決闘
そうだ! そうだよ!! エウレカ! エウレカ! 思い出したよー
ずーーっと前に、お宝の中から出てきた「使えない神器」のアト・リング。まー、あれ以来、ただのアクセになってたんだけど、コレ、私の無属性魔力を雷属性に変換してくれるじゃないか。
短剣と組み合わせ、刃の腹の方で叩けば「スタンガンになる」って、言われてたんだった。
みんなに解説する、私。
「私の剣は、姉考案のいわゆる日本刀、背の部分を使い峰打ちも可能なのです」
「うーーん、どうしょうかなー、弓を使うと確実に殺してまうしな、あー、そうや」
さすが森の民ということか。エルフには木の棒を使った護身術があるとフレイは言う。
「えーーっと、荷物の中に……、あった! あった」
フレイが出してきたのは、半分に折りたたんで収納してたのかな、いわゆる六尺棒だった。
「こうやってやなー」
「ちょっ、部屋で振り回したら危ないって」
いやー、杞憂だったわ。長い棒がまるで伸縮しているよう、見事な棒術だ。背も高いし『水滸伝』の豹子頭林冲みたいだねー
だけど、ソレ、ただの木だし、まともに剣を受けたら切れてしまいそう。って、あのねー、人の思考読んじゃう人、多過ぎ。
「大丈夫、大丈夫、これ結構、硬いねん。脳天を思いっきり叩いたら命に関わるから、そっちの方を心配してる」
なーーんでしょうねー、幼さが残る少女、美麗のエルフに猫獣人、全く似つかわしくない会話だが、そのテンションは遠足前夜の子供みたい、決闘前とは思えぬ、のんびりとした夜が過ぎた。
翌朝、寄宿舎の部屋で朝食を済ませた四人は、約束の場所、学園裏にある直径百メートル円ほどの小高い丘に向かった。この丘、特に名前はないようだが、まー、「死闘の丘」くらいにしとく?
ジュリエットとフレイはパンツ姿だが、私とシズクはいつものメイド服、完全に舐めくさった装束にしてみた。
あーー、来てる、来てるねー、普段の取り巻きに増援を呼んだんだね。この異世界の決闘というのは、助太刀自由で一対一の原則はないけれど、三十人くらいいるねー、いくらなんでも多過ぎじゃない?
マチアスは、ププププーー、なーーんと、プレートアーマー着てるぅー、滑稽というか道化というか、笑いを堪えるのに腐心しちゃう私。
彼の鎧はその色とご大層な作りからミスリル製の超高級品だろう。どこか動きがぎこちないというか、着られてる感がかなーり強い。で、その隣に顔に刀疵のある浪人風の男がいる。冒険者でも雇ったのだろう。
「あの、『腕貸しつかまつる』は、ウチが」
「じゃ、その他のモブは私一人で片付けますから、ジュリエット姫はマチアス坊ちゃんに専念を」
「はい! みなさん、よろしくです」
《伏兵はお任せなの》
「マチアス坊っちゃま、随分とお仲間をお連れになったようですが。大丈夫ですか? 震えてますよ? ここにはお隠れになるお母様のスカートもございませんわ」
「きっ、貴っ様ー、いいか! 皆の者、これは正式なる決闘、あの女はリーフの姫だが、殺しても罪には問われぬ」
「ふむ、俺は半殺しにして、美味しくいただくが、よろしいかな? お坊ちゃん」
おい、おい、あのねー、レ●プ魔だけは、私の中にいる愛しのNPCちゃんが許さんよ?
「あのー、フレイ、やっぱり、あの浪人風だけは、首、飛ばしていいですか?」
「いーや、スノウの気持ちは分かるが、その必要はない。任せとけ! ウチにええ考えがある」
「では、ぼちぼち参りましょうか」
と、ジュリエットが言った瞬間、私は約五十メートルを一秒で駆け抜けた。魔法なんて使ってないよ? 靴の補助機能はあるが、猫獣人の運動能力は人族の比ではない。左様、チーターは猫科なのだよ、加速力と俊敏性は兎を超えてるねー
十秒もしないうちに、三十人ほどの助っ人は、泡を吹いて倒れ伏していた。いやー、いつもは魔法で首斬っちゃう私だけど、一応ね、殺し屋なわけで、それなりの訓練はしていたのですよ。ぶっつけ本番だったけど、やればできるもんだねー
あーー、そういえば、遥か昔、剣士だったこともあったかな? 随分、前の転生ターンだったから、記憶曖昧だけどね。
で、まあ、フレイ対浪人、ジュリエット対マチアスのお膳立ては整った。
まずは、フレイ対浪人。ギラリ、長剣を抜く浪人、足を狙うのね? レ●プ目的ミエミエじゃん。クッサー、あの野郎、もう発情してやがる、ゲロゲロ。
フレイが六尺棒を構えた。どこにも無駄な力が入っていない自然体で立ってる。ま、全く心配ないね。
あーーあ、実力差は歴然だから、浪人は殺すつもりで行かないと……、でも、やっぱり足に拘るわけね? 完全に読まれているから、そりゃ、空振りするよ。大きく剣が流れ、体勢が崩れる浪人、そこへフレイは、
うわぁぁ、痛そう! 浪人の股間を下から上へ、渾身の一撃を放った。
グチャ、グチャ
なんだか丸い物が二つ潰れる音がした。
グワァァァァ!!!
股間を押さえ苦しみもがく浪人に、慈悲の一撃だね。フレイは後頭部に手加減した一発を見舞い昏倒させた。
さって、本日のメインイベント!
あっと言う間に仲間が全て倒され、キョロキョロしながら、怯えきってるマチアス君。それでも、背にした長剣を抜いたのは立派、立派。
だっけどさー、剣の重さに耐えかねてるのか、怖いのかは分からないけど、あれじゃ、振り回すことも叶わない。
と、その時、ジュリエットの後ろにこっそり忍び寄る影。いけない! こりゃ、手を斬るか? と思ったら、常に隣にいるシズクが私の手を握る。その伏兵は私の目の前にワープしていた。
「ナイス! シズク」
私はスタンガンで卑怯者を眠らせた。
「ありがとう」
フッ、と笑ったジュリエットが洗練された身のこなしでマチアス君に迫る。
『勝負は鞘の内にあり』
剣聖ジュリエットの真髄は、おそらく姉から教わったのだろう、居合い抜きだ。私の目からは一瞬剣を抜き、二三度振ったように見えた。剣と鎧が重過ぎて回避行動すらとれないマチアス君の後ろへ。
カシャン
剣を鞘に収める音がしたと思ったら。マチアス君の鎧が四分五裂というか、そのバラバラさは雲散霧消と表現した方がいいかもしれない。
この異世界にある物質の中では最も硬い、ダイヤモンドの十倍はあると言われるミスリル、柔軟性も高く、私の魔法のような空間操作でもしなければ普通は斬れない。
そいつを日本刀とはいえ、ただの鉄である剣が斬ってしまう。魔法のサポートがあったとしても、彼女の剣技は賞賛に値するレベルだね。
呆然と立ち尽くすマチアスにジュリエットは追い討ちをかける。
ヒュン
風切り音を残し、彼の首、喉仏のあたりに、ジワリ血が滲んだ。
「次は首を落とします」
まったくの無表情で宣言するジュリエット。
って、あーー、今日は猫の厄日だねー
クッサー、漏らしやがった。鎧の下に履いていた、坊やのタイツに黒いシミが広がる。マチアス君の下には湯気を上げる水たまりができちゃった。
茫然自失、命乞いの言葉もなく、彼は水たまりの中に疼くまっている。
「待ちなさい! お待ちなさい! その決闘、お待ちなさい!」
って、もう終わってるのに……。でも、あーー、そうか!




