出陣
この異世界では、百年間、戦争らしき戦争はなかった。だが、それは束の間の幸運、「国際紛争」が未来永劫なくなる、などというのは夢物語だ。だから、各国はそれなりの準備を怠ってはいなかった。ここ、リーフにも国全体から集めれば予備役は相当数いる。
ザフラ侵攻の教訓を生かしたということだろう、もう何か月も前からジュスティーヌ女王は、彼ら全てに招集をかけていた。
首都アネモスに集まったリーフ軍、その数、一万五千、これに冒険者を中心とした傭兵を加え二万、さらにカマル軍が一万、なんといっても精強なザフラ軍四万、って、ザフラはごめんねー、私が結構減らしちゃったよ。
総勢、七万の大部隊だから、当然のことながらアネモスの市街地には入りきらない。そこで、ザフラとの合戦があった北の平原を中心に周りの木を私が切り倒し、一キロ四方くらいの広さに拡張した。
なんかね、「名無しじゃなんだから」とか何とか言って、女王がセキガハラ平原と命名しちゃったんだけどね。まー、あれです、本物の関ヶ原と同じく、オークさんたちの死体が多数埋まってますけどねー
で、私とシズクと仲間たちは、その端っこの方で事前準備をしている。サルジュは日本っぽいところだし、何より、私は長くそこにいた、ワープイメージは十分だと思うんだ。でも、まぁー、万一ってこともあるから、ワープ路を試掘しようか? ってことになっている。大きなワープゲートを開く前に一人用のをシズクに開いてもらった。
もちろん、手を握る念話通信で、私のイメージを伝えつつ、なんだけど。日本の京都でいえば、四条河原町あたりかな? この異世界の鴨川近辺だったら、人家などはないはずだ。
「じゃ、シズク行ってみようか!!」
「うん」
って、あれ? あれれれ!!! まずい、まずい!! 本物の京都にワープしちゃった!!! 私たちは錦市場商店街あたりに立っていた。
ちょっ、なんか、セーラー服姿、って、私らと同じだけど、の集団に囲まれてる、もしかして、もしかしなくても、修学旅行のJCじゃね?
「なに、この子達、コスプレ? やぁだー、可愛いい♪」
ダメ、ダメ、そこはそこはダメ!! 尻尾をモフモフしちゃダメェェェ。
「あーーん♡」
ダ、ダメだって!!
「戻るよ、アン♡、ゲートに、アン♡、と・び・こ・めーーー」
「危ない、危ない、危ない、危うく別の意味で逝く♡、ところだった」
てな、失敗もあったけれど、なんとかかんとか、試掘ゲートを作ることができた。
アネモスに戻った、私とシズク。
「さって、ドカーーンとデカいの開けますか?」
「うん、そうするの!」
って、あのねー、シズク、これ、ここまでデカくてなくてもよくない? 百メートル道路じゃん! 中央分離帯があるわけでもないから十車線はあるな、この広さ。
ゲートを前に、全軍がキャンプを畳んで集結してくる。まー、しっかし、こんな大軍初めて見る、すっごいわー
いったん、集まりきったところで、全軍の先頭には白馬に跨るジュスティーヌ、って、うん? 先頭? 彼女、なに気に馬に乗って鎧まで着てるんだけど!
って、なんだありゃ、あの、思いっきり乳を強調した胸当ては! ジャンヌダルクでも気取ってるんかい! まー、そういうことだったんだなって、彼女の演説聞いて分かったよ。
「この星に住まう人々、知的生命体という意味での我ら人は生まれながらにして自由だ! すなわち、自由とは何者にも侵されざる生得の権利である。妾はこれを蹂躙する魔帝に決して屈しない、この身に流れる血、その最後の一雫まで抗い、戦い抜くことをここに誓う」
ちょーっと、フランス革命の人権宣言なぞってるかな?
「諸君! 今、ここにいる全ての者が死ぬわけではない、だが、諸君のとなりの友は、まもなく起きる大きな戦いで命を落とすかもしれない。死を怖れぬ者などいない。『違う』と答える者がいるのなら、彼はとんでもない嘘つきだ。しかし! 真の英雄とは! 怖れに抗し戦う者のことだ! さー、ここに! 英雄にならんと欲する者はいるか!!」
おおおおおおおおおお!!!!
地鳴りのような鬨の声が上がった。そう、ジュスティーヌは狡猾に計算していた。兵の士気をあげるためには、彼らを死地に飛び込ませるためには、どうすればいいのか? を。
そのために、自ら兵の先頭に立ち、命を懸ける女を演出した。いや、まー、マジモンの「命懸け」じゃなくて「命賭け」。彼女は自分の命をベットして勝負に出たってことだよね? 凄いわ、凄すぎだよ、君は。
進軍が始まった。魔帝の居城オウエは、地球でいうところの大江山連邦あたり。京都市北部でサルジュの人族軍と合流する。
元々サルジュはこの異世界では珍しい魔族と人族が共存共栄している国だった。前世の魔帝が現れた一時期、両者は反目する関係となったが、その魔帝が死んで以降、再び良好な関係を保っていたようだ。
だが、またしても魔帝が降臨した今、オーガ族を中心とする魔族はオオエ城に集結し人族領への侵略を虎視眈々と狙う、という図になっている。
とはいえ、魔帝の復活が広く世界に知れ渡ったのは、ほんの一か月前、アスモデウスの檄文からだ。オオエの戦力は多く見積もっても五千らしい。それを何倍も上回る軍勢で攻めるって、虐殺に近い行為なのだが……。
私とシズクは例によってシュレグに二人乗り、大軍の先頭を行くジュスティーヌに従っていると、サルジュ軍の司令官らしき男が馬を寄せてきた。
「ジュスティーヌ女王様、お初にお目にかかります。我はフヨウ守備隊の頭、ヨリミツ・ミナモトと申します」
「おおお! よくぞ参戦くださった。勇者殿!」
な? 勇者? って、ああ、そうか! このサルジュでは、魔帝の降誕と時を同じくして人族の勇者が選定される、という古来からの慣わしがある。彼は古式に則り選ばれた者なんだろね。
で、ああ、アレ、腰の剣は、なーーんとなく分かる。私をグサリとやった聖剣に違いない。
「あなたが、噂のスノウ殿か?」
「あ、あははは、前世ではその獲物でグサリやられましたから、ついつい見ちゃいました」
「昨日の敵は今日の友、今生での我らは、心を一つにして魔帝を撃つ仲間ではないですか!」
「そうでしたね。失礼しました」
などと話していたら、今度は巨大な芦毛の馬に乗った 益荒男が馬を寄せてきた。いやー、筋骨隆々、立派な大男だねー
「ヨリミツ殿の一の家来、キントキ・サカタと申す。どうかお見知り置きを」
って、金太郎さんだー、だっけど、鉞なんて生やさしいもんじゃない、天頂にあるA星の光を受け、凶悪そうにギラリ輝く戦斧を背負っている。




