魔法学園へ
夜は、六人でブランシュ=メゾンに集合した。テーブルを囲む、六人では確かに狭い。でも、それが、またいい。
しばらくすると、ジュリエットがクローゼットを開けに行く、メイド三人がゲートを超えて現れ、テーブルに大皿料理を持って来た。
「では、私共はこれにて。お食事を終られましたら、お声を掛けてください。片付けに参ります故」
「さーー、食べよう、食べよう、豪華、豪華」
って言うか、コレ、中華料理じゃん。油淋鶏、麻婆豆腐、酢豚、エビチリ、餃子、これでもかっ! と盛られた炒飯、大きな透明のボールには杏仁豆腐のフルーツポンチもある。
「私がレシピを教えて作らせたのよ。スノウ、シズクには、懐かしい料理でしょ?」
「ほう、これが地球の料理ってヤツかい」
「こら、クロード、手で取らない。取り皿配りますからねー」
「あっ、そうそう、こちら、割り箸も作らせたの。使える人はどうぞ」
《女王様、日本を知る友人が来て、とっても、とーーっても、嬉しそうなの》
「だねー、ジュスティーヌ、ありがとう。シズクとはつましい暮らしだったけど、休みの前日は、近所の中華料理店に行って、餃子とビールでしたよー」
「へーー、私はわりと裕福な家庭だったから、中華街の萬珍樓とか行ってたわ。あー、だったら、今度はお寿司かな?」
「お寿司って?」
「サワーライスの上に生魚を載せたり……」
「え! それは、私、パス」
「ジュリエット剣聖にも苦手なものがあるんですねー」
「剣聖ってなんですか! 生魚なんて、生臭くて食べられる気がしません」
「そうでもないのよ、今度、目を瞑って食べてみ?」
物理的な距離がなくなった世界、リモート業務に例えたが、むしろ仕事をしながら夜はMMORPGで遊んでるって感じもする。旅立ち、「別離」というものが存在しないというのは、ありがたくもあり、物足りなくもあり、だねー
ということで、翌朝から、カマルに向けたゲート開通旅行が始まった。そういえば両国の位置関係を説明してなかったね。
ここリーフは、南東にはあの黒い森があり、西は海、魔法学園があるカマルの首都セリニまでは、森を避け北回りに海に出てから海路を大回りするのが普通だが、私たちは直線コース。黒い森を抜け、南に聳える五千メートル級の山々の切れ目、モン・フルカ峠を越えていく予定だ。
魔獣なんぞ瞬殺だし、夜は戻って休めばいいから楽勝の道のり。ジュリエット、シズク、私の三人は、思いっきりの軽装、できるだけ体を軽くして馬の負担を下げ、旅程を稼ごう、という算段だ。
シズクは馬に乗れないので私たちは二人乗りだけど、まー、男性一人分くらいの重さだからねー、速い、速い、二頭の馬は昼前に、目標の五十キロを稼いだ。
《ここがいいかな?》
「なにしてるの? シズク」
《ブレッドクラムを置いてるの》
「ああ! なるほど」
そりゃそうだ。行く場所をイメージするといったって、森の中の風景なんて、どこもかしこも同じようなもの。シズクが命名したらしい「ブレッドクラム魔法」で場所をマーキングしておけば、いつでも正確な位置にゲートが開けるらしい。
一旦、王宮に戻り、昼食を食べて、馬を替える。再び、午後、五十キロ走ったら、王宮に戻る。ジュリエットはそのまま夕食を食べて就寝、私たちはブランシュ=メゾンに帰る、というのを五日繰り返し、次の二日は冒険者クエストだ。
ダンジョン探索のクエストをこなすのだが、いつもの通り、私が先頭に立って、魔獣が出てきたらジュリエットと入れ替わり、私は後方警戒という役割分担をした。
魔族の国へ行った時、「迷惑は掛けない」と言ったのは、強がりではないとは思っていたけれど……。こりゃ、剣技だけみれば姉さんを遥かに凌いでるねー
だけど、彼女の剣技に優れているのは、「女だから」という理由も大きいかな?
この異世界において、魔力は圧倒的に女性上位、大魔導士と呼ばれる者はほぼ全て女だ。動物の性差として、男は力、物理攻防に強く、女は魔法に長けている。すなわち、百メートル走で女子選手が9秒台を出すのは難しいって理屈で、一般には男の方が女より剣術の腕前は上だ。
ただ、剣聖と呼ばれる剣術の最高位ともなれば話は別だ。日々の鍛錬、研鑽では超えられない壁を、スタティックな魔法の力、常時発動しているバフにて、易々と凌駕する者がいる。ジュリエットはその典型だろう。「剣聖」と揶揄ったが、あれ、マジモンだったねー
ということもあり、火力がさらにアップしたブランシュ=ネージュ、最深部のボスは時短優先で、私が首を切って瞬殺することもあるが、それまでの道程はジュリエットの独壇場だ。
昼過ぎにはクエストコンプし、ゲートにて帰還。さらに、攻略済みのダンジョン入り口には、シズクのブレッドクラムを置くことにして、今度行く時はゲートで直行!
そんな超効率パーティプレイは、昔々、日本でプレイしていたネトゲを思い出したよ。カンストした者同士が、さらに強くなるためポイントを集めるパーティ、盾もヒーラーもいない、アタッカーとバッファ、デバッファのみ、みたいな?
なーーんてのを二日、次に五日のつもりだったが、一日は雨が降ったのでお休み。結局、半月後の夕刻、三人は魔法学園の校門前に立っていた。
おおお、さすが、でっかいなー、魔法学園は五角形、五階建ての巨大な建物だった。
校門から向かって右側が教室、研究室施設、左側が職員や生徒の寄宿スペース、真正面の一階、底辺部分が食堂などの共有部分になっていると、ジュリエットが教えてくれた。
「真ん中は?」
「魔法実験に使うようでね」
「なるほど、結界が張ってあるのは、そのためですね」
「分かるんですか? こんな遠くから」
「忘れてないかね? 猫は鼻が効くんだよ」
「臭いでの検知は難しいかと……。『高位の魔導士』なんて言葉は使いたくなかったのですか?」
「あのねー、ジュリエット、そういう大人びたフォロー、しなくていいから」
玄関を入ると五角形底辺部の一階は、これまった巨大なエントランスホール。中央にユグドラシルを模したオブジェ、じゃないな、本物の世界樹が植っている。
「カマルは魔法の国、魔法立国です。この木は、本物の世界樹の枝を挿木したものと聞いています」
うっひゃー、世界樹のクローンね。ソメイヨシノみたいだ。
「って、死んだ人を甦らせるとか?」
「さすがにそれはないらしいですが、あの葉には、薬草の数百倍の治癒効果があるとか」
「ふーん、葉っぱ集めて売るだけでも、結構な財源になりそうだねー」
《まったくお姉ちゃんったら、日本にいた頃と変わってない》
「まー、ねー、安月給だったからねー」
「?」
「あ、シズクとね」
「では、参りましょう、あちら、左の階段を上がった先が、学園長室だと思います」




