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雪待つ花は死の香り〜ノマド転生者の姉妹は幸せになりたい  作者: 里井雪
愚王の末路

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魔力供給

 その夜、例のバカでかい部屋のバカでかいベッド、全然余るのでシズクと二人で寝ることにする。夕食は部屋まで運ばれてきた。


 これは、おそらく日本からの転生者である姫の気遣い。疲れた体をいたわる料理ってことじゃないかな。この異世界に来て初めて見る「丼」にはフォーかな? 米粉から作ったと思しき麺類、そして生春巻き。野菜中心で疲れた胃にも優しいベトナム料理が振る舞われた。パクチーっぽい葉っぱの香りも芳しい。


「あのお姫様、気が利くねー」


《うん、地球で暮らしていた頃、思い出すかも、なの》


「だねー、休みの日には、よく外食したっけ」


《あー、あの、カエルさん?》


「うん、なんとかフロッグ。名前忘れちゃった。あの姫は日本からの転生者って言ってたから覚えてるかも。今度、聞いてみよ?」


《そっかー、そんな前世があるのに、あの重責、大変だと思うの》


 ジュスティーヌ姫が処刑を行う、と言ったのは、おそらく国民の目を意識してのこと。民に不利益な(まつりごと)をなす者は、たとえ王、実父であっても赦しはしない、断固として処断する。国民に向けてのパフォーマンスなんだろね。


 だが、概ね平和だった日本を経験していればなおのこと、血生臭い行いは大いなるストレスだろう。彼女は、家臣を、民を、思い、行動し、その責務を全うしようとしている。彼女の前世は英傑ともいえる人物だったのかもしれない。


「感情なんて無用の長物がある人は大変なんだろねー、王の首を落とすくらい、私が代わってあげてもいいのに」


《またお姉ちゃんの悪い癖、常に自分より他人を優先する。でも、そういうお姉ちゃん、尊敬してるし、大好きだよ》


「どんなことでも、シズクに褒めてもらえるのは、きっと、嬉しいことなんだろね。ありがと。じゃ、シャワー浴びて、寝ようか?」


《うん、お姉ちゃん、お先にどうぞ》


 シャワーを終えて、ベッドの端に腰掛けていると、シズクが隣に来た。


《ねー、私もお姉ちゃんとお揃いの服がいいなー》


「いや、アレ魔道具でもあり、高性能だから致し方なく着ているけど、知ってるよね? 昔、地球で流行った、ブヒブヒオタクを狙いすましたかのような、あのアニメ」


《うん、少し記憶はあるけど、今は、「お揃いがいい」って気持ちが一番なの、きっと転生の記憶って徐々に失われていくのかも? でも、私がお姉ちゃんのことを慕い、愛おしい、と思う気持ちは変わらないよ。大好き、お姉ちゃん》


 キスが来た。


 そうか! 外見的にはほぼ瓜二つの私とシズクだが、彼女は「生まれた時から」この異世界にいる。一方、私は、つい最近、NPCに憑依する形で、ここに来た。すなわち、シズクの価値観や倫理観というものは、どっぷりこの異世界に浸かっている。


「あっそうだ! シズク、足、足の指、親指見せて!」


《変なの?》


 シャワー上がりで、スリッパを脱いだシズクの両足には、ちゃんと親指があった。よかった……、だけど、もう私も隠してはいられない。


《あああああああああ!!!》


「うん、脱出防止のためだと思う。でも、この魔道具の靴は高性能だから……」


《その、大きな胸も、そういうことよね》


「ヒャン!」


 あーー、なんてこと。私の体は性奴隷として改造されていたことが明白になったが、さらに……。魔法かなにかその手法は分からないけれど、魔改造は見た目だけに留まらなかった。


 激情を抑制できなくなってしまったのだろう。私の胸に顔を埋めて泣いているシズク、その号泣が嗚咽に変わる。私はベッドに押し倒された。


 私が、この私が、なんの抵抗もできない。軽くシズクの指が触れるだけで電撃が走る。幸せの波が押し寄せてきてしまう。もう、全てシズクの成すがままだ。


《いつの(せい)だってお姉ちゃんは、そう。心も体もその全てを捧げて、私を気遣う。だけど、だとしても、私、引け目なんて感じてないよ? こんなにも、こんなにも、私を愛してくれる人は、この宇宙にお姉ちゃん一人。嬉しい、嬉しいの、大好き、大好きだよ》


 そういえば、どうだったかな? 繰り返す転生の中で、女性との行為はない気がする。よりによって、「初体験」が妹となんて……。


 とはいえ、今、この異世界では大きなパラダイムシフトが起きている。だから、私は、シズクの「大好き♡」を受け入れるべきだ……。


 思考が機能したのはそこまで、私の論理回路は、ショートし焼き切れた。


 頭の中は真っ白になり霞がかかったよう。指先一つ、自分の意思では動かせない。ただただ、身を任せるだけの私。バレンタインの手作りチョコみたい。溶ける、溶けていく、甘い香りを残し、茶色くドロリとした液体になってしまった、私。


ピイ、ピイーー


 あーー、こちらではお馴染み、クロウタドリだろう。黒い羽に黄色い嘴の鳥が朝を告げた。こんなことも、初めてなんだと思う。私は、いつのまにか、快楽の海に溺れ、意識を失っていたようだ。二人は一糸まとわぬ姿で、ベッドにいた。


《お姉ちゃん、お姉ちゃん、なんだかすごいの!》


「おはよう、シズク、どうしたの?」


《魔力が満ちてくるっていうか、こう、お姉ちゃんにくっ付くと、流れてくるというか》


「もしかして、無意識に魔力供給してる?」


《そうみたい》


「ちょっと手だけ繋いでみようか」


《うん、あーーー、来る、来るよーー》


 ふぅ、助かった。


 この異世界では、性行為など深い接触を持てば持つほど、二人の魂は強く結びつき、魂が持つ、想い、感情さらには魔力までも共有できるようになる。


 21世紀日本でも似たようなことがあるよね?


 遊女の深情け、一夜限り、お金だけの関係と分かっていても魅かれてしまう男女。ダメ男、とんでもないダメンズだと知っていながら別れられない女。「たかが性行為、されど性行為」そういうことの延長ではないかと思うんだ。


 いずれにせよ、魔力供給するのに、キス、ましてや性行為が必要ってことだと、何かと不便だよね? 手を繋ぐだけで大丈夫というのは、ありがたい。常に一緒に転生を繰り返した二人だからこ、その深い絆の成せる技なんだろねー


 ベッドでうだうだしていたら、ノックがあって朝食が運ばれてきた。続いて入って来たもう一人のメイドが何やら白いものを持っている。


「お着替えをお持ちしました」


《わーーい、お姉ちゃんとお揃いだ!》


 って、まったー、チーム・ジュスティーヌ姫カラーだな。二人に用意されたのは、純白の半袖、膝上状ワンピ、姫着用のシンプルなものではなく、フリルやリボンが施され、優雅に裾が広がっている。


 こっちでも流行ってるの? やっぱり、#地雷系、#量産系って服だけど。あーー、よく考えてみると逆じゃない? こういう服ってクラシカルファッションを範としてる気がする。だから、異世界の方が本家だよ?


 いずれにしても、私の特別仕様メリジェーン靴にもよく似合うコーデだし、シズクにもちゃーんと、よく似た靴が準備されていた。

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