ザフラ王
ズガガガ!!!
フッフッフー、高等テクだぜー、切り方をうまく調整し内側に倒れるようにした。重さ数トンの鉄の板が地面に叩きつけられバウンドする。地響きとともに盛大に砂埃が上がった。
衣服に掛かってる清浄の魔法ったって、汗染みや垢、体臭が消える程度だからさ。汚れるのはマジ勘弁なので、埃が収まるのを待って、二人は馬を進める。
王城、オーク族を束ねるマモンの住む魔王城へ一直線に続く大通り、今は人影、いや魔族影はない。みーんな、引きニートになっちゃったのかな? 家に引きこもり、死神が行き過ぎるのを息を潜めて待ってるんだろね。
「しんとして幅広き街の夏の日の玉蜀黍の焼くるにほいよ」保存食のトウモロコシを食べているのだろうか、大通りから西に伸びる市場通り、無人の店頭に肉が売られていることは……、あった。
こ、これ、この臭いは、オークの肉だ! 独ソ戦のレニングラードもかくや、餓死した死体を食糧にせざるを得ぬほど、この国は追い詰められている。
大通りはそのまま真っ直ぐ魔王城の表門に続いている。人族からは想像しにくいだろうが、オークは意外にお洒落だ、白亜の壁に、濃紺の屋根を載せたそれぞれ高さ大きさが異なる三本の尖塔、シンメトリーじゃないのがいい。まるでノイシュバンシュタイン城のよう、シャレオツな造りだ。
城を取り囲むように高さ十メートルほどの外壁があり、差し渡し十メートルはある深い空堀がある。空は飛べない私たち、あの跳ね橋を下ろしてもらわなければ、どうにもならない。ま、一応、礼は尽くすかー
「開門願いたし、我ら、リーフ王の使者なり……」
ま、さっきもそうだったし、黙んまり戦術継続中かな? だけど、私たちが黙って帰るとは思ってないはず。うーーん、様子見なのかな? 魔王は、慎重な性格で、部下からの報告を疑い、私の力を測ってる?
「じゃ、ちょっとだけねー」
私は視認できる最も遠い外壁を崩す。まず、向かって左側。
ズガ、ガラガラガラガラ!
当然だが、高等テクを、ってコレは前世から長年の経験による技ですよー、堀側に崩れるように調整しながら壊す。これくらい離れていれば粉塵で髪や服が汚れることはないと思う。それが最も大事な注意点、だよ?
続いて右側。
ズガ、ガラガラガラガラ!
狙い通り、城ごと崩されては堪らないと判断してくれましたかねー
ガラガラガラ
跳ね橋が降りてきた。
「スノウ様、さすがです。無闇に殺せば無用な恨みを買う、適度に脅し従わせるとは、多謀善断とは、まさにこのことでしょう」
「え、ええ、お褒めいただき光栄です」
いやいや、適当にやってるだけ、とも言えないしねー、でも、この子、と言ってもおかしくない見た目だけど、キレるな。もしかして姫に並ぶ、あるいはそれを凌ぐ天才かもしれない。って、王族の子なんだから、今の時代、きっと遺伝子操作されてるよね。天才、宜なるかな、かな。
木製の橋を慎重に進む。仕掛けでもあって落下したら一溜まりもない。
そう、私の魔法は攻撃特化型、前世、殺しのスペシャリストとして目覚めてから、殺すこと=攻撃することしか能がないんだよ。きっと私は、殺し屋として永遠の転生を旅してくんだろね、この先も、またその先も、ずっと……。
城に入ると高さ五十メートル、テニスコート十面分くらいのスペースが開けていた。戦時に兵が集まり出陣するための広間なのだろう。オーク族は魔族の中でも、極めて尖鋭な戦闘民族。らしい設備だが、今は、全くの無人だ。
繋ぎ木のようなものがあったので、二頭の手綱を縛る。正面の階段をジュリエットと並んで上ろうとすると、上から、身長三メートル、巨大な偉丈夫がゆっくりと降りて来た。黒皮の軽鎧に真紅のマントだが、帯剣していないのは交戦の意思なし、ということだろうね。
凶悪な牙、紅蓮の瞳、豚というより猪だね、偉大なるオークの王、六魔王の一、マモンその人に違いない。
「これは、これは、王自らお出迎えとは恐悦至極にございます。私はスノウと申します。リーフ国王の命により、使者として罷り越しました」
「リーフの王アンリ・ド・ナヴァールが娘、ジュリエットと申します」
身長倍以上、体重十倍の巨漢を前にしても恐れなど微塵も見せぬ小娘二人がカーテシーする。
「ザフラ王、マモン・キドウと申す。そちらが、スノウ殿、ま、まさか……」
「妹と瓜二つ、ですか?」
「な、なぜそれを!」
「あのような巨大なゲートを作れる魔導士、妹を置いて他にはおりません」
「そ、そうか」
「当然、『お返し』いただけるのでしょうね?」
「ああ、我が首と共に持ち帰るがよい。だが、その前に、釈明の時をいただきたい」
「マモン殿には、少々誤解があるようです。立ち話もなんですから……」
「心得た、我が私室へ」
日本の国会議事堂比約十倍、いちいち巨大な階段、って一段の高さが私たちには高すぎるんですが……を飛び上がるように上り、左に折れた先に王の執務室があった。オーク材の執務机と椅子。応接セットも木製で質素、リーフとは違い戦闘民族らしい実用第一の調度だ。
「さ、こちらへ」
「はい」「失礼します」
「誰か、誰か、あるか!」
大声で王が叫ぶと、ノックの音があって、扉が数センチ恐る恐る開く。
「来客に茶を、それから、シズク殿をこちらへ」
「御意」
と言った瞬間、執事らしい男は一目散に廊下を駆け戻って行った。
「まったく、戦に生き、戦に果てる、誇り高きオーク族にあるまじき所業。だが、致し方あるまい、スノウ殿の発するそのオーラはもちろん、凄惨極まる戦を見た者もおるしのう」
なぁる、そうかもしれない。人族に比べ魔族は魔法に長けている分、魔法の気にも鋭敏なんだろねー
そして……、そっかー、自分でやっといて言うのもなんだけど、黒ひげ危機●髪でもあるいに、あーーんな簡単に首がポンポン、玩具みたいに飛ぶのに、なぜかリアルな血を撒き散らすなんて、恐怖を超えてシュールな光景だもんね。ビビらんヤツの方がどうにかしてる。




