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雪待つ花は死の香り〜ノマド転生者の姉妹は幸せになりたい  作者: 里井雪
魔帝降臨

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アスモデウス

 ということなのだけど、私にとっては、アスモデウスの得意魔法である光学迷彩により、彼奴の姿が見えないのはとても厄介だ。とにかく「見えて」くれないと、物体からの反射光が目に届かなければ、私は魔法を行使することができない。


 苦手意識が私にあることを承知している彼奴、私が城ごとぶっ壊しに来ると知っていたのだろう。だが、何らかの手段で城を守るでもなく、自らの居城を犠牲にしてまで、私たちを殺そうとしている、ってことだよね?


 いやー、私は彼奴が大嫌い、それは自身に跳ね返る、嫌悪の返報性により、相手も私の死を切に願っている、はずだ。


 前世でも何かにつけて対立していた二人。というか、甘ったるい仕草や声で、男に媚を売るタイプの女、それでいて裏表があり、実は男を道具としてしか見ない女。


 あっさり鼻の下を伸ばす男子と違い、普通の女子である私なら、そーーんなのお見通し、アスモデウスは全女性から敵意の目を向けられる最悪、最低女だよね?


 あーー、話が逸れたけど、彼奴にとっても「媚」という言葉など辞書になく、「女らしくない」私が気に入らなかったのだろう。


 ま、そんなことより、どうやら魔帝にホの字だったらしいアスモデウスは、愛しの君をあっさり殺し、今生でもまた殺そうとしているようなヤツ、普通「生かしておけん」って思うよね?


 だけど、それもこれも、私にはちゃんと冷静に計算ができている。私にとって絶対不利な、この展開になれば、彼奴は「勝った」と思うだろう。宿敵を前にして頭に血が上り、彼奴の判断力に綻びが生じているに違いない。


 ほら来た。


 シズクと手を繋ぎながら、あっさり避ける。彼奴の欠点はさ、男には絶大な誘惑力を発揮するが、女にはからっきしだし、さらに、さらにだ、物理攻撃もあるけど、しょぼい、めっちゃ、しょぼい、毒針のみ、なのですよ、ま、当たれば即死だけど、「当たらなければどうということもない!」


「フフフ、逃げても無駄じゃ、時間はたっぷりとある。お前らが力尽きるまで、なぶり尽くしてやるぞ」


「シズク、ヤバイ、こっちへ」


 焦った感じの演技になってたかなー、誘導を見破られてないかなー、不安もあるけど、私たちにはこの作戦しかない。


「ふふ、端へ端へ、妾が袋小路に追い詰めているのが分からぬのか?」


 バーーカ、それも含めてお見通しなんだよっ!、って、おっし!!!!


 ギャアァァァァァァ!!!!!!!


 あたり一面に血飛沫が舞った! ちゃんと距離を取った私たちに死角はないよ? せっかく新調したセーラー冬服に血が付いては堪んないもんね。


 今まで色欲の魔王であったものの姿は惨めな肉塊となり、十メートル円を朱に染めた。濃密な血と死の香りが一面に漂う。


 アスモデウス、旧約聖書では化け物っぽく描かれているが、彼奴の実体は半人半蛇の艶かしいラミア姿、いうてみれば邪神ちゃんドロ●プキックだねー、胸を髪で隠している放送コードギリギリも同じスタイルだよ? そんだけデカいとさー、ブラしないと垂れてくるよー


 って、すでに、五センチ角のブロック肉になってしまったものに言っても始まらないけどね。もう賢明な読者ならお分かりだと思いますが、私たちは逃げる振りをしてシズクが作ってくれた複雑に捻じくれた空間の罠に誘っていただけなのです。


 シズクはワープさせる際、空間と空間を直接繋ぐのではなく、途中に亜空間を作るようにしている。それなしで空間歪ませたらどうなるか? 頭と胴が別々に十メートル離れた位置へ動く、ってことだよー


「シズク、空間は元通りにしてね」


「分かったの」


「って、あ!!! シズク、声が戻った!!!」


「お姉ちゃん、そんなに強く抱きついたら、魔法が唱えにくい」


「ああ、ごめん、ごめん」


「戻したよー、じゃ、ここに長居は無用だね」


「うん、帰ろう」


 シズクがゲートを作る。もう、私の助けなしでも、彼女自身が軽く詠唱するだけで青い渦が生まれた。次の瞬間、私たちはリーフ王宮の飛龍着地点に戻っていた。


 あれ? なんで、分かったの?


 ジュスティーヌ、ジュリエット、フレイ、クロード、ダフィーネ、みんなが城から走り出てきた。


「おかえり!! 心配したんだから」


「この通り、無事ですよー」


「みなさん、ありがとなの」


「おおおお!! シズクちゃんって、可愛いロリボイスなんだなー」


「クロード、なんか、目が卑猥」


「二人ともおかえり、よかった」


 なんなの、ジュリエット、泣くことないじゃん。


「よかったなー、ほんまに」


 と、みんなを見回し、隙だらけの私にシズクは抱きついてきて、熱きベーゼ。ちょっ、ちょっと、こんな人前で。分かってる、分かってる、今のこの異世界の風習だよね? 分かってるけどさ。


「隙だらけのお姉ちゃんが悪いの。ほんとに、感情、戻ったんだね」


「あーー、シズクの声もね……、よかった」


 潤んだ目でシズクは私を見つめている。あーー、シミュレーションでもなんでも、こんな時、図ったように涙がでくる私、完全に感情が「戻った」と言っていいのかもしれない。


 だけど、アスモデウスがバラバラになった様を見ても、なーーんにも感じなかったけどねー、ま、いい具合の戻り方というか、自己中な戻り方かもしれない。


 という私たちの凱旋を祝う会が当夜に催された。会場はもちろん、ブランシュ=メゾン。七人も座るととっても狭いテーブル、いつものごとく王宮から運ばれた大皿料理が所狭しと並んでいる。


 あーー、これも、ジュスティーヌ女王の計らいだねー


 天ぷらは、キスっぽい白身魚、エビっぽい何か、シイタケっぽいキノコ、ナス、レンコン、サツマイモ、大葉……。出汁につけていただく。もみじおろしまで完備。


 あとは、おーーー、寿司じゃん。巻き寿司はカリフォルニアロールかな? トロっぽい赤みの魚、白身はエンガワ風の味がした、イクラ、ウニなどの軍艦巻き、タコ、イカ……。しかも、肝吸い付き! って、このお寿司は、ウナギの蒲焼味がする!


「すごい! ここまで、よく揃えましたね。ありがとうございます」


「ありがとなの、日本を思い出すの」


「日本とまったく同じ魚がいるわけでもなし、同じ野菜があるわけでもない、似た姿でも味が違うこともある、探すのには苦労したけどね。でも、私だって食べたかったのよ」


「ジュリエット、何怖がってんの? 全然、イケるでー」


「そ、そうですか……、では、一口」


「ほー、これが日本食というヤツか」


「このフリッター、天ぷらというのですね? 衣が独特です。ソイソースは前から知っていましたが、こうやって食べるのは初めてですね」


 なんだかんだ、ワイワイガヤガヤで夜が更けていく。いいなー、いいなー、この感じ。

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