなにかあったはず。裸同然で逃げてきて、服を買うお金すらないじゃん!
まー、後悔先に立たず、こんな時は地球のRPGと同じようにするしかないよね? 冒険者ギルドに行って、採取とか簡単なクエストをこなして小銭を稼ぐ、ってことだろうけど、もう夜だしなー、何とかなんのかな?
あたりを見回す、こっちが南だな。北を見ても遠く山が見えるので、ここは盆地かな? フルール、聞いたことがない名前の町だが、建物の佇まいは百年前と大差ないように見える。
地球と違い魔法が支配するこの世界、魔法科学が進歩しても文化への影響は薄いということか。いやーー、異世界、剣と魔法の異世界の町、高層ビルが立ち並んでたらおかしいでしょ? って、ソレ、どこの常識よ?
ああ、あった、あった。剣、盾、杖をデザインした白っぽい看板もまんまだねー
「ごめんください」
木製で鉄のリベットが打ち込まれた扉を押す。
扉から向かって右のボードには所狭しとクエスト依頼の張り紙が貼られている。左側にはいくつか丸テーブルが置かれ、その向こうには酒や食事を供するカウンター、食堂一体型のギルドは田舎町によくあるスタイルだ。
正面の受付カウンターには、エルフ、なぜーーか、エルフの若い受付嬢が、暇そうにしている。私の姿を見るなり、驚いたような視線を浴びせてきた。
これ、彼女はなんに驚いたわけ? もしかして、私の乳を見て「負けた〜、あーーんな小娘に、クッソ」とか思ってる? てか、こんな脂肪の塊、なーーんで、男は珍重するんだろねー、ただただ、邪魔なだけなんですけど。
「あのーー、ちょっと私、お金に困ってまして。何か手頃なクエストはないかと……」
うん? いや、このお姉ちゃん、エルフだし若く見えても千歳とかかもしれない。長年の経験で勘づいたんじゃないかな、私の魔法ポテンシャルに。だってこの目、さもしい女の嫉妬じゃないよ。「純粋な力への畏怖」が感じられる、……気がする。元々、他人の表情を読むのが苦手な私だから、虫のいい解釈かもしれんけど。
とはいえ、受付嬢は丁寧な口調でこう言った。
「あ、ようこそ、フルール冒険者ギルドへ。こちらでは、どんなベテラン冒険者だったとしても、まずはギルド登録をしていただく必要があるのです。まずは、この測定器で……」
ほぅ、私のことをベテランと見做したな。こりゃ、いい傾向だ。
と、その時、いきなり後ろから肩を掴まれた。
「オイ! 姉ちゃん、じゃねーな、お前、ラブドールだな。ならよー、性奴隷にはそれに相応しい仕事ってもんがあるだろ? なーー、銀貨一枚、恵んでやるからよー、そのクッサイ、マ●コに俺のイチモツ入れさせろや」
うーーん、貨幣単位は昔と同じ? 文化経済などが百年前と変わっていないと仮定すると、銀貨一枚は大衆食堂で夕食が食べられる程度。それっぽっちで援交とか、ないわー、ってホ別かな? いや、そこじゃないよねー
と、思ってたら、NPCだったこの子の記憶が突如、私の頭にフラッシュバックした。「痛いと言ってもやめてなんかくれない、ラブドール? そんないいもんじゃない! オ●ホールのように使いまわされるレ●プ、股間を伝わるドロりとした不快で臭い精液……」
「私に触れるな!」
思わず、私は魔法を発動させる。百九十センチはあろうかという大柄な人族、その太い手首が、スパリと切れた。
まーー、ちょっと「助かった」とも言える。本来の私なら、肩を掴まれた時点で、コイツの首を飛ばしているだろう。だけど、前世の反省がそれを思い止まらせたし、この子の記憶も「殺すまでは、しなくていい」と言ってた気がする。
「ウッ、うぎゃやややや!!!! キ、貴様!!!」
コイツなかなか骨のある男らしい、右手を切り落とされながら、左手で剣を掴もうとする。まだ、やるっ、てーのかい!
という非常事態なんだけどさ。冒険者ギルドでは争い事など日常茶飯事、受付嬢も他の冒険者も冷ややかな目で見つめるばかりだ。
「待て、待て、待て」
お、救いの神?
「オレは治癒士だ! その程度の傷ならすぐに直してやるから、ここは俺に預からせてくれ」
三十代前半くらいだろうか、痩せ型でやや鉤鼻なのが気にはなるが概ねイケメン、ブラウンの短髪にアンバーアイ、地球標準でいえばイタリア人風の優男が割って入ってくれた。
素早い動作で回復魔法を唱え、大男の手を元に戻す。どうやら、この優男、ギルドでは顔役なのかな。大男、何の文句も言わない、押し黙ってしまった。
「あのなー、ジェイムズ、この子の格好を見てどう思った? 首に残る隷属の首輪の跡。お前『ラブドール』と言ったな。彼女は本当にそうだったのかもしれない」
「あ、ああ……」
「だが、そうだとしたら、お前は、彼女が、そんな苦海から命からがら逃げてきた、と、なぜ想像しなかった? 彼女がどんな目に遭ってきたのかは、蚤の頭でも想像がつくだろ? 気安く肩など触ったら激怒されるに違いない、となぜ気付かぬ?」
「あ、ああーー。す、すまない」
「それに、お前、何年冒険者やってんだよ! この子のオーラ、とんでもない魔法を秘めてるじゃないか。首が胴体の上に未だ載っている幸せを噛み締めて、今日は帰れ!」
「わ、分かったよー、クロードの兄貴、嬢ちゃんすまなかったな、今日は退散するわ」
手首を落とされた張本人に謝るのか? いや、その考え方は違うな。人族というのは個人差もあるが、真っ黒な悪人などいない、そうでしょ?
人族に限らず、これは全て知的生命体に言えることかもしれない。でも特に、人族という種族は、反省する力、失敗に学ぶ力、思考のフレキシビリティーが高いと思う。
そういうところもあるからさ。この異世界での人族全般を好きにはなれないけれど、人それぞれだって、思うことにしよう。
で、でだー、人族を「他種族」とみなし、思考するってことは、私、自身を獣人だと感じてる? だけど、私は転生者、地球で、私は人族だったわけで。
ああ、そうか、だからこそ、女神様はNPC、PCという譬え話をしたんだろね。
魂という「プレイヤー」が、タンパク質集合体の「人体」を「動かしている」って考えるべきだよね? 今、私は猫獣人の脳で思考してはいるが、思考を司るプログラムは魂由来のものって理屈だ。
だから、私にとっての種族は思考性能において意味を持たない、多分ね。




