矜持
ザフラ王に答える形で、
「カマル王、どうぞ」
おお、王様でも、ちゃーんと、挙手して話すのねー
「マモン殿、その根拠、情報の入手元をお教え願いたい」
おっ、ちゃんと儀礼は尽くすタイプ? 「偉そう」は、ひとまず取り消しとくか。
「アスフールの女王アスモデウスより、檄文が届いておるのじゃ」
アスモデウス! そう来るか、来るよねー、「雌伏、百年、時は満ちたり」ってか。
「なぜ、それを、魔族である貴殿が報告する?」
「我らオーク族は人族との共存を選んだということじゃ」
「ほう、寝返るのか?」
「『寝返る』などという物言いは王といえど不敬ですぞ! 我ら、リーフ、カマルとともに立ち、ともに戦い、ともに死する、と申しておるのじゃ」
「カマル王殿、すでに、リーフ、ザフラは固い盟約を結んでおります」
「ふははははは! なんと! 若き賢王と魔族の王が盟約とな。なんとも長生きはしてみるものじゃなー」
「発言をお許しいただけますか?」
「スノウ、どうぞ」
「カマル王殿、ご心配には及びません。もし、少しでも、彼らに反逆の兆しあらば、この私めがザフラに赴き、国民ともども、皆殺しにして参ります故」
「お主が噂のスノウか! 瞬時に一国を滅ぼす者がここにおるではないか! ならば、案ずることもない。スノウ殿に骨を折っていただき、魔帝とやらを葬りさればよかろうが」
あら? 「噂の」って、この情報、どう考えても学園長からじゃない? まー、うまいことリークしてくれてたようで、クドクド説明せずに済んだけど。
「そうもいかぬのじゃ」
「どういうことか?」
「魔帝は、不死身なのじゃ」
「な、なんだと!」
魔法があり、神も確かな存在として感じられるこの世界、生まれ変わりなんて、当ったり前だよね? 「魔帝はいつか復活するだろう」と、みんな覚悟していたはずだから、アスモデウスの檄文を絵空事だと思う者はいない。だけど、そいつが、不死身っていうのはねー
「ザフラ王を疑うつもりはないが、それは……」
ま、潮時だねー、私は挙手した。
「ザフラ王の言、間違いないと思います。もう、隠し立てする必要はありませんね。私とシズクは、不死身、正確には不老不死を得た魔帝を封ぜよ、と女神アストリアより命じられ、この世界に来ました」
「あーー、最後の秘密は、ソレかー」
「はい、ジュスティーヌ女王。ですが、『どうやって封印するか』は、皆様といえど、お話しするわけにはいきません」
魔帝の弱点は、女神が指摘した通り「不老不死であること」だと思う。
だが、もう一つ、彼には致命的な弱み、まさにアキレス腱がある。彼はこの異世界だけを何度も転生しているに過ぎず、21世紀地球の科学を知らない。
すなわち、彼は宇宙の「有り様」をイメージできず、「宇宙の果てに飛ばす」という作戦の核心に気付いていないはず、多分だけど……。
結局、勝負の分水嶺は彼が私たちの「罠」に気付けず、不意を付くことができるか否かに掛かっている。
「万一、魔帝にその方法が漏れると、これに備えられてしまうと」
「その通りです。ですので、カマル王が仰る通り、ここは、私とシズク、二人で対処いたします」
「スノウ、それは違うと思う。我々も戦うわ。スノウたちの作戦が成功するよう陽動する、という立場で」
「何を仰っているのですか? 魔帝は倒すのではなく封印するのですよ? 我ら二人で密かに近づけばよいだけのこと。わざわざ陽動作戦を行い、無駄に人を死なせる必要などありません」
「専制君主に苦しめられている人々がいたとしましょう。でも、彼らはどこかの国の大統領に暴君を殺しもらいたい、なんて願うかしら?」
「理解できません! 論理の整合性が見えません!」
アレ、なんで、私、こーーんなに激してるの?
「スノウは自由の本来の意味を知ってるかしら? 『好き勝手やること』じゃないわ。自由とは、『自己決定する権利』を得ること。自身で考え、行動し、これに責任を負うこと」
「この世界に住む生きとし生ける者全てが、魔帝から身体的、政治的拘束を受けることを良しとせぬ、という意味ですよね? それは理解しています。しかし……」
「ならば、自己決定権を得たいと欲する者が、自らの手でこれを掴まなずしてどうするの?」
「女王は血で贖わぬ自由などいらぬと、仰るのですか?」
「言っておくけど、特攻隊じゃないのよ? 命は懸ける、でも、死ぬ気など一ミリもないわ」
「ジュスティーヌ女王、さすがじゃな、我がカマルも魔導隊精鋭を含む一万の出兵を約束しよう」
カマル王、デーネシュ・フリードリヒ・フォン・ガヴラスもきっぱりと言う。一万と言えば、今、彼らが準備可能な全兵力ということじゃないかな、ってねー、だけど、ねー
「ザフラは四万じゃ」
「まー、こっちは二人だがなー、俺たちも行くぜ。ヒーラーとバッファはどうあっても必要だろ?」
「クロード……」
「スノウは固く考え過ぎよ、肝心なことを見落としているわ」
「ダフィーネまで……」
続いて、ジュスティーヌが私に止めを刺した。
「あなたらしく、冷静に考えなさいよ。あなた方の作戦は、魔帝と一対一の状況を作った上で、彼奴の不意を突く、そうよね?」
「はい、その通りです」
「ならば、密かに忍んでいくこと、陽動に紛れること、どちらの成功確率が高いと思うわけ?」
《お姉ちゃん、私たちの負けだね?》
《そのようだね》
「女王様、私の負けです」
あーーあ、日本での学生生活、社会人、結構、私、弁は立つほうだった。リベートで負けたのはいつぶりだろ? ってか、違うか、感情が復活した分、論理が曇り出している、のかな。
「ところで、女王様」
「なに、ジュリエット?」
「スノウさんたちの露払いに、私とフレイを加えてもらってもいいですわね?」
「ま、待ちなさい……、それは」
「『命を懸けよ』と兵に命ずる王家が、城に籠って戦の推移を見守るだけですか? 女王様にはお立場あるのは当然ですから、ここは妹の私が」
「OK、OK、ウチも異論ないわ、里にも招集をかけるしなー」
「女王自ら仰ったではないですか? 私も命は懸けますが、死ぬ気など、これっぽっちもありませんから」
「その通りや!」
「はー、分かったわ……」
「ありがたき幸せ」
「では、決行は一ヶ月後でどうでしょうか?」
「うむ、カマルもそれで構わぬぞ」
「ザフラも承った」
《なら、カマル、リーフに大きめの通用路を作るの》
「シズクがカマル・リーフ間に大きいゲートを作ると言っています」
「おおおお! そうしてくれるか! そんなものができれば、戦勝の後、通商路にも使えるのー」
「共通の敵を作る」というのは不人気な為政者がよくやる手口。民衆の怒りの矛先を他に向ける弥縫策だね。すなわち、この異世界において三国に硬い絆、同盟関係ができたのは、魔帝のおかげってこと。
だけど、ならば、私たちが彼の封印に成功した後の世界、未来永劫、魔帝という共通の敵が現れなくなったら、どうなるんだろう。
ま、とはいえ、恐怖で世界を支配し、その全てを自らの所有物と見做すようなヤツが勝つ未来、これだけは、女神に言われずとも阻止すべきだと思う。




