一騎打ち再び、三度(みたび)
もう昼の休憩は終わる時間だが、またしても鬼さんが一人、平原中央に出てきた。
「我が名は温羅。我も一騎打ちを所望す」
ちょ、ちょっとー、どうなってるの?
「では、我が」
「ヨリミツ殿、お任せいたします」
あのさー、どいつもこいつも死にたいわけ? どこまで脳筋戦闘バカ集団なんですかねー
温羅というのは二本角の青鬼だ。先ほどの黒鬼のような巨漢ではないが、均整のとれた体つき、背には長刀を差している。
ヨリミツの背にも聖剣鬼切丸、その刃渡りは一メートル近くもある。長刀の場合、太刀は左肩から斜め下に挿す、右手で柄を握って回すように抜いた。
「ヨリミツ・ミナモトと申す。温羅殿、お相手申す」
温羅は上段、ヨリミツは下段、両者二メートルの間合いで対峙する。
「いざ」
「参る」
振り下ろす剣と振り上げる剣、電光石火の火花を散らす! と思ったら、両者、一気に後ろに飛ぶ。足元を狙うヨリミツ、真っ向勝負で面を狙う青鬼。二人は、巧みに交わし、体を入れ替え、再び、対峙する。
キントキVS.黒鬼とは全く違う。あえて打ち合わぬ剣技と剣技の戦い。前者が力と力なら、こちらは技と技といったところだろう。両者、体を入れ替えること七度。ヨリミツが勝負に出た。
青鬼が打ち下ろす長刀に真っ向から聖剣鬼切丸で切り上げる!!
カシャン!!
聖剣の霊力かヨリミツの技量か、平原に鉄の残響が轟き渡り、温羅の太刀は真っ二つに断ち切られた。切られた切先は宙に舞い、今、中天に昇ったB星が眩く照す。
風車の如く、煌めき、円転する剣先を見つめ、刹那、忘我に落ちる青鬼。束の間の好機を決して逃さぬ剣客の匠ヨリミツ。
見よ! 返す刀は飛燕のごとし、その切先が温羅の喉笛を突いた。
うん? 青鬼さん、何か言おうとしてる? 私はピクリ耳を立てた。うーーん、コレ、猫にしか聞こえないよね? 微かに響く、剣豪の鬼、末期の言葉。
「ヨリミツ殿、その名、我が魂に刻もう、無双の手練に敗れるは、武人の本懐なり、我が心の月にかかる雲なし……」
辞世の囁きを残し温羅はどうと平原に倒れた。
って、さすがに、さすがにぃー、終わりだよね? 午後の合戦開始時間でーすーよー
って、私のツッコミは、華麗にスルーされた。
「我が名は、茨木童子、魔帝一の家臣なり、我と一騎打ちを所望するものはおるか!」
おい、おい、おい、ナンバー2でしょ? あのねー、鬼さんたち、こーんな重鎮出していいのかい! って、あーー、そういうことか! 分かった、分かっちゃったよ、私。
「サルジュの方にばかりお任せするわけには参りません。ここは、私が」
「ちょっと待ちなさい! ジュリエット」
まーーねー、ここまでとは思わなかったが、戦闘狂姉妹さん、もうねー、処置なしだわ。「いざとなれば、私がなんとかします」という視線をジュスティーヌに送った。
「分かったわ」
と女王が答えているのに、ジュリエットは、キッとなって私に刺すような視線を向けた。
「スノウさん、何があろうと手出し無用です」
こんな怖いジュリエットは初めて見た。まー、なんでもかんでも、私のチート能力に頼るわけにはいかない、彼女なりの矜持ということなんだろねー、その心意気やよし。
だけどさ、今後、一生、口を聞いてくれなくなっても、私はあなたに死なれちゃ困るんだわな。って思ったけどさ、そんな心配は無用だった。
ジュリエットは動きやすいパンツスタイルだが胸当てすらなく、まさに寸鉄も帯びていない。腰のベルトに何気なーく、新調した日本刀風のレイピア、女王の命名で天羽々斬を挿している。
「我が名はジュリエット・ド・ナヴァール。お相手つかまつる」
茨木童子は身長二メートル五十もある巨漢、戦斧二本を両手に持った二本角の赤鬼だが、巨漢でありながら、全く無駄のない均整のとれた体つき、寸分の隙もない金色に輝く瞳、どこをどう見ても、武において最強の鬼だろう。
それに対峙するジュリエットは、身長一メートル五十そこそこ、少女の幼さを残す面立ち、ブロンドの髪をポニーテールに結んだ姿は、可憐な学園ヒロインそのものだ。
しかし、そこはさー、戦闘民族オーガの持つ直感力なのだろう。囃し立てる者など一人もいない。この少女が内に秘めた剣聖の力量をみんなが一瞬にして理解したんだろね。
あたりは静寂に包まれた。平原のクローバーを嬲る風音がやけに大きく響く。
「参る」
「いざ」
ジュリエットが地を駆る。右へ左へ可憐なステップ、ってアレ? 私がやったヤツじゃん!
一度見ただけで、そのコツまで掴んでみせた天才、剣を持つために生まれ出た彼女はここしばらく、魔獣を狩って憑かれたような廃プレイをしていた。おそらくは、この異世界において比類なき最強剣士に上り詰めたであろうジュリエット。
両者すれ違う。赤鬼が振るう必殺の戦斧は虚しく宙を斬った。
カシャン
ジュリエットが剣を収める鞘なりの音のみが木霊する。猫の視力はいまひとつだけどさ、私ですよ? この私がまったく追えなかった、見えなかった、剣の軌跡は、まさに紫電一閃がごとし。
しばしの静寂、赤鬼、最強の鬼、茨木童子の首がずるり、ずれる。スローモーションのように、そのずれは大きくなっていく。巨大な赤鬼の頭は、音を立てて大地に転がり落ちた。
首級を無くした体から、噴水のような血飛沫が上がる。やがて、赤鬼の逞しい胴であったそれも前にのめり倒れ伏した。
無言、沈黙、が時を止めた。そして……。
再び回り出した世界、法螺貝が吹き鳴らされた。オーガ軍が整然と城に向かって撤退していく。




