剣術大会
というようなことがありつつ、季節は巡らないけれど、月日は過ぎる。十月に入学式があって、四月になると、学園祭? うーーん、そんな行事はないみたい。
前に話したように、ここは大学っぽい研究機関だし、魔法の実技なんて危険なことはしない。あるとすると、魔法理論の検証実験で、魔法を試すくらい。五角形中央のドーム状施設の本来の目的はそこなんだろうけど、ここを使ったイベントが年一回、四月に行われている。
まー、異世界モノにありがちな剣術大会だ。「実技なかったんじゃぁ?」というツッコミはその通りだけど、大学の教養課程には、体育大学じゃなくても、体育ってあるでしょ? あれと同じ、机に齧り付いて勉強ばっかりも不健康だから、体を動かしましょー、みたいな?
護身術としての剣術を教える授業があって、全生徒の必須科目となっている。魔法ということになると、女性上位のこの異世界、剣術は男性がいいところを見せる唯一の場ってことだね。
とっころがさー、剣聖ジュリエットなんて人がいるんだよ。授業では相手に怪我させないよう配慮している彼女だが、さすがに剣術大会への出場はできない。
彼女ほどではなくとも、剣に炎の魔法をエンチャントなーんて、危険極まりない行為はもちろん禁止だ。
すなわち、ダイナミック、スタティックに限らず魔法は全面禁止、魔道具の使用も禁止、木剣で撃ち合い、頭、首、腹、足の急所にダメージを与えたと看做されれば「勝負あり」となる。
「決闘の時の身のこなしからして、スノウさんの剣術は、相当な腕前だと思うわ。是非、是非、見てみたいの」
《うん、うん、お姉ちゃんのカッコいいところ見たい》
「よっしゃ、決勝で会おうじゃないか」
「おーー、いいね、オレたちも見物に行こうぜー」
「それ、いいわねー お弁当何にしようかしらん?」
「ちょっと、ちょっとー、当人がまだ、いいとも、いやだ、とも言ってないわけで……」
ブランシュ=ネージュの恒例夕食会の際、出場できないジュリエットから話が出て、無用に盛り上がってしまった。
「じゃ、私は出場できないから名代が出ますってことで、学園長に申請しておきますねー」
「いや、出るとは言ってないし……。ちなみに、この大会、優勝賞金ってあるんですか?」
「いや、学校のイベントやし、賞状くらいちゃうの?」
「温泉一泊旅行とか、ないんですか? ニンジンなしの出場とか、ちょっとねー」
そうそう、温泉回、温泉回ですお!
「そういうの、面白そうですね。確か、海の近くに宿泊できる学園施設があったと思います。それも学園長に話しておくことにしましょう」
《海! こちらの世界では行ったことないの!》
「シズクが是非行きたいと言ってるので、まー、そういうことなら……」
おーーー、温泉回ではないけれど、水着回ですなー!!
「あのなー、スノウ、優勝したつもりになっとったらアカンで。ウチかて剣は本格的に学んだことないし。まぁ、それなりに剣術できる男も多いと思うしな」
「あ! 魔道具も禁止でしたよね?」
あああ、これは、私にとってかなりのハンデ戦になる。サポート靴を履くことができず、親指のないバランスが悪い状態で戦わなければならないし、胸もさー、魔法のサイズダウンができないとかなり邪魔になる。
って、あたりを説明したら、話があらぬ方向に。
「そうなんですか! まったく人族の男って、どうしようもないクズばかり」
「いや、待て。オレも人族の男だけど、ヤツらと十波一絡げにしないでくれ! ヤツらは生涯かけて厳しい罰を受けもらってるんだから……」
なーーんて、話となって、あっという間に、試合当日!
試合は参加者二十七人のトーナメント戦となった。私とフレイはシードされたから、どちらかが四回勝てば優勝ということになる。
例のドームに約二十メートル四方、テニスコート二面分くらいの一段高くなった「土俵」が作られており、試合はそこで行われる。
名前を呼ばれたら、選手は西と東からフィールドに上がる、相撲と同じで東は青、西が白、に色分けされたラインで対峙する。
土俵の四隅には魔法の珠が置かれていて、なんらかの魔法発動があったら、これが、赤青、もしくは、赤白に点滅し違反行為を知らせ、その選手は失格となる。
さらに、木剣が相手の急所に当たった、もしくは、これを斬った、と看做されれば、珠は勝者の色に輝く仕組みになってるんだって。
また、押し出されたり、逃げたり、フィールド外に出た場合は失格。両者リングアウトの場合は二人とも失格となるようだ。
まずは二回戦。私は東、青で登場した。
相手は一メートル九十センチくらいだろうか、背が高く鍛え上げた体躯の男性だ。金髪碧眼は、この異世界スタンダードな人族。スラリと刃渡り九十センチの長剣を抜き、青眼に構えている。正統派だねぇー
私の獲物は刃渡り十センチほどのダガー、もちろん木で作られているが、普段愛用しているミゼリコルドと似たようなデザインにしてもらった。
ジュリエットを真似たわけでもないが、抜かず背の鞘に収めたまま。一旦、仕切り線の後ろに飛び退いて距離を取ったら、相手に向かって、左右にフェイントを掛けながら走り出す。
魔法の靴なしはバランスが悪いし、普通のナベシャツじゃ矯正限界もある。でもさー、ここ数日、ちょっと練習して、最速の八割程度には動けるようになったのですよ。
真っ向勝負の鍔迫り合いを想定していた相手は戸惑っている。視線を左右に泳がせながら、どの方向に打ち込めばいいか躊躇い、棒立ちになってしまった。
強引に斬りに来た相手の剣を交わし、すれ違い様に、身を低くした私は相手の足、大腿動脈がある辺りを軽くなでるように斬った。
タンタター、タッタ、タッタ、ター
どこかで聞いたようなファンファーレが流れ、四つの珠が青く明滅した。
ムフフ、変移抜刀●斬り、だよー
続いて三回戦。
今度私は西、白で登場。次の相手は中肉中背のやっぱり男子。うーん、なかなかのイケメンじゃないか。黒い眼、黒い髪はちょっと珍しい。な、なんだとー、二刀流だと! しかも右手の長刀、左に短刀の宮本武蔵スタイル。
すっと、間合いを詰めてくるあたり、かなーーり出来るヤツじゃな。さっきのフェイントは通じないと思われ。だけどさ、左右がダメなら上がある!
地上でバランスが悪かろうが、私は猫だ! 空中動作は十八番なんだなー、飛び上がって宙返り、ふわり背中に降りる瞬間、相手の頭を軽く撫でてやる。
勝負あり!
という具合に、私、順調に準決勝まで勝ち上がったのだけど、次の相手がさー、あーー、コイツ、まだ学園にいたのね。例のマチアス君だった。




