紅の姫君
支度を整えた私たち姉妹。
「シズク、無理しなくてもいいよ。君には、耐え難い光景になるのだから」
《だからこそ、一緒に行くの。お姉ちゃんの代わりに私が感じる、そう誓ったから》
「そういう、クソ真面目なところ、変わらないね」
《お姉ちゃん、こそ》
城の階段を降りると、馬車が準備されていたが、カブレオレタイプのものだ。ジュリエットと宰相ギルベルトが控え、クロードとダフィーネは乗馬している。
「ちょっと、どういうことですか? ギルベルト殿」
「本日は、魔族戦の勝利を祝い、その英雄御三方を讃える日、逆賊の処刑は余興に過ぎません」
あ! やられたかな?
姫が国を想う気持ちに偽りはないだろう。だが、「想い」だけで何千万の国民を統治できないことも、賢明な彼女は知っている。威嚇する、武を内外に示すデモンストレーションも、あって当然ってことだ。
私たちがこのお神輿に乗って街を行くのは、戦車やミサイルを国民や他国に見せつける、某国の発想と同じ。軍事パレードをした上で、王を処断しジュスティーヌ姫の絶対的な「力」を示す、ってことだろう。
斬首のことが気になって、そこまで頭が回らなかった私たちは、まんまと新女王のシナリオ通り、道化をやらされるハメになった。
でも、まー、いいんじゃない? 全ての手段は目的により正当化される、姫の考え方に首肯できる面も多い。
「ジュリエットも巻き込まれたの?」
「私が英雄だなんて」
「いや、それは姫、新女王と呼ぶべきかな、の深謀遠慮ですよ。あなたの身の安全を慮ってのことだと思う」
「では、ジュリエット様を真ん中に、左にスノウ様、右にシズク様、お乗りください」
近衛師団長ハグマイヤーを先頭に、近衛師団の精鋭が、私たちの馬車を囲み、クロード、ダフィーネがこれに従う。まー、私でも分かるくらい、クロードは苦虫を噛み潰したような顔をしている。彼らが巻き込まれているということは、新女王から側近になるよう誘われているに違いない。
ゆっくりとした足取りで一行は街を巡った。
「リーフ国、勝利万歳!」
「戦勝の英雄に最上級の感謝と畏敬を!」
サクラなのかマジモンかは判別できないが、この熱気だけは本物だろう。魔族の侵攻を受け、死を覚悟した人々なのだ、その気持ちに嘘偽りはないと思う。
リーフの首都アネモスは大きな街だ、主だった通りを巡るだけでも、五時間を要する。A星が西に傾く頃、一行はコンコルド広場に到着した。
周りからよく見えるよう、高さ十メートルほどもある木の台座が設えられている。一行の到着を待ち構えていたように、ジュスティーヌが台座に登ってきた。いつもの白いロングドレス姿だが帯剣している。日本刀のような細身の剣、刃渡りは二尺三寸、七十センチほどだろう。
ジュリエットの剣もそうだが、この国の剣はレイピアという名でも突くだけではい。日本刀のように片刃で、斬れるようになっている。って言うのは、女王の趣味かな?
やがて、二人の兵士に抱えられ、王が引き出されてきた。何か言っているようだが、猿轡をかまされ言葉になっていない。
台座中央に板が立っている。半円に開いた窪みに暴れる王は首と両腕を押し込まれ、上から差し込まれた板によって固定された。上下の板に関貫がかけられる。
「我が民よ、目出度い戦勝の日を血で汚すことをどうか許してほしい。ここにいるは、魔族と通牒し、国を滅さんとした大罪人、我が父なれど、いや、我が父ならばこそ、妾は自らこれを処断する。これをもって、我が命、我が魂の全ては、リーフに捧ぐ誓いとなす。刮目して見よ!」
ざわめいていた大群衆が須臾の沈黙に包まれた。姫は剣を抜き、大きく上段に構える、その鋒は沈みゆくA星、これに従うB星、二つの太陽に照らされ、黄金色に輝いている。
剣が天空を指す、その時! 一切の躊躇なく、姫はこれを振り下ろした。
バサッ!!!!
濡れタオルを叩くような音がして、元王、アンリ・ド・ナヴァールの首はお辞儀をするよう前に落ちる。すごい! 姫の剣術は大したものだ。力任せに首を斬れば、転がり飛んで、みっともない様を晒す。首皮一枚残し抱き首にする技は、日本に古来より伝わる切腹の介錯に通ずる。
落ちた首の髪を掴んだ姫はこれを高々と掲げた。
「我が覚悟、我が誓い、今ここに!」
うわぁぁぁぁ!!!!!!
地鳴りのような歓声が上がる。それを待つようにして、まー、コイツらもグル、教会の教皇かな、が王冠を携えやってきて、姫に被せた。
「新女王ジュスティーヌ・ド・ナヴァールに栄光あれ!」「女王様、万歳!!!」
芝居がかった演出なのだけど、いや、むしろであるが故、民衆は高揚し、ありていに言えば、まんまと騙されるんだろねー、ってか、騙された振りをしていれば、平和な毎日が保障される、ということも彼らは直感的に感じているのかもしれない。
王であった者の首から滴り落ちる血の雨は、姫のドレスを真紅に染め上げた。全国民の畏怖を一身に集めた苛烈なる賢王、ジュスティーヌ女王は、後に、紅姫という二つ名で呼ばれることとなる。
台座近くの特等席で見ていたジュリエットは蒼白になっている。シズク、大丈夫かな?
《PTSDって言ったっけ、私は大丈夫だから、だって今までの転生で、何度も何度も、もっともっと酷い目にあってきたもの》
《ああ、そうだったね。うん、今回こそは、私たち幸せになろう》
《幸せなんて人それぞれ、私はお姉ちゃんと二人一緒に暮らせるなら、それ以上何もいらない。それよりジュリエットさんを》
私はジュリエット姫の肩を抱き寄せた。
「ありがとうございます。姉はあんなにも気丈に役目を果たしているのに、私ったら、情けない限りです」
「そんなことはない。あれを見て平静でいられる人などおりません。ですが今夜は、ジュスティーヌ女王を気遣ってあげてください」
「分かりました。私はもう大丈夫。自分の成すべきことを成します」
キッと唇を噛み、そう言い放つまだまだ幼いジュリエット姫、姉妹揃ってとんでもない傑物なんだろうねー




