ゲートの秘密
一行は執務室を出て、無駄ーに広い階段を降り、無駄ーに広い玄関スペースに到着した。馬柱から馬を離していると、向こうの方から役人が何やら大きなものを荷車に乗せて運んでくる。
「これは?」
「我がオーク族に伝わる魔力昇圧器。帰りの便宜をと思い、持たせたのじゃ」
「いいや、それはどうでしょう? 私が街を再び通る時の影響を鑑み、ってことじゃないですか?」
「それもある、だが何より、我らが、妹君、シズク殿に酷い仕打ちをしてのではない、ということもお分かりいただきたく……」
あーー、なるほど、機械の補助なしでシズクにゲートの開通をやらせるってことは、まさに「虐待」だ。
言葉が話せないシズクが、巨大なゲートを開くためには、長時間飲まず食わずで無言詠唱する必要がある。無言詠唱にはとてつもない集中力が必要で、ストレスも大いに掛かる、ってこと。
冷蔵庫大のこの装置、中には大量の魔石が入っているのだろう。魔力を電磁気力に例えたが、この異世界での魔石は電池と考えればいいだろう。
ただ、魔石には電池とは違い属性というものがある。この機械にセットする魔石は術者が行使する魔法に合うものでなくてはならない。ワープの魔法は無属性、無属性魔石はレア中のレア、当選確率十万分の一、SSR級魔石がこの中に詰まっているってことになるねー
とてつもないコストが掛かる配慮を魔族はシズクのためにした。シズクが「よくしてくれた」と言っていたのは、まんざら嘘ではない気もしてきた。
「行きますね」
《お姉ちゃん、使い終わったゲートは閉じていいね?》
「あ、シズクがゲートは閉じてしまっていいかと?」
「そうじゃな、両国にはすでに通商路がある。城と城とは繋ぐゲートなど、さすがに不要であろう」
まーー、友好関係と言ってもね。さすがにねー
魔力昇圧器からはコードのようなものが伸びている。その先にある腕輪状のユニットを王自らシズクの手にセットしてくれた。
キュイイイイイイン
昇圧器がジェットエンジンのような轟音を上げる。魔力の高まりを感じたシズクは手のユニットを外した。
プシュー
という音と共に昇圧器も止まった。あーー、これ一回で白金貨百枚は消費したと思われ……。
《お姉ちゃん、手を繋いで、リーフの王宮の庭をイメージして》
「了解」
この異世界の魔法はRPGとは似て非なるもの。ワープポイントに「一度訪れたことのある場所」ましてや「クリスタルに登録」などという制限はない。
その代わり「ワープする場所」を頭に描く必要がある。手を繋ぐことで、シズクは私の脳内にあるイメージを明確に覗き見ることができる、ということだ。
ああそうか! いちいち癪だけど、女神様が私たちに21世紀を経験させたのは深謀遠慮だったんだね。
科学が発展した世界で「宇宙」のイメージを明確に持てるようにする。魔帝を「宇宙の果てに飛ばせ」というミッション遂行のための予備知識を得させた、ってことかな。
グオン
私たちの目の前に、青黒い光の渦が現れた。
「ジュリエット姫、行きましょう」
「はい」
「マモン王、では。妹が『お世話になりました』と言っています」「失礼します」
「うむ、こちらこそ、貴君らのご厚情に心より感謝する。リーフ王、ならびに、姫君には、よしなにお伝えくだされ」
「心得ました」
ブン
一瞬の目眩とともに、私たちは「ヘリポート」、飛龍着陸地点にいた。シズクはすかさずゲートを閉じた。
「ただいま戻りました!」
ジュリエットが声を上げると、侍従長のアーベルがメイド数名を伴って駆け寄ってきた。
「みなさま、ご無事でなによりです! ささ、お疲れでしょうが、こちらへ、お荷物はお持ちしましょう。うん?」
「ああ、私が二人いるように見えますねー、ほら、目の色が反対でしょ?」
「おおおおおお!!! こちらが噂のシズク様ですね」
シズクは、人差し指を立てて手首を掴む、上に上げながら、両手の人差し指を近づけた。
「こちらこそ、はじめして……、もしや!」
「はい、我が妹シズクは言葉を失っております。そのお話はおいおい」
と話していると、あれ?
「おーーい、スノウ、なんだよ! わざわざ来てみれば不在とか、つれねーじゃないか」
「スノウ、こちらがシズクさんかしら? 私たちは、スノウの冒険者仲間、こちらが兄にクロード、私はダフィーネよ」
シズクは再び、「はじめまして」の手話をして微笑んだ。
「さて、お疲れのところ恐縮ですが、王がお待ちです。まずは謁見室へ」
クロード、ダフィーネを加えた一行五人は、こちらも、こちら、無駄に広い王宮の階段を上る。
そういえば、何かの魔法かもしれない、とにかく、ここの薔薇はいつも満開。過ぎたる香りに、シズクも戸惑っているようだ。
長い廊下を行き、これも無駄に広い謁見室に到着する。もはや、国賓扱いなのねー、正面の段に向かって五脚、椅子が準備されていた。
「ささ、どうぞ、お座りください」
五人は王に一礼をして座る。
「うむ、大義であった」
王様、なんだか、日に日に横柄、というか、多分、素に戻っているようだ。
「して、彼奴の首は、いかがいたした?」
私に視線を合わせてるから、私が答えるべき?
「私たちは、王の御命令の元、書状をザフラ王に届け、その返答を聞いて参ったのみ、でございます」
「して、マモンの返答やいかに」
姫が口を挟んだ。
「了、ザフラはリーフの降伏勧告を受け入れました」
「それは重畳」
「何を申しておる。このような勝ち戦、敵将、すなわちマモンは死して詫びるが道理と申したはず。これと引き換えに、ザフラの魔族共には特赦を遣わすと申しておるのじゃ。燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや、嘆かわしきこと甚だし」
「父上、リーフ王は、なんとしてもマモンの首を所望されるや」
「王命じゃ、スノウ、これよりザフラに引き返せ」
「我が祖国、我が民の利を捨て、安寧を脅かすとしても、ですか?」
「口答えは許さぬ! 王命と申しておるじゃろ!」




