戦いの終わり
「ここから先は、二人で行って」
おーーい、ジュリエット、それも死亡フラグだからねー、「この胸、ここがあなたの鞘なのよ」なーんて言っちゃダメだよ?
って、え! なんと彼女は天羽々斬を抜いた。しかも、いつの間にか、もう一振り腰に挿していた脇差も抜く。
あーー、なるほど、彼女の剣はいわゆる居合術、一対一では無敵だが、乱戦には不向きってことだね。
「ほぅ、ジュリエット殿は二天一流の心得もあるのですね。我も勇者を拝命した者、負けてはおれませぬな。魔帝封印には足手纏いになりましょうが、せめて後門はお守りもうそう」
と言って、ヨリミツ・ミナモトは聖剣・鬼切丸を構える。
「この門より先、身命に掛けても行かせぬ!」
キントキ・サカタは鉞、ハルバードを振りかぶった。
「二階の敵は任せとき」
フレイが同時行射で、二階席の敵三人の顳顬にパスパタを突き立てた。
「まったく、ノウキンどもは世話が焼ける。傷ならなんとかするから、くれぐれも死ぬなよー」
「まー、ゆっくり行きましょう」
最後は、ダフィーネ、重力系デバフ魔法持ってたんだ! 敵の動きを鈍らせている。
「さぁ、お行きなされ!」
怪力無双のキントキ・サカタが高さ五メートル、数トンはあろうかという扉を開けた。
「恩にきます」
「ありがとなの」
私とシズクは、魔帝の間へと走り込んだ。
ガシャン
大きな金属音がした。サカタが扉を閉めたのだろう。
目の前に見えるは、オーガ族、赤、青、緑、いろとりどりの巨大な鬼どもだ。魔帝を守るべく、剣を斧を鉄棒を振り回すが、私の敵ではない、瞬く前に、巨大な鬼の首が数十転がる。
あたり一面は血の海と化した。私とシズクは血で滑らないよう、華麗なステップを踏んで奥を目指す。
目につく敵は全て、一瞬の躊躇もなく首を飛ばして進む。
てかさー、魔帝って、昔からそういうヤツなんだよなー、こんだけ配下が死んでて、自分最強なんだよ? 前線に出て戦えばいいじゃん。
だけど、なんだろねー、ラスボスの権威に拘ってるの? ジュスティーヌ女王とは大違いだ。まー、私たちにとっては「そこが狙い目」ってことでもあるけどねー
そして……敵艦見ユ!!
私たちは、ついに、ついに、魔帝の元に辿りついた。
「ほう、お主が、今生のブローか。ふん、兎の次は猫か? ふざけた面構えも、そのままよのー」
魔帝、会うのは百年ぶりだが、昔より小柄になっている。といっても身長約二メートルの均整の取れた体つきだけど。
結構イケメンになった気もするが、漆黒の皮膚と髪、頭には悪魔スタイルの二本角、そこまで黒にこだわらなくてもいいのに、黒装束に黒のマント、黒のブーツときてる。
私は無言で魔帝の首を落とした。
1、2、3
《三秒だね? 間に合う?》
《ちょっと無理なの、せめて五秒》
たった三秒、魔帝は元の姿に戻っていた。
「気が早いのは昔と変わらぬのー、待て、待て、ここは交渉と行こうではないか」
「あー、世界の半分をやるから仲間になれってか」
そう言って、私は、魔帝の首、両手、両足を切った。
1、2、3
やはり三秒。
「いや、朕は、感謝しておるのだよ? お前が前世で朕を殺したからこそ、不老不死の最終スキルを得ることができた」
今度は五センチ角のブロック肉にしてやった。
1、2、3
「無駄、無駄、分かっていよう。ここで朕を足止めしても、時間稼ぎにしかならぬぞ」
「だとしても!」
「ふん、前世でお前たちは、人族に虐げられておったではないか? 恨みを晴らす、それが本懐であろう」
「いーや、違うな。ただただ、復讐に生きる、その虚しさを私は知った。それに、なにより、ここは友がいる、彼ら、彼女らの自由のために、私たちはここにいる!」
「あはは、そのような、書生くさい言葉が、殺しの匠より聞けるとはなー、転生はしてみるものじゃ」
「ちょっと宗旨変えをしたのでね」
「まー、その分じゃと、朕に従う気はないようじゃな。よけろう、ならば、死ね!」
もちろん、これも想定内、魔帝の攻撃はワンパターン、なにもない空間から無数の剣を射ることだ。魔帝の背後の空中に無数の金色に輝く魔法陣ができたと見えた刹那、魔剣の雨が降って来た。
私は、その全てを魔法で粉々に砕いた。意外に少ないな、百か。ついでに魔帝の首を落とす。
「すぐ、次が来るの、気をつけてお姉ちゃん」
魔帝は宝物庫から剣を出しているのでもないようで、魔力の続く限り、いくらでも連射できるはず。
もちろん粉々に、千。
続いて、万。
さらに、十万。
「どうした、避けるのに手いっぱいで、攻撃が疎かになっておるぞ」
こいつ、もしかして……。不老不死のスキルを得たのだから、使える魔力も無尽蔵になったのでは? それ、ヤバくない?
百万。
言われるまでもなく、さすがの私も防御で手一杯になってきた。前に解説したように、私の魔法がゼロ秒というのは比喩的表現で、距離十メートルなら、剣が放たれたという映像が目に届く時間である約33ナノ秒の遅延がある。それに加え、これだけの量の剣は視界に収まりきらない、目を動かす僅かなタイムラグさえ致命傷になりかねない。
一千万。
でもね、魔帝さん、あんたは殺しのプロじゃないね?
そう、殺し屋にとっての猫属性、獲物を痛ぶるサディズムは御法度だ。殺せる時、その瞬間に全力を出さなければ、逆にこっちが殺られる。私、今生は猫だけど、殺しの原理原則、こればっかりは魂に染み付いてるからねー
一億。
くっ、一本、剣が腕を掠めた。血が滴る、鉄の香り。
「お姉ちゃん」
《大丈夫。じゃ、一か八か行くよ!》
《まかせてなの》
十億。
何本かの剣が腕を、足を、頬を掠めるのも構わず、私は再び魔法を使い、魔帝をミンチに変える。そして、間をおかず。
「ライトニング・ストライク!!!!!」
初級雷属性魔法だが、例の指輪アト・リングを使い千年分の詠唱魔力を込めた。一兆ボルト、一億アンペアが、ミンチ君を襲う。
ズズズズ、ガガガガ!!!!!!
目を開けていられぬほどの閃光が走り、電撃の火花が肉片を黒墨に変えた。いやー、ここまでやっても気化しないのか! でも、それは、むしろ好都合。




