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雪待つ花は死の香り〜ノマド転生者の姉妹は幸せになりたい  作者: 里井雪
平穏ではない日々

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42/61

仲裁

 セージ・メルクーリ学園長が単身、息を切らせて丘を登ってくる。


 彼女のことだ、食堂での大騒ぎを把握していないはずもない。あえて遅れたタイミングで駆けつけたのは、「この結果」を確信していたに違いない。


「ご覧の通り、すでに決着はついております」


「そのようですね。ですが……」


 うん? どうする学園長。


「学園長名にて、ここにいる全員に命じます。今日あったことは決して他言してはなりません。今日の『決闘』は、誰一人、約束の場所に現れず、取りやめとなった。いいですね?」


アハハハハ


 一瞬で彼女の意図を理解した、ジュリエットとフレイ、そして私のユニオンが響いた。そんな、私たちに見向きもせず、学園長は、やっとこお目覚めの浪人者を睨め付けた。


「冒険者さんですか? 学生ごときの私闘に加担したばかりか敗北、このようなことが世間に知られたら、あなたの冒険者人生も終わりですよね?」


「ぐ、ぐぐ」


「誰か、この男に肩を貸してあげなさい。ただちに医務室へ」


「あーー、ニャン♡タマは、修復しちゃダメですからねー」


 スタンガンで昏倒していた助っ人たちもノロノロと起き上がり、浪人を連れて学園に戻って行くが、マチアス君は未だ立ち上がることさえできない。


「そして、マチアス・シュヴァリエ君、学園長命令は理解できましたか? 何もなかった、従って、あなたの大変不名誉な顛末も全て帳消しです、いいですね?」


「は、はい」


「全て忘れると誓約すれば、ご実家への報告もいたしません。ですが……、分かりますね?」


「あのー、私、猫なので、すごく臭うのです。早々に引き上げていただけます?」


「これ、スノウさん、妙な挑発はおやめなさい」


 もはや、侮蔑の言葉すら耳に届かない。やっとのことで立ち上がると、マチアス君は濡れたタイツを気にするでもなく、放心したまま学園の方に歩いて行った。


「学園長、私たち、校則に反することはいたしておりません故」


 念を押すジュリエット姫はさすが、なによりこれはフレイへの気遣いなのだろう。


「反する行為とは? はて、あなた方は、こんなところで何をなされていたのですか? 確かに、ピクニック禁止などという校則は存在いたしません」


「手を焼いておられたのですねー、学園のためにもなって、よかったです」


「スノウさん、先ほどから、一言多いですよ」


 学園長が言った通り、本学園はきっちり政治的中立性を守っているのだろう。ならば王宮からの援助金は、ないか、あっても僅かだと思う。


 授業料や寄付のみが収入源の学園にとって、多額の寄付をしてくれる公爵家は、ありがたい存在。マチアス君が多少の横暴を振るっても、そうそう厳しいことは言えない。


 今回のことはいい薬になった上、彼はやり手学園長に弱みを握られたわけだ。さすがに、にやけ顔はできないだろうが、学園長はホクホクといったところだろう。


「セージ・メルクーリ学園長様、度重なる厚きご配慮、痛み入ります」


 なーーんだ、フレイさん、標準語話せるじゃん。うん? いや、そもそも関西弁に聞こえてるのは、私の脳内認識であって……。って、いかんいかん、礼節は重んじねば、猫だけに。残りの三人もこれに大きく頷いた。


「さて、ピクニックに来ていながら、お昼もまだな四人の方、私がご馳走いたしましょう。着替えて、職員特別食堂へおいでなさい」


「ありがとうございます。では、ご相伴にあずかります」


「では、後ほど」


 メルクーリ学園長は、そう言い残して、スタスタと学園の方に戻って行った。


「まずは、着替えに戻りますかー」


 ちなみに、この異世界には六三制のように法律で決められた教育制度はない。平民向けには寺子屋のような読み書き計算を教える小学校のような私塾、その上に中学校相当の職業訓練校がある。貴族、王族については、家庭教師が主で、魔法学園のような学校はごく稀だ。


 そもそも学園と称してはいるが、研究のついで(***)に生徒を教える学校で、地球の大学に近いわけだが、入学する生徒の年齢は十代後半、高校生といったところだ。とはいえ、この異世界では十五歳で成人だから、大人といえばそうなんだろう。


 って、何が言いたいかと言うと、制服があるんだなー、これ。


 しばらく夏が続くわけで夏服のみだけどねー、ボタンダウンの白い半袖シャツ、臙脂に辛子色レジメのネクタイ、同系デザインで膝上丈のタータンチェックプリーツかパンツを選べる。もちろん、女性がパンツ、男性がスカートを選ぶのもあり。


 でも、さー、こういう格好すると年相応のジュリエットはめっちゃ可愛い、ハリ●ポッター映画のエマ・ワト●ンみたい。一方、年齢は知らないけど、長身でスタイル抜群のフレイはなー、Hなビデオの女優さんを想起してしまわない、でもない。


 というのはさておき、私たちは、学園長が待つ職員特別食堂に向かう。こちら、小ぶりなレストランといった感じの造りだが、奥に特別室がある。「フフフ、お主も悪よのー」みたいなことに使うのかな?


 ノックをして入ると、学園長はコーヒーとBLTサンドらしきものを食していた。四人が着席すると、早々にウエイターが注文をとりにきた。


「どうぞ、自由に注文してくださいな」


「学園長と同じものを四つ。あ、フレイ大丈夫?」


「できましたら、ベーコンとハムはやめて、ツナかサーディンでお願いします。卵は問題ありませんので」


「かしこまりました」


 まー、雑食の猫は基本なんでもOK、人要素があるから塩分も問題なし。兎の時は、ちょっと苦労したけどねー


「さて、改めまして。みなさんにはお礼申し上げます」


「学園の自治を守るというのは大変なことなのですね」


「スノウさん、もー、本音をズバズバと。ま、いいですわ、あなたのそんなところ、大好きですよ」


「文句があるなら、殺す、殺し屋の開き直りですから」


「前世のことまで仰らなくていいですのに」


「口密腹剣、甘い言葉のみを囁く者は信用できません。ですが、学園長の場合、腰に挿した剣をお見せになっております」


「剣が見えるのは、あなた方が、聡過ぎるからでしょう」


「あははは」


「まー、マチアスについては、放校も考えましたが、もう少し様子を見させてください。ですが……、ああー、あなたがたに用心せよなどという警告は無意味でしょうか?」


「あっ! そうだ」


「どうしたの? スノウさん、私たちの腕前、見てたでしょ?」


「そや、そや」


「いえ、用心には用心をと思いまして。フレイも、夜は王宮のジュリエットの寝室で休んだ方がいいかと」


「王宮?」


「あっ、失礼しました。まだ説明していませんでしたね」


 私とジュリエットは、シズクの能力とゲートについて説明した。


「なぁるほど、そんは秘密が奥の部屋に。いや、なー、さすがに言えんかったが、スノウとシズク、使用人の立場があるとはいえ、床で寝てるんか? と心配してたんや」


「スノウさんの言うとおりですので、是非、夜は王宮へお越しください」


「あっ、そうそう、ブランシュ=ネージュへもどうぞ! ついでに冒険者もやっちゃいます?」


「ええな、ええな、こっちで勉強ばっかりやと、腕が鈍るからなー」


「本当に、あなた方ときたら……。ま、いいでしょう、これからもよろしくお願いしますよ」


「はい、もちろんです」


 こういう返答はジュリエットが代表するのです。

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