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雪待つ花は死の香り〜ノマド転生者の姉妹は幸せになりたい  作者: 里井雪
ザフラ

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28/61

 少しだけ間をおいた、天使が三人ほど通る。それから、私は慎重に冷静に話し始めた。


「私は貴国を滅ぼしに来たのではありませんし、王の首を持ち帰れなとどいう命は受けておりません。リーフ王からの書状を持つ使者だと申し上げたはず」


(まこと)か?」


「スノウ様は無益な殺生などするようなお方ではありません」


「私は前世で、嫌というほど、人を殺して来ました。であるが故、殺戮、破壊の虚しさは身に染みております」


「ふむ。なるほど、我が首、繋がったということか」


 マモンはシニカルな笑いを浮かべた。


「もちろんです。さぁ〜 ディールを始めましょう(Let's play(****) a great deal.)」


 と、トランプ風に言っても、この異世界じゃさすがに通じないよね? 私は、リーフからの公式降伏勧告文書と、姫からの私信、二通をテーブルに置いた。


「拝読仕ろう」


 そうこうしている内にノックの音がして、ドアが開き、メイドがお茶を運んできて、ティーカップを四つ並べる。一刻も早くこの場から逃げたい! 足早に部屋を出るメイドと入れ違うように、猫獣人が一人。


 左目がサファイヤ、右目がルビー、オッドアイのが左右逆なのを除けば、容姿、身長は、私と瓜二つ。


 アレ? 若干、胸が薄い気もするが……。我が妹シズクが立っていた。


 カナリヤ色の半袖ワンピース姿、肌が見える範囲では首輪の跡や痣もない。虐待された、などということはないとは思う。


 「お姉ちゃん!」と叫んで走りよるかと思ったが、両手を胸に上下に動かす仕草。手話? 「嬉しい」という意味のはず。


 もしや? マモンを睨む私に気付いたシズクは、駆け寄って来て私の隣に座る。いきなり首を掴まれてキスされた。まったく、『プ●ヤ』じゃないんだから、魔力供給なんて私には不要? あー、でも違う、これは、この異世界で魔法回路を繋ぐ行為だった。


 まー、ねー、百年前から性行為は心、すなわち、魔法回路を繋ぐ行為だったんだけど、どうも、どうしても、こうもお気楽にキスされるのには、まだ、まだ、慣れない私。


 シズクの想い、その感情が流れ込んできた。


《これで、お姉ちゃんとお話しできるはず、なの。でも、あれ?》


「私が喜んでいるように感じないのかな? それは……」


《そんなー、お姉ちゃん、「心」をなくしてる》


「お前こそ、こいつらに何かされたんじゃないの?」


《違う、違うの。お願い、みなさんに酷いことしないで! それを一番に伝えたくて。オークの人たちは私によくしてくれた。そう、シズクという名前ももらったの》


 雫、シズクという名は地球で言えば日本語。そう、日本語のような言葉がこの異世界では魔族共通言語となってるって、説明したよね?


 ああー、だっから、女神の預言である「スノウドロップ」の「ドロップ」が日本語風のシズクだと予知できたんだ。それは、「シズクさんは魔族の国にいますよー」って暗喩だったてこと?


 なんつーか、『踊る人形』でもあるまいに暗号解読じゃないんだからさー、あの女神様、もったいつけずストレートに解説してくれればよかったんじゃないの? まー、彼女らしいけどね。


《お姉ちゃんが心を無くしたのは、きっと、私のせいね? でも、これからはずっと側にいて、私がお姉ちゃんの代わりに、泣いて、笑ってあげる》


「ああ、これからずっと、死んで転生してもずっと、永遠に、二人は一緒だよ?」


 二人は抱擁を交わす。シズクの頬を涙が伝う。ジュリエットが貰い泣きしている、え? オークの旦那も目が潤んでる気がするんですが。一人私だけが冷静なのだけど、それを恥ずる気持ちすら浮かばない。


「誓って言う。我らがシズク殿を保護した時から、彼女は言葉が話せなかった。おそらく、何者かの呪いであろう」


 何者かの呪い? 私たちが神から受けたミッションを知る魔帝の一派がいるということか?


 すなわち、喋れなければ呪文を言葉として唱えられない。この異世界の魔法仕様により、それはターボチャージャーのない車のよう。魔力RPMを上げるのが大変困難でキャスト時間が大幅に遅延することを意味する。


「そのような妹の善意に託け、あのようなゲートを作らせた、ということか?」


 呪文を唱えられないシズクがあんな巨大なゲートを作るとなると、何時間もの精神集中が必要なはずだ。


「いや、そこは、後で説明する。我らなりの配慮はした、つもりじゃ」


「本当か? まあいい。もう、恨みで人を殺すのは止めた。そもそも恨みなどという感情も忘れた。じゃ、ディールに戻りましょうか?」


「しばし、お待ちを」


 しばらくの間、魔王は二つの文章を食い入るように読んでいた。目が真剣で怖いー、眼光紙背に徹すってことかな?


「ご厚情、痛み要る。しかも、このお申し出、深謝、という言葉では言い尽くせぬ……」


 降伏勧告の条件は次のようになっていた。


ー*ー*ー

(1)両国間のゲートはリーフが接収し保有する。以降、ザフラの民の通行には、一人につき金貨一枚の通行税を徴収する。


(2)今後十年、リーフはザフラより市価の半額にて炎の魔石を輸入する権利を有するものとする。これをもって戦時賠償に代える。


(3)リーフはザフラの食料買付を認める。


 上記条件の元、両国は恒久なる友誼を結ぶものとする。

ー*ー*ー


「俄には信じがたい講和条件、あの人族が、このような」


「すでに魔帝はおらず、魔族と人族が争う意味などありません、リーフはそれを示したのみ、かと」


「ならば、ならば、耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、膝を折って、慈悲を乞うた使者を、何故斬った!」


 こ、これは想定外、姫様、教えといてよー、あこバカ殿、魔族の使者を追い返したばかりか殺していたとは。


「人族の王にも、古色蒼然、黴の生えた頭を持つ者もおります故」


「ふむ、見えたぞ。姫の私信、我に嘘偽りを認めよと申される。その真意が」


「私信につきましては、他国の王への非礼、我が姉に代わり、深謝いたします」


 私の独壇場にさりげなく割り込み、自身の存在感を示した上で、姫の真意を補足する。ジュリエットちゃん、諜報機関の長官なぞより女王になっちまった方がよくない?


「フ、フハハハハ、揃いも揃って、幼い素顔に秘めたる英明、いやいや、褒め言葉だぞ? 姦悪姫とでもお呼びしようかな?」


「さすがに、それは」


「あい、分かった。我らこの条件での降伏に否などない。大恩ある姫の誅略にも、喜んで加担いたそう」


「ありがたき幸せ」


「我が否と申せば、国ごと滅ぼす所存であった者が、頭を下げるか?」


《お姉ちゃん、ここは笑うところ、なの》


 あー、ありがとシズク、ここはジョークを飛ばすシュチュなのね。


「いえ、この『ありがたき……』は、自身が無垢の民を殺さず済んだことへの謝辞にございます」


 しばらく執務机に座り、姫の私信への返信を書いたマモン王、書状を私に渡した。


「では、大手門のところまでお送りいたそう」

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