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雪待つ花は死の香り〜ノマド転生者の姉妹は幸せになりたい  作者: 里井雪
新たな旅立ち

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36/61

ゲート開通

 翌朝、遠くに聞こえるカッコーの鳴き声で目が覚めた。シズクと二人で一階に降りてみると、クロードがコーヒーを淹れてくれている。


「まだ、ちゃんと買い出しができてないから、パンとコーヒーだけだけどな」


「さ、座って、クロードの取り柄は美味しいコーヒーだけなんだから」


「おい、だけっ、てなんだよ?」


 家族みたい? 暖かい? 分からない、全然理解できない、昨夜からの、この、ふわふわ。ちょっとモヤモヤしつつも、私たちは朝食を終えた。


「さて、シズク、我が家のクローゼット、リフォーム工事、始めますかな?」


「待って、これ、女王様から預かった鍵を確認しないと」


 と、ダフィーネが出したのは、五百円玉大の小さな鍵、当然、魔道の品だ。クローゼットのノブに掛けて施錠すると扉全体に封印が掛かる。


 まー、だけど、封印といっても、そりゃ、爆弾で破壊できないこともない。


 でも、これ、とーっても強力な魔道具で、その封印を破るにはこの鍵の質量と同等のエネルギーが必要となる。ということわー、地球一有名な公式。


 E=mc^2


 エネルギーは質量と同等性があり、質量×光の速さの二乗と等価である。この鍵の重量は約10グラム、1グラムの質量欠損をエネルギーに換算すると、TNT火薬20キロトン相当だから、10グラムで200キロトン。アメリカの核弾頭W88の核出力が最大475キロトンだからさー、分かるよね?


 一旦、鍵を掛け、虹彩認証で四人とも鍵を開けることができるのを確認した。


「じゃ、シズク、手繋ごう」


《うん、なんだか、こうすると心が湧き立つの》


「あはは」


《じゃ、いくね》


 次の瞬間、クローゼットの奥に人一人通れる大きさの青い渦巻きが現れた。


「まず、私から」


 私、シズク、クロード、ダフィーネの順でゲートを通った。


「そろそろ来る頃かと思っていたのよ」


 ジュスティーヌ女王の寝室にある、やっぱり無用にでかいウォークインクローゼットの中で、女王とジュリエット姫が迎えてくれる。


「おかえりなさい、みなさま、魔法学園への旅、楽しみで、楽しみで、ワクワクしながらお待ちしておりました」


 ジュリエットにとっては初めての長旅ということになるのだろう。年相応にはしゃぐのは、気遣いばかりしている彼女にとって、いいことなのかもしれない。


 前言ったように、カマルの魔法学園のイメージ、カマルは地球のイタリアの街に似ているとも聞くが、本当の(***)ローマに飛んでしまう可能性が高い。なので、普通に旅をする、っていうのが、彼女のワクワクでもあるんだろね。


 ただ、旅行といっても、最低限の荷物のみ持って馬で走る、昼になったら王宮に戻り昼食、馬を変える。旅程に戻り夜になったら、ジュリエットは王宮、私たちはダフィーネ命名の「ブランシュ=メゾン」に戻って休む、を繰り返すことにしている。これで、一日百キロ以上の道のりを行くことができるはずだ。


 ここリーフのアネモスからカマルの魔法学園までは約千キロ。計算上、十日の旅程だが、そこまで急ぐ必要もない。休みを挟みつつ、新学期の始まる十月に間に合うように向かえば十分だろう。


 まーー、休みの日に私はクロードたちのクエストを手伝うことになってるから、ただ一人、ブラック勤務なんだけどねー、シズクが気を使って、「私一人でも大丈夫なの」と言っていたが、やっぱりそれはダメ。妥協案としてシズクもブラック同盟に加わり、クエストの時短に協力することになった。


「じゃ、今日は、お昼でも食べてゆっくりしていって、あー、そうそう、夕食のことなんだけど」


「女王様とご一緒するなど畏れ多いですな」


「まったく、クロードは意地悪ね。疲れるのよ、私だってたまには気の置けない仲間とゆっくりしたいわ」


「狭いところですが、ブランシュ=メゾンで会食というのはいかがでしょう?」


「さすが、ダフィーネ、私もそれを提案しようと思ってたの」


「私たちの作る料理でよければ……」


「クロードの料理も悪くはないけど、そこまで手間は掛けさせられないわ。王宮から運ばせようと思うの」


 ジュリエットも来るとして六人、あのテーブル、補助椅子を入れれば座れるくらいの大きさはあるが、王宮の食事なんて、並べられるのか? という私の考えは読まれてる。


「大丈夫、大皿料理って言葉、私、知っていてよ?」


《みんなで、お皿つつくの何だか楽しいの。日本を思い出すね、お姉ちゃん》


 私が通訳し、日本経験者三人は、大いに盛り上がった。


 公務が忙しいらしく、って当然か、例のクーデターからまだ数日しか経っていない。ジュスティーヌはすぐに外したが、ジュリエットを加えた五人は、豪華な昼食と、庭園での紅茶を楽しんだ。


 庭の南側にある八角形のガゼボでアフタヌーンティ、ケーキスタンドには、クッキーが並ぶ、あー、この緑色は抹茶じゃない? それにしもこの紅茶、シャンパンのようないい香りがする。ダージリンかな? それも、ロイヤルコペンハーゲンのような高級茶葉じゃないの?


「この紅茶、葉っぱの長いものでは?」


「あら、よくご存知で」


 と、ジュリエット姫。


《やっぱり、ダージリンだね。お姉ちゃん。そして、このカップ、白磁にブルーオーキッド、グラデーションの感じなんて、マイセンそっくりなの》


「シズクがこのカップ、地球のものとそっくりだと言っています。転生者がデザインしたのでしょうか?」


「そうかもな。女王は当たり前のように言っていたが、もう、こうなってくるとさ、俺にもいろいろ思い当たる節がある。転生者なんて珍しい、とは思わんようになったよ」


「どうして、そう思うのですか? クロードさん。後学のためにお聞かせください」


 ジュリエット、熱心なのはいいけどねー、なんだかなー、ま、女王の妹に生まれた不幸なんだろね。


「うん、この世界の文明、あるいは、常識と考えてもいいだろう。仮に魔法文明と呼ぼう、それに対して物質文明、異質であり、寄って立つ何か? が全く違う。そう、俺たちと大きく異なる思考プロセスを踏む人が多数いるんだ」


「私のように?」


「ああ、もちろん、スノウの斬新な考え方にはとても助かってる。でも、君はこの世界()経験しているから、多少、忖度しているように思う。だが、もっと、明らかに、違和感のある考えを開陳する人がいるんだ」


「クロード、突っ込むけどさ。その論理って、『なんとなくそう感じる』と、どこが違うのよ?」


 さすが、ダフィーネは女、容赦がないなー


「いえいえ、とても参考になりますよ。その違和感の正体は、物質文明、すなわち、魔法がない世界の常識(**)を感じるってことですよね?」


「その通り、いやー、ジュリエット姫は賢いね。姉さん以上だ」


「何を仰いますやら」


「ああ、姉と聞いて思い出しました。彼女には内緒の話なのですが、よろしければ、時々、私をみなさんの冒険者パーティに加えていただけませんか?」


 って! ジュリエットの剣は相当な腕前らしいが、魔獣相手の実戦でさらに技を磨きたいんだって。いい心がけと言えば、そうかもだけど、そんなに急いでどこへ行く?


「姉さん以上の向上心と責任感だなー、だが、くれぐれも無理するなよ」


「うん、私もそう思う。身の危険より、過剰な責任感が心配かな」


「でも、歓迎ってことですよね?」


「まーー、そうだな」


 あのねー、彼女、今は王位継承権第一位よ? 女王に一朝事あらばって人の危険なお願いをあっさりOKするクロードたち。常識に囚われないって、あなた方のことじゃないの? だからこそ、私はこのメンバーが好き、なのかも。

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