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雪待つ花は死の香り〜ノマド転生者の姉妹は幸せになりたい  作者: 里井雪
サルジュ

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束の間の休日

 サルジュに向けての出陣までには、まだ十日以上ある。魔法学園は向こう二か月臨時休校となった。だから、もっと、のんびりすればいいじゃん?


 もしかしたら死ぬかもしれないのだから、会いたい人と会っておくとか、いろいろあるでしょ?


 なのに、ジュリエットをはクッソ真面目、仲間のみんなも、クエストをやりたいと言う。


 わずかでも、ほんのわずかでも実践経験を積みたいと、狂ったように魔獣を狩ってるジュリエット。うーーん、ちょっと心配だなー


 そのあたりは、死んでもやり直しできると分かっている、私たちノマドの民との違いなんだろね。


 てかさー、魔帝の不老不死って、ある意味、呪いだよ? 宇宙船でも開発されない限り、彼はこの異世界から一歩たりとも外に出られず、私たちのような刺客に脅かされ続けるってことでもあるんだし。


 こう考えていくと、私たちの絶対有利は揺るがない!


 どんなに難易度の高いゲームでも、バグがないのなら、必ず、いつかは、クリアできるという理屈だよ?


 ミスってゲームオーバーとなっても、セーブポイントからやり直せる私たちに「負け」など存在しない! って、思えるのも私たちだけ、なんだよねー


 とはいえ、とはいえ、一期一会というものは確かにある。私たちの仲間、奇しき運命の絆に結ばれた人たちとともに、このゲームをクリアできるのは、唯一、この一回限りなのだ。


 もし、次の転生での邂逅を果たせたとしても、彼らには前世の記憶がないかもしれない。同じ姿形をしていても、同じ魂を持っていても、別人になっているのだろう。


 だからこそ、むざと死ぬわけにはいかない。魔帝を封印し生還する。私たちだって、仲間とともに過ごす余生を乞い願っている。って、私、なんだか、随分「人らしく」なっちゃったねー


 そんなことを考えていたので、クエストの帰り道。


「私とシズクはノマドの民、もし今回失敗しても次がある、なので安易に『気持ちは分かる』とは言いづらい。だけど、特にジュリエット、思い詰め過ぎるのは、やはりよくないと思うよ」


「そうなの、そうなの、出陣まで残り二日、ちょっと休憩しよ?」


「お二人の仰ることは重々承知しています。ですが……」


「あーー、めんどいなー、泣いても笑っても、@ニ日、ええやん、そろそろ、ちっとだけ息抜きしよ?」


「そうだなー、体を休めるのも重要だよな」


「クロードもたまにはいいこと言うのね?」


「大丈夫、絶対大丈夫だよ? 私たち二人は女神に選ばれし存在、ということを忘れないでねー」


「分かりました。そうですね、明日はお昼まで寝て、ゆっくりと買い物でもしましょうか?」


「だねー、まず今夜はご馳走をね」


「おう、それは任せろ! よし、ダフィーネ、買い物行くか?」


「ふふ、そうね」


 と言うことで、何気に料理のうまいクロードが豪華な夕食を準備してくれた。


 まずはブイヤベース、カサゴ、ホウボウ、アンコウっぽい魚で出汁をとり、鯛、ヒラメ、オマール海老、ムール貝など、猫大好きな海産物がふんだんに入っている。


 オーブンで焼かれたキッシュ、これ、エスカルゴだよね? こちらのカタツムリは地球の倍はあるかな、随分とデカイ。


 で、まー、猫なんだけど、私、野菜も好きだよ。ナスやズッキーニっぽい夏野菜をトマトっぽいので煮込んだラタトゥイユ。さらにこれでもかっ、ローストターキー。


 多忙を極めるジュスティーヌは、最初の三十分で退席したけれど、白ワイン、あ、コレ、シャスラっぽいよね? 飲みつつ、まー、私はほどほどに、夜遅くまで夕餉は続いた。


 そして翌朝、というか、昼前、まー、今更ながら思うけど、いつも晴れ、いつも夏のこの異世界、水ってどうなってるんだろね? なんか、コレも魔法だよねー、ブランシュ=メゾンの庭には、ダフィーネの趣味かな? ラベンダーが植っている。猫には少々きつめだが、なかなかいい香り。


 六人は連れ立ってフルールの商店街でウィンドショッピングを楽しんだ。久々に着る#地雷系、#量産系装束。シズクがどーしてもお揃いに拘るので、相似形姉妹となってしまった。


 でも、なんだか、この街はのんびりする、その気持ちは、ジュリエットやフレイも同じなんだろね。


 剣も鎧もすべて準備は済んでるし、今日はそんなの見たくもない。みんなでアクセサリー屋を冷やかしていた。


「あ、この青いガラスに描かれた目玉、ナザールボンジュウって言って、地球では厄除けのお守りなんですよー」


「ほーー、これも地球からの転生者が作ったってかい」


「多分ですが」


「じゃ、記念に買いましょう! あ、首から掛けると落としそうだから、あの指輪型がよくないですか?」


「って、そっちは結構高いよ」


「大丈夫! 私奢りますから! あのー、七つください」


 って、ジュスティーヌの分もか!!


「あ! このチョーカー、お姉ちゃんのとそっくりなの」


「ああ、そうだねー」


 相変わらず首の痣だけは消えないので、ずっと赤のリボンと鈴のチョーカーをしている私だが、お揃いを欲するシズクにとっては画竜点睛を欠くってことらしい、ちょっとした不満があったようだ。


 よく似てはいるけれど、この鈴はただの鈴? アレ? 鳴らない? あーー、ロケットになってるのね。


 シズクは満面の笑みを湛えて自分でチョーカーを巻いた。ダフィーネがさりげなく寄り添い、結び目が解けない魔法を掛ける。


「これで、完璧なの」


「シズクちゃんは、本当に、お姉ちゃん、好きなんやなー」


「当然なの。ずっと、ずっと、二人っきりで、いくつもの世界を彷徨い流れて来たのだから。でもね……」


「でも?」


「みんな、この仲間も、もちろん大好きなの、お姉ちゃんと違って、次はないかもしれないけれど、せめて今生は、ずっと一緒にいたいの」


「あーー、そりゃ、もちろん! 俺たちも同じ気持ちさ」


 みんな、大きく頷いた。


 そんな束の間の休日を過ごした私たちだけど、「行く川の流れは絶えず」、時は待ってくれない。とうとう、出陣の朝を迎えた。

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