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雪待つ花は死の香り〜ノマド転生者の姉妹は幸せになりたい  作者: 里井雪
魔帝降臨

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北へ

 議論が一段落したところで、私が、再び挙手する。


「ところで、マモン殿、檄文の発信元は、あのアスモデウスで間違いないのですね?」


「知り合いなのか? スノウ殿」


「ええ、前世で奇しき縁がありまして……。相性は最悪でした。彼奴(きゃつ)の香水、その匂いを思い出しただけで吐き気がします」


「ほう、無双を持って鳴るスノウ殿にも、そういう相手がおるのじゃな」


「私にも天敵くらいおります。で、お聞きしたいのは、檄文には魔帝の誕生を彼奴が予見していた、とありますか?」


「うむ、百年前から信じていた、とあるぞ」


「なるほど! これではっきりしましたね。シズクに呪いを掛けたのは彼奴です」


「おお、そういうことか!」


「ならば、準備期間の一ヶ月で、私とシズクはアスモデウスを片付けてきますねー」


《お姉ちゃんからの魔力供給があれば言葉なんて必要ないの》


《バカ! 私たちはミッション遂行のためだけにこの世界に来たのではない。それに……、シズクが一人で魔法を使えれば、リスク低減にもなるはず》


《付け足しの言い訳はいらないよ? ありがとう、お姉ちゃんが昔のお姉ちゃんに戻ったようで、嬉しいの!》


「二人、どうしたの?」


「いえ、なんでもないです。では、ジュスティーヌ女王、我々はセリニとのゲートを開いた後、アスフールを目指します」


 魔法学園からセリニは一日あれば十分だろう。戻って、アスフールまでは約千五百キロ、海岸線を行けば二週間ほどだ。帰りは一瞬なので、一ヶ月あれば余裕だと思う。


「他になにか? ないようですね。では、サルジュ国の魔帝支配地域オオエへの奇襲は十二月七日を期して行う! 人族、魔族、エルフ族……、全ての国の興廃この一戦にあり」


 って、あのねー


「各員一層奮励努力セヨ」


「あーー、スノウ取ったー、一回、言ってみたかったのにぃ」


 みんなキョトンとしている。このネタが分かるのは、昭和の日本経験者のみだろう。って、お前ら、日本人なら『坂の上の雲』くらい読んどけよー、十二月七日もさー、ちゃんと宣戦布告してからやってねー


 ということがあって、一夜が明けた。


 ちなみに、サルジュというのは、この異世界の「日本」と表現するのがいいだろう。地理的に極東の島国だ。百年前にあった魔帝の居城も京都のあたり、こちらの名前でラクヨウだ。


 だから、私がそこをイメージするのは容易い。巨大なゲートを作り、数万の軍を瞬時に送り込む。奇襲なんてもんじゃないし、陽動っていうのも変かも、一般的な戦略ではあり得ない必勝中の必勝パターン、一パーセント有意で勝利できるに違いない。


 だっけどさー


 私たちが魔帝の封印に失敗すれば、完勝も単なる時間稼ぎになってしまうよね。


 で、さー、アスフールについては、私たち、全く土地勘がない。こっちのスウェーデンあたりって言ってもさー、無理にイメージすると、地球のストックホルムに飛んじゃうと思うわけ。なので、また、お気に入りのシュレグを借りることにした。


 まず、初日は魔法学園経由でセリニまで行って、リーフ・ザフラゲートの横、覚えてるかな? あの洞穴の中だよー、リーフ・カマルゲートを開設する。


 翌日、私たちはリーフから北を目指した。ヨーロッパ地図に例えるとパリから海岸に出て、ベルギー、オランダ、ドイツ、デンマーク、スウェーデン、といった旅程になるね。


 夏とはいえ、寒い地域に行くので、私たちの装備も少し変更となった。


 って、これ、ジュスティーヌの趣味じゃね? アイツ、もしかして前世では、ヤーラシイー・ロリコンオヤジだったんじゃないか?


 セーラー服が夏服から冬服に変わっただけなんですが。スカートは相変わらず短くて、ご丁寧に黒スト完備。あのさー、スカジャーでもいいしさ、最近流行りのパンツスタイル制服でよくね?


 てなことなのだが、ドーバー海峡(******)を横目に見ながら、二人乗りで海岸線を行く。セイヨウミヤコグサかな? 黄色い花をちらほら見かけるが、他は分からんよー、名も知らぬ低草が強い海風に嬲られている。


 例によって、駆け足で半日走ったら戻って休憩、また、半日走ってその日は終わり。二週間で、私たちはアスフールの首都オルニスに着いた。


 街の周りには高い壁が聳え立つが、もう何年も手入れがされていないのだろう、あちらこちらが崩れている。その隙間をフリーパスで通った私たちは、街というよりゴーストタウンの中心を目指した。


 そもそも、都という表現すら不適切だったかな。百年前から人望じゃない魔望がなかったアスモデウスだし、付き従う者は僅か。魔帝なき後、なんとか逃げ延びた落人部落って感じだねー、ただし、ただし、城だけ(**)は守りを固めた立派な造りだ。


 城の側までシュレグを進め、ゲートを開いて馬さんは帰した。借り物だし、万一のことがあってはいけない。さってー、深さ、幅、二十メートルほどの深い堀、水面までも十メートルはあるだろう。で、これも三十メートル級の城壁がぐるりと四方を囲んでいる。いやー、堅牢堅牢。


 真ん中にあるドーム状の建物が彼奴の居城、寝所でもあるのだろう。


「シズク、準備はいいかな?」


《任せて、なの》


「行くよ」


 私は思い切った大魔法を行使する。色欲の魔王アスモデウスの居城が五ミリ角立方体の集合に変ずる。


ズズズズガガガ!!!!!


 120dB、飛行機のエンジン音並みの大騒音を立てて、あーー、ちょっともったいなかったな、白亜の大ドームが崩壊していく。


 ものの数分で、城だったものはガレキの山となった。


「逃げろ!」


 私とシズクは街の外、壁の崩目に向かい、ピンポンダッシュがごとく走る、走る、走る!


「貴様ら、よくもよくも!」


 来たな! アスモデウス!


「貴様らの戦術など、このアスモデウスにはお見通しじゃ」


 まー、そりゃ、そう来るよねー、ここまでは計算通りなんだけどねー、私と彼奴、さらに魔帝は、お互い手の内を知り尽くした仲、裏の裏、さらに、その裏、狐と狸の化かし合い、囲碁、将棋、チェス、何手先まで読めるか? って戦いなのだ!

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