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雪待つ花は死の香り〜ノマド転生者の姉妹は幸せになりたい  作者: 里井雪
合戦

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那須与一

 これも、あの女神様の趣味、いんや、性癖かな? 


 サルジュはずいぶんと日本文化と共通点のある国だ。双方が戦死者の片付けなんて、血生臭い作業をしている最中、荷車に高さ二十メートルほどの竹竿を立て……って、だよねー、竿の最頂部に扇の(まと)が括り付けてある。


 平家物語と同んなじ。この異世界の戦争は、血生臭いのに、どこか優雅でもある。殺し合いの合間にエキシビジョンがあるなんて、21世紀のゲーム感覚戦争に比べれば、ずっと、ずっと、「人間らしい」のかもしれない。


「あれを射てみよ、ちゅうこっちゃなー、これは、ウチらエルフ族への挑戦やろ」


 まー、来るわな、フレイが進み出てきた。あまり自らのことを語らぬ彼女だが、どうやらエルフ族の中でも高貴な生まれって、王族とか言ってたっけ、かつ、弓の腕前は族内でも一二を争うらしい。「立候補」は当然、族長の許可を得てるんだろね?


「任せるわ」


 ジュスティーヌ女王、連合軍で暗黙の合意を得た総司令官が「了」と言った。


 フレイは自軍のキャンプから数メートル前に進み出る。愛弓はピナーカなんだとか。地球ではシヴァ神の弓ということになるが決して強弓ではない。馬上などで使う短弓でコンポジットボウの形をしているし、特別な魔道具とも思えない。


 的との距離は優に三百メートルはあるんですが……。屋島の合戦のように海上ではないものの、吹く風に竿はしなり、的は右へ左へ揺れ動いている。


 すっと立った、小兵じゃないな、長身でスマートな肢体のエルフ、黄金の髪が風に靡く、ふっと暝目したフレイは、大きく深呼吸した。


「おおい、エルフの姉ちゃん、そりゃ、無理ってもんじゃねーの」


「どうだい、的を外したら、今度は、俺のデッケー矢をお前に挿してやんよー」


「あはは、そりゃー、いい。だが、コイツのなんかより、俺の矢の方が断然具合がいいぜぇ」


「いんや、俺だ」


 鬼どもが言いたい放題、囃し立てる。


 これも、この異世界の作法なのだ。汚い言葉を吐いて、相手の動揺を誘う、それに耐え平常心を保てる者こそ、賞賛されるべき英雄ということだ。


 激しい敵からのブーイングなど耳に入らぬ、という体で、フレイはピナーカを引き絞る。


ブン


 弓弦が弾ける音を残し、鏑矢は飛ぶ。


シュルルルル


 広き平原に、矢の長鳴りが響き渡る。惚れ惚れするような放物線を描き、矢は扇のど真ん中を射抜いた。


 矢が描いた軌跡を追い、そのあまりの美しさに、一瞬、敵味方、全ての人は言葉を失う。


パチ、パチ……。


 誰かが拍手したのを先途に、両軍から大きな賞賛の声が鳴り響く。フレイは軽い一礼を残し自陣に戻った。


 エキシビジョンマッチが続く。続く? いや、私の記憶では、このうような余興は一回だけのはずだが。


 今度は敵陣から、身長三メートルはあるだろう、雲つくばかりの大鬼が進み出てきた。


「我が名は目一鬼(まひとつおに)なり、一騎打ちを所望す」


 何、考えてるの? ここでやるのは余興だよ? 命のやり取りはしないのが作法なんだけど。


「ここは、我が引き受けよう」


「分かりました」


 巨漢には巨漢、当方からはキントキ・サカタが進み出た。何気なく肩に負うは、戦斧ハルバードというらしい。槍、斧、鉤の一体形からしてそんな感じなのだが、この国で西洋風なのはちょっとお茶目かも。


 両者は平原の中央で対峙した。目一鬼は漆黒の肌に目が一つ角も一つ、寸鉄も帯びぬ軽装だ。手にはキントキと同様、戦斧を構えている。


 対する金太郎さん、人族としては並外れた大男だが、大鬼にくらべれば、頭一つ分くらい低い。相対的には小さく見えてしまうけどね。


 彼も軽装であるが故、その鍛え上げた大胸筋が遠目にも分かる。こんなに立派な体なのに、体脂肪率一桁じゃね? いや、いや、まったく、筋肉フェチなら震いついて、な……、以下、略、ペロペロ。


「キントキ・サカタと申す。いざ」


 両者黙して睨み合う。間合いは三メートルほど。平原に吹く風が埃を舞い上げている。と、その時、赤トンボが一匹、キントキが構えるハルバードの穂先に止まる。が、哀れトンボは、両断されて地に落ちた。ヤッバイ切れ味じゃん!


 風が止み、二人の戦斧が日の光を浴びて眩しく光った。


「参る」


 どちらからともなく、声が上がり、一気に間合いを詰める二人。


ガシャン!


 重量のある鋼と鋼が、火花を散らし打ち合う、大音声が響いた。


ガシャン、ガシャン……。


 打ち合い押し合う二人。鍔迫り合いは十合を数えた。


「ふん!」


 膂力に勝る黒鬼がキントキを弾き飛ばす。踏鞴を踏みつつ、後退するキントキ。両者に二メートルほどの間合いができた。間髪を入れず地を蹴り駆け込むキントキ、黒鬼は、遠心力を生かし戦斧を回すように右から左に大きく横に薙いだ。


 キントキ、これを読んでいた、いや、待っていたのだろう。戦斧の狙いを間一髪で交わし大きく宙に跳んだ!


 走り込んだ勢いがあるとはいえ、あの巨体だ。なのに、まるでバスケットボールの選手がダンクシュートを決めるよう、華麗な跳躍力で空に舞うキントキ。


 黒鬼さんはひとつ目のハンデかな、視野が狭いのだと思う。一瞬、相手を見失ったようだ。


「もらった!」


 大きく振りかぶったハルバードを黒鬼の頭頂部に叩きつけるキントキ! と、見えた瞬間、敵もさる者、瞬時の判断で身を交わした。狙いを逸らされた戦斧は、黒鬼の左肩から先、その腕をざっくりと切り取った。


 流れ出る血潮をものともぜず、一目鬼は残った右手で戦斧を構え、ファイティングポーズを崩さない。


 いやー、猫はさー、やっぱねー、匂うんだなー、ま、でも、どこか慣れっこの血の匂い。いちいち気にしてなんかいないけどねー


 一方、向き直ったキントキは戦斧を下げた。


「雌雄は決した。もうよかろう」


 これ、武士道だねー、剣道で決まり手に小手があるのと同じってことだろう。


「なんの、これしき、かすり傷。幸にして我が利き腕は右」


 オーガもさー、根っからの戦闘狂なんだろね。命尽きるまで、戦って戦って戦いぬくことを是とする種族だったと思う。って、私にゃ、理解できんけど、いろいろ考え方があるのだろう。


「左様か、では」


 キントキは再び両手で戦斧を持ち間合いを詰める。黒鬼の一撃、だが、片手ではいかんせん軽い。これを振り払ったキントキ、黒鬼は大きくバランスを崩した。見計らったキントキは、死の斧をその額に叩きつけた。


バスン!!!


 大きな音を立て、黒男の頭はスイカ割りのスイカのように真っ二つに割れる。


「み、みごと」


 この状態で、辞世の一言が言えるなんて! まー、鬼の生命力恐るべし。目一鬼は、どうと大地に倒れる。真っ赤な血が、平原中央に広がった。

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