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雪待つ花は死の香り〜ノマド転生者の姉妹は幸せになりたい  作者: 里井雪
サルジュ

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進軍

 フヨウからオオエへは約百キロの道のり、こんな大軍、まともに進軍すれば一週間はかかってしまう。かといって、オオエ直近にワープして、いきなり戦闘開始も、どうなんだろ? ちょっとくらい進軍して、サルジュに慣れておく必要もあるんじゃない?


 という考えの落とし所として、先頭を行く私とシズクでゲートを作って進み、ショートカット。夕暮れにはオオエ近くに辿り着き、一旦、リーフに戻る、明朝、日の出を持って開戦、という手筈になっていた。


 サルジュ五千を加えた、リーフ、ザフラ、カマル、サルジュの大連合軍七万五千は、オオエの手前三キロまで迫った。ここで一旦ゲートを開き、リーフに戻る予定だったのだが……。


 先行したサルジュの斥候が戻ってきた。


「た、大変です! 敵、敵が陣形を整え、迎撃の準備をしております」


「陣形だと! どういう意味だ?」


 サルジュの斥候なので、ヨリミツが代表してこれに応じた。


 ここから先、低い丘を越えると猫の額ほどの平地があり、魔帝の城、オオエ城まではオオエ山の麓、すなわち斜傾地が続いているはずだ。だが、どうしたことか、猫の額が四キロメートル四方の平地に拡張されてるんだって。


 さらにその北、どうやって移転したのかは分からないがオオエ城が聳え立ち、その周りには周囲二キロほどの城塞都市ができてるってさ。


 まるで、魔法みたい? いや、まー、なんかの魔法だろねー


 四キロ四方と言えば、平安京くらいの広さということになる。各国からの馳せ参じる魔族を受け入れつつ、城壁を広げ大きな都を作る計画だったのだろう。


 ひとまず整地されたばかりの平原に、私たちを迎え撃つべく、魔族、この場合は、オーガ族を中心とした軍勢が集結しているらしい。


「敵の数は?」


「はっ! およそ一万かと」


「うーーむ」


 人族側からの宣戦布告は、ヨリミツが代表し、今朝方行われたらしい。魔帝は、この展開を予期していたのだろうが、すでに一万もの兵を集めていたとは、ちょっと驚きだ。


「ヨリミツ殿、当てが外れましたね。これからリーフに戻り戦術を練り直す必要はありますが、我々の騎馬隊とザフラ、サルジュの歩兵が先鋒を務めることになりましょう」


 え! って、ことは、ジュスティーヌ、君が一番槍をやるってことにならないか? いや、当てが外れてるんだから、その嬉しそう顔はやめたほうがいいんじゃない?


 まー、私たちの読みが甘かったということだろう。敵は宣戦布告から時を置かずして攻めてくるとは考えておらず、城に籠っての籠城戦を選択し援軍を待つだろうと予想していた。


 すなわち、この大軍は城を包囲し、攻城戦を行う予定だっのですよ。まーー、攻城兵器がないのは、私がいるからだけどねー


 ところが、ところが、敵は私たちの奇襲を読んでおり、ガチの勝負を挑んできた。確かに、当方の予想を大きく上回る一万もの兵を集めているのだから、それでも勝てると踏んだのだろう。


「まー、でしたら好都合、私が一気に片付けますよ」


「それはならぬ!」


 大声を上げたのはカマル王、デーネシュだった。ちょっとー、あんたまで、よくもよくも最前線に。この世界の王様は、みな脳が筋肉でできているようだ。


「これは、我ら人族と同盟するオーク族、エルフ族の戦い、ここで、スノウ殿の手出しは無用。我らが血路を開き、貴君の魔帝封印を助ける、その方針を揺るがせてはならぬ」


「左様、我らの矜持にかけて」


 マモンがこれに呼応する。


「ジュスティーヌ殿、では、先鋒はお任せした。敵の陣形を崩していただいた後は、我々とサルジュ軍にお任せを!」


「シュアー!」


 なんじゃー、なんか、ジュスティーヌ、めっちゃテンション高いんだけど。どうよ、コレ、あーー、彼女ら姉妹揃って、実は戦闘狂なのかもしれないねー、妹ばっかり戦うのは、「ズルイ!」とか思ってんのかな?


 ということで、脳筋バカの王様&女王様たちの即断即決で、リーフに帰るまでもなく、明日の作戦は決した。


 シズクが大ゲートを開け、ものの一時間で、大軍はリーフ国のセキガハラに戻り、一夜を過ごす。


 そして翌朝、払暁の時。


 シズクの大ゲートに、リーフ軍騎馬隊の精鋭千が向かう、続くはマモンを先頭にザフラ、サルジュの歩兵三万、さらに、エルフ族の弓隊、カマルの魔導士部隊と歩兵。


 その後、予備兵、衛生兵、後詰、に混じって、私たち、ジュリエット、フレイ、クロード、ダフィーネ、ヨリミツ、キントキ、この八名が魔帝封印用のデルタフォースということになっている。


 私たちが、決戦の平原に到着した頃、すでに両軍は対峙し、合戦の火蓋が切られようとしていた。


 リーフ軍騎馬隊の先頭はジュスティーヌ! 愛馬ブランシュ=ルボン、その名の通り白馬に跨る女王は、例の胸強調の胸当てだけの軽装備、真紅のマントを翻し、長槍、日本号を構える。


 まー、あれですねー、彼女、前世は、昭和のオタ・ロリ・オッサンだった説が有力になってきましたねー、戦が決まった直後、自身とジュリエット用に武器を新調したらしい。で、自分のは命名「黒田節」ときたもんだ。


「我に続け!!!」


 方陣に構えるオーガの巨漢たち、その真正面に向い、槍のごとく突っ込んで行く、ジュスティーヌ! 彼女の後、一直線となって騎馬隊が続く。


「え、えええええ!!!!」


 雨霰と降り注ぐ矢の雨をものともしないのは、ま、ジュリエットの姉だからなー、スタティック魔法の加護があるのだろう。


ブン!!


 見事な槍術で先頭二名ほど鬼の首を飛ばしたジュスティーヌは、巧みな馬術で右に急旋回する。おーーい、敵前回頭かよー、どんだけ秋山真之好きなんやー、と思ったけど、コレ、上杉謙信じゃん!


 続く、二騎、三騎、すべてが、驚くべき馬術と、槍術の持ち主だった。一糸乱れぬ連携で敵の前面を削っていく。


 一旦、敵の上手(かみて)まで来た騎兵は、円を描くように回り込み、再び敵に突っ込んで行く。いわゆる車懸りの陣、人馬一体の波状攻撃だ。


 瞬く間に、敵の前面が崩れ去る。平原には鬼の首が転がり、濃密な血臭が漂った。


「突撃! 我らも遅れをとるな」


 頃合いを見て、後方に下がる騎馬隊と入れ替わり、三万の歩兵隊が一気に突っ込んだ!


 オーガ、オークいずれも魔族の中では、選りすぐりの戦闘民族。どちらも人族に比べれば巨体だが、オーガの方がオークより一回り大きく、膂力にも秀でている。一対一なら、オーガの方が地力に勝ると言っていいだろう。だが、今回は、他勢に無勢、団体戦が得意なオーク族に部があった。


「逸るな! 一人に三人で当たれ!!!」


 斧や長刀を振り回すオーガの右から左からオーク族、それに連合する、サルジュ兵の槍が襲う。三時間ほどの乱戦の後、A星が天頂に達したその時。


ブオオオオオ!!!


 休戦の法螺貝が吹き鳴らされた。


 この異世界にも「ユス・アド・ベルム(戦争における正義)」、すなわち、慣例としての戦時国際法が存在する。ちゃんと騎士道というものがあるってことだね。


 戦闘は明け方から昼まで、その後、一旦、休戦、負傷兵の手当て、死体の収容と埋葬を行う。一時間後、再び戦い、日暮とともに休戦、を繰り返すというのが作法だ。

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