女神アストリア
目の前に、見えるが見えない大きな渦。視覚には感じられないが、脳が認識している映像という表現が正しいだろうか? 青黒い何かに私は飲み、飲みーーぃ込まれてぇ、くるくる、きゅるきゅる、いっくぅぅぅ!!
いや、待って、なんだ、コレ? 速いよ、速すぎる、どんどん加速してくんですけどー、ジェットコースターなんて生優しいもんじゃない、耐Gスーツも着ずにFー35で急降下している気分だ。
「木の葉落とし!!」
んなこと言ってる場合じゃない! 気ん持ち悪りぃ、胃からなにか出て……あ゛、私死んだんだっけ?? 幽体に胃なんてないよね?
グゲ、グゲゲゲゲゲゲ!!!!
嘔吐感はあるのに吐けない。イマじゃないわイラよー、太っとい●●●(自主規制)を無理やり喉に突っ込まれた感じ。地獄じゃぁぁぁ! 光速越え急降下の後、私はふわりと、柔らかい地面らしきところに降りた。
「ふぅ、助かった……。と言っていいのかな?」
あたりを見回す。雲一つない青い空、どこまでも、どこまで続く花畑。赤、黄、青、白、名も知らぬ可憐な花が乱れ咲く。遥か遠くに、ギリシャ神殿のような白っぽい建造物が見える。まーー、ココ、ステレオタイプもいいところの天国みたいだねー
体感を思わず言っちゃったけど、私、もしかして光速を超えた? まー、時間が戻ったなんてことはないだろうと思うけど、うーーん。天国は実在したわけで。
よく考えば、あの異世界だって、魔法という21世紀地球の物理法則をナメくさった「仕様」があったんだし。まー、何でもアリっちゃぁそうだよね?
でも、だけど、いずれしても、あのギリシャ神殿みたいなところへ、行くしかなかろう。歩いて? 歩くんだよね。めっちゃ、遠いんですけどー
ふと我に返り、自身を見る、頭の耳を触ってみる、あーー、ひとまず私は兎獣人の形態を保っているようだ。
そもそも、勢いで「オプトイン」してしまったけれど、普通、こういうのって、目の前に神様が現れて、いろいろ特典をくれて、最強になって、みたいな話になるんじゃないの? なんだか胡散臭さが抜けない気持ちを抱え、私はトボトボと丘の上の宮殿を目指して歩き始めた。
だけど、ここはさすが天国なんだねー、うっかり踏んでしまった花も立ち所に再生して元通り。天国というより、どこか仮想空間めいてるな。
あーー、だけど、なんだかいい香りがする。バラや百合のように芳醇ではなく、研ぎ澄まされた甘い香り、敢えて喩えればラベンダーに甘口のカモミールを加えたような芳香。嗅覚まで「騙せる」仮想空間って凄くない? って、ああー、そりゃ神様の技術なんだから当然か。
兎獣人の取り柄といえば走ること、その気になれば人族の世界記録越えすら可能だけれど、なーんだか、やる気なく、ゆーっくり歩いたので、まだまだ時間が掛かると思っていた。
が、豈図らんや、ものの数分で、私は神殿の入り口に到着した。なんだか、ここ、時空が歪んでいるというか、現世とは違う物理法則で成り立っている空間なんだねー、もう、どうでもいいや。
「ごめんください」
でも、マナーはさ、しっりねー、だが、答えはない。もしかして、既に神様は「ただのしかばね」になってる?
「勝手に入ってしまいますよー」
って、この大きな扉、高さ十メートル、幅五メートルのアーチ型の二枚扉、鉄なのかミスリルなのかは知らないけれど金属製に見える。押すの? 押すんだよね。
無理っしょ、動きもしな……、アレ?
いや、音もなく軽ーーく、開いちゃったんですが。そう、そうだよ! ここは、私が知る物理法則の適応されない世界だ! って、さっき思ってたじゃん。
「おじゃましまーす」
あーー、そうだ。私、もう死んだ人なわけで、何を恐れてるの? うん、それもそうだなー
少し歩くと、って、なにもかもが突然過ぎるこの世界、突如、目の前に人形の生物が現れた。髪が長く優しい顔立ちだから女神様かな? 彼女はゆったりとした白いローブを着て椅子に腰掛けていた。
「あ、いらっしゃい」
馴染みのファストフード店員みたいな気安い口調で女神様が声を掛ける。
「えーーっと、あなたがアストリア、さま?」
「そこ、敬称が雑!」
「いや、だって、マ●クの店員みたいですもん」
「あー、スマイルゼロ円ねー、いいわねー、私が見込んだ通り! あなたの、そういうところとってもいいわ♡」
「お褒めいただき恐悦至極にございます」
「私ね、神の権威とかクソクラエって思ってるからさ。だって、そうでしょ? 神が偉い、すなわち万能なら、生きとし生けるもの全てを幸せにできるはず」
「確かに、そのパラドックスはよく聞きますねー」
「おーー、そう来るか! さすが21世紀の地球を知って、地球名『ケンタウルス・アルファ』の惑星に転生した魂だけはある」
「ケンタウルス?」
「ほら、あなたがさっきまでいた地球から見て異世界のことよ。太陽が三つあったでしょ?」
「あーー、ケンタウルス星系に、私いたんだ」
「そう、その通り。察しのいい子は好きよ♡」
「いや、その、私、なーーんとなく分っちゃいました、女神様の企みが」
「ふむ」
「神様は、直接、現世、リアルワールドに手を出せない。すなわち、転生を操り、エージェントを探してこれに代行させる」
「いやいや、君、過ぎたるは及ばざるが如し、長生きできんぞ」
「今までの転生で長生きした覚えはないです」
「ま、君が言うところの、私の企みは図星。そう、君の魔法、時空を操る魔法と妹さんが持っている空間湾曲魔法は、私が思い描くミッションのキーになるってこと」
そこそこ察しはついていたものの、神はさすが神、考えていることが大きい。彼女はどうやら、彼女の愛する星をめちゃくちゃにする魔帝を「何とかしたい」んだそうだ。
だが……。
魔帝の力の根源は、彼が転生を繰り返す度、新たな能力を得てどんどん強くなる「能力」らしい。今回、私が彼を殺したことで、とうとう魔帝は最後の能力である「不老不死」を得たとのこと。
あのねー、不老不死の敵をどうにかしろなんて、ソレ、どんな無理ゲーよ!!!




