女王の誘い
その日の夜、結局、昼食はとれなかっ私たちはシズクの紹介も兼ねて、クロードたちと街にでも繰り出したいところ。だが、もう私たちの面相は、王都中に知れ渡っている。クロードたちの部屋に集合し、食事を運んでもらい、四人でディナーを共にすることになった。
「こっが、シズクさんでいいのかな?」
シズクは、右手の親指を立て、口元に当ててから、前方へ差し出す。日本語の手話なのだけど、まー、なんとなく分かるかな? 「よろしくお願いします」という意味だ。
「シズク、私が通訳するから」
《うん》
「スノウが、そんな優しい目をするなんて、初めてみたかも」
「シズクは、特別中の特別ですから」
「そういや、ジュスティーヌが言ってたな、スノウ、そして、シズクさんもそうなのか、記憶があるのはこの世界だけじゃないって」
黙ってるって言ってたのにー、まーー、いいか。クロードたちを信頼してのことなんだろねー
「別に隠していたわけではないですが、荒唐無稽過ぎて、頭がどうにかなった? と思われるのを恐れていただけです。ですが、その通り、私の言った、前世の記憶があるというのは、転生を繰り返しているという意味です」
「ま、スノウの配慮を、水臭いなどと責めはしないさ。俺、最初、ジュスティーヌから、日本とやらの話を聞いた時、担がれてるに違いない、って思ったからなー」
ふと思うが、転生をした、過去の記憶がある人がPCで、ない人がNPCなのか? 究極的に両者の違いは、それだけ? そもそも自我とはなんなの? まー、ひとまず、「明日、考えよう」。
「ところで、お二人を、ジュスティーヌ女王が、スカウトしたいと言ってるんですか?」
「なぜ、分かる?」
「だって、私の行列に付いてきたじゃないですか? 何かのデモンストレーションかと」
「さすがスノウね。でも、女王がクロードを側近にしたいというのは、ずっと前、教会を破門になった時に申し出があったことよ」
「ま、無職になった元家庭教師に働き口を、ってことだと思うがね」
「それは違うと思いますよ。女王の聡さは異常とも言えるレベル。情報局のトップになれ、とか言われたのでは?」
「なんなんだ、スノウ、どうしてそこまで分かる?」
「彼女が考える最重要ポストですから。将来は妹のジュリエット姫に任せたいなんて言ってたし」
《情報は力よね? 地球知識で》
「シズクも、地球を経験してますから、その重要性が分かると言っています」
「うーーむ」
「地球で思い出しましたが、冒険者と宮廷の職務のダブルワークとか、いかがです?」
「あ! シズクさんの魔法って、転移だったわよね」
《微妙に誤解されているかも……》
「転移というより、二地点間に瞬間移動できるゲートを開く力と言った方がいいかな?」
「なるほど! それはありがたいけどさ、今、彼女は、言葉を失っているようだから、無理をさせるわけにも」
「その点は大丈夫です。私から魔力供給できるようになりましたから」
「ふーーん、あ、二人とも赤くなった」
って、アレ、シズクはいいとして、私「恥ずかしい」と感じた? もしかして、シズクと心が通じたからかな?
待てよ……。
脳梗塞で倒れ運動能力を失った人でも、リハビリを頑張れば、脳の別の部位が機能を代替すると、聞いたことがある。魂の傷が癒えることはなくとも、その「部位」の中で生きている「どこか」が、感情をシミュレーションしてくれるのかな。
シズクと深く通じ合うというのは、彼女の感情をより間近で感じ取れること、それは私にとって、魂のリハビリになっているのかもしれない。
「明日、女王に呼ばれてるから、ま、そん時次第でな」
「って、あーー、スノウさん、シズクさんも同席してって言ってたわ」
「え! ちょっと嫌な予感」
翌日、王宮の大会議室に一同が集められた。二十人ほどが着席できる長方形のテーブル、一番奥に、女王、その隣はジュリエット姫、宰相、近衛師団長、侍従長くらいの顔は分かるが、そのほか、十人を超える重鎮が勢揃いしていた。
「では、今後の方針、危急の課題について」
「ちょ、ちょっと待ってくれ女王様、俺たちは、あんたの臣下じゃないわけで」
「部外者でもないでしょ? 固いこと言わないの、クロード」
「って、あのなー」
「クロード、ジタバタしても始まらない。覚悟を決めなさい」
「まったく、女ってヤツは」
女王の話と議論は多岐に渡った。農地の開拓、灌漑計画、から、司法組織の整備、教会が独占している医療機関問題、そして何より他国とのパワーバランスについて。
魔族から炎の魔石を半値で買い入れられるようになれば、この国の経済は大いに発展するだろう。だが、急速に国力を増した国は、隣国からは脅威と見做される。
全人類が団結して魔帝を討って百年。そろそろ人族各国間の不協和音が聞こえてきてもおかしくはない。これに備え軍備を増強しようにも、やらねばならぬ公共事業が山とある。
「そこで、ジュリエット、あなたは、カマルにある魔法学園に留学してほしい」
カマルはリーフと国境を接する大国、ちょっ! それ、人質ってことだよね?
「スノウ殿、シズク殿、何から何まで申し訳なく思いますが、どうか、彼女の護衛として同行願えないでしょうか?」
あ、こっちは恫喝だね。身分を隠しつつ同行するということだろうけど、そこは腹黒女王、あえて、私の正体をリークする。彼らは爆弾を腹に抱えたってことになるわけか?
「手前勝手な言い草ですが、カマルの魔法学園は世界的な学問の中枢、シズク殿の呪いを解く手がかりを見つけるには、うってつけの場所かと」
ま、毒を食らわば皿までかな? この女王様、やる事成す事、理に適っている。お互い様の親近感、私と同じような論理回路を持っている気もするしねー
《シズク、いい?》
《うん》
「かしこまりました。その任お受けいたします。ただし……」
「おい! おい! スノウ、俺たちのパーティは解散ってことかい!」
「昨夜、シズクの魔法について説明しましたよね?」
「なるほど、スノウ殿は二兎を追うということですか」
「はい。カマルにとっては『私が来た』という事実があればよいはずです。隠しゲートはジュリエット姫の緊急退避用としても使えます。呪いの研究は……、ま、シズクと二人でゆっくりやります故」
「あーー、分かったよ、じゃ、俺も週一でこっちに来るってことで、どうだい?」
「クロードとダィーネからの貴重な助言がもらえるのであれば、否はないわ」
すごいなー、ワープ魔法って、この異世界ではリモート環境と同じじゃない! 場所に囚われず仕事ができるなんて、最高かもしれない。




