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雪待つ花は死の香り〜ノマド転生者の姉妹は幸せになりたい  作者: 里井雪
新たな旅立ち

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35/61

訳あり物件とアリスちゃん

 ポレルさんは店員に店を任せ、内見に付き添ってくれた。


 住宅街にある赤い屋根に白い壁の小さいが瀟洒な建物。二階二間、一階がLDKになっていて、玄関先に小さな庭がついている。まだ、建って十年ほどということで、掃除も行き届き、どの部屋も清潔に見えた。


「三人家族の新婚さんが建てた家なんだが、悪霊の呪いってことなのかねー、旦那さんが奥様とまだ小さかった女の子を殺して自殺する、って事件があってねー」


 21世紀地球の考え方なら、その旦那、麻薬中毒かなんかだったのかもしれない。でも、この異世界では、まとめて「呪い」ということになってしまうみたいだね。


「霊は子供さんだとおもうよ。まだ小さかったから『生きたい』って想いが強く、現世に未練があるんじゃないかねー。夜中に物が動いたり、扉が鳴ったり、するんだよ」


「亡霊については、俺、聖職者ですから、あ、元なー。なんとかしますよ。綺麗な物件だし、是非!!」


「じゃ、即決ってことでいいかい。白金貨十枚で」


 おおおお! 一軒家が一千万、訳ありとはいえ良心的価格だ。


 そして! そして! この異世界は魔法の国だ。物質文明は中世並みだったとしても、魔法の力による各種作業の効率化は凄まじい。


 家具やカーテンを縮小して持ち込めばいいだけ。「溺れる人魚亭」からの荷物運びは、シズクのゲートが大活躍。まさに「魔法のごとく」日暮には四人が住める環境が整った。


 とはいえ、食事を作るまでの買い出しは間に合わず、アリーナへの報告かねて冒険者ギルド併設の食堂で夕食をとることにした。


「シズク、やめといた方がいい、猫にお酒は毒でしかないよ?」


 猫獣人は猫と同様、肝臓でアルコールを分解できないようなのだ。私が以前、少量でベロベロになったのは、そういうことだろう。


《大丈夫なの、なんだか、スーーッと消えていく感じ?》


「そ、それ、無意識に魔法で毒を消してるんじゃ?」


 シズクは片手で顎を撫で、控えめに頷いた。「そうかも」という意味だろう。アセトアルデヒドを空間操作で亜空間にでも飛ばしてる? 分子レベルの小さい単位なら魔力もほとんどいらないって理屈かな?


「すごいわね。シズクさんの能力、引っ越し、とっても助かっちゃったし」


「もちろん、一緒に冒険者やってくれるよな?」


 シズクはにっこり笑って二度、手で胸を叩いた。


「ま、じゃ、そろそろ、新居に戻って寝ますか? 王宮とのゲート開通は明日ってことで」


 一行は新居に戻ってシャワー浴び、二階の部屋にそれぞれ二ペアに別れて入った。


 私とシズクの部屋は殺風景なものだ。明日ゲートにする予定の作り付けクローゼットが一つ、下着と小物を入れる整理ダンス、小さな丸テーブルに椅子が二脚、小型の本棚、他の家具に全く、全然、不釣り合いなダブルベッドが一つだけ。


「さて、寝ようかシズク」


 と言った瞬間、来た、来た、来た、テーブルがガタガタ、続いて椅子、ドア……。


コンコン


 お? これはノックの音。


「どうぞ、クロードさんかな?」


「ああー、いるね、いる、呪縛霊の類かな、サクッと除霊しちゃいますか?」


 と魔法を唱えようとしたクロードの袖をシズクが引いた。


「うん?」


《待って、待って欲しいの。この子を消さないで!!》


「シズク、霊の声が聞こえるの?」


《なんとなく》


「あれ? 微かだけど何か言ってる。これ、私たちにしか聞こえない? クロードさん、ちょっと待って」


「お、OK」


 確かに! 耳をそば立てると、霊は何か話しているような気がする。


「あなたは誰?」


……『あたし? アリスって言うの……、やっぱり、あたし、死んじゃったんだね、一生懸命、ここにいる! って言っても、誰も返事してくれなかったもの』


「うん、私たちは猫獣人、だから、君の小さな声も聞こえるんだ」


……『よかった、嬉しい! お願い、お願いだから、あたしを消さないで、なんとか、なんとかして、ここから出たいの』


 なるほど、まだまだ生きていたいという想いの強い者ほど、霊となってこの世にとどまるケースが多いと聞く。そして、この子はとても聡い、ポルターガイストの力を使って空気を震わせ声にしているに違いない。だから、不明瞭で小さな声しか出せないってことだろう。


《この子、この部屋の呪縛から抜けたいって、ことだよね? だったら、私に考えがあるの》


「私の妹に名案があるらしいの? ねぇ、私たちの提案に乗ってみない?」


……『あたしが、この部屋から外に出れるのなら、どんなことでも!』


 って、言ったはいいが、シズクの名案って何? え? 小さな石ころを拾ってこい? 私は玄関先から、三センチくらいの平べったい丸い石、できるだけ白くて綺麗な石を選んで部屋に戻った。


 隣の部屋でのガタガタに目が覚めたのだろう。ダフィーネも起き出してきた。


「シズク持ってきたよ。はい」


《真ん中をちょっとだけ削ってほしいの》


「うん、了解」


《魔力を、ちょっとだけ、お願い》


 私とシズクは手を繋ぐ。私が削り取った円形のところに青い渦ができた。あーー、なるほど! 彼女は石の中に小さな亜空間を作り、その入り口をこの部屋と結んだってことだろう。


「OK、シズク、分かった! アリスちゃん、この青い渦に入れるかな?」


……『やってみます。あ、入れました』


 シズクは石を持って部屋の外に出る。


……「やりました! できました、見えます! 見えるんです。部屋の中じゃない景色が!!!」


 部屋と繋がっている亜空間を動かしたらどうなるか? 亜空間を外に繋ぎ直した? うーーん、分からん、分からんけど、ま、霊が見えてるって言ってるんだから、亜空間ごと外に出た、すなわち、地縛が解けたってことだよね?


 ってことになったので、私はクロードとダィーネに事の次第を説明した。


「おおお!! それは素晴らしい」


「アリスちゃん、酷い死に方だったんだよね。いくばくかの供養になったかしら」


……「もちろんです。ありがとうございます! どうしても、どう頑張っても、外に出れかなった。私は、もう、この部屋から出られただけで幸せです」


「アリスちゃん、これから、どうするの?」


……「薄々、気付いてはいても、それを認められなかった。だけど、私、もう死んでるんですよね? 自由になれたのだし、私が行くべき所は一つ」


「天国へ?」


……「ええ」


 天国? 待てよ? 霊=魂がこの世に留まる=魂がある=彼女はPCだ、ってことにならないのか? なら、彼女の転生は約束されてるってことだよね?


「多分、アリスちゃんは、天国経由で、新しい生を授かることになると思う」


 私は、アリスちゃんに、「転生システム」を説明した。


……「素晴らしいです! 私、また、やり直せるんですね!!」


「その通り!」


……「では、行きますね! みなさん、ありがとうございました」


「よい転生を!」


《行っちゃったねー》


「って、行っちゃった」「そうみたいね」


 ということが寝入りばなにあったので、深夜になってしまったが、私たちは無事、無駄にでっかいベッドで横になることができた。


 ああ、この事件も女神様絡みなかもしれないねー、「いい家を紹介するから、ついでにこの子を助けろ」だね。


 でもさー、アリスちゃん、よかったなー、また会えるかな? 転生者ってことは、もしかしたら来世で? なんだろ、この、ふわふわっとした気持ち、気持ち? あれ? なに……。


 とまで考えてたら、睡魔が思考を中断させた。

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