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雪待つ花は死の香り〜ノマド転生者の姉妹は幸せになりたい  作者: 里井雪
オーク侵攻

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26/61

ザフラ前夜

 黙んまりになった王に代わって、ジュスティーヌ姫が続けた。


「で、その使者ですが、スノウ殿に今一度お骨折りを願いたく思います」


 なるほど! 使者としてザフラに赴き、妹を探せ、ということね。


「はっ! 偉大なるリーフ国の使者、謹んでお受けいたします」


「異論なし!」「スノウ様、万歳!!!」


 あのねー、これ、姫が仕組んだサクラかも?


「では、後ほど書状を認めます故、明日朝、ルルディに出立いただきたく思います」


「かしこまりました」


「して、随行はいかがいたしましょう?」


「馬をお貸しいただければ単身にて参ります」


「おおおおお!!!!!」


 もう、ウザイ演技はいいからさー


 ということもあり、私は、例の巨大な客室で再び一夜を過ごすことになった。ここはホテルのスイートルームのよう、ゆっくりシャワーを浴びて、ルームサービスの夕食を楽しむ。うーーん、お魚ー、ムニエル美味しいー


 さって、寝るかな、と思ってベッドに腰掛けていた時。


 コンコン


「どうぞ」


「スノウ! ほんとうに、ありがとう。心よりお礼を言うわ。だけどー、我が父ながら、儀礼を欠くにも程がある。度重なる無礼、許してね。って、はい、書状」


「確かにお預かりします」


「もう、他人行儀な言い方ぁ、隣、座っていいかしら?」


「どうぞ、夜伽を御所望ですか?」


「ウフ」


 フレンチキスが来た。この異世界の(ことわり)により姫の意思が流れ込んでくる。そうかー、姫として王族として、この国を繁栄させたい、という強い、とても強い思いが伝わってくる。


 一方、豊かになった民たち、王宮は「適正な市民サービス」を供すことができなけば、たちまち革命が起きる。フランス革命を知っているであろう姫は、時代の流れを熟知している。焦りと不安、王宮に属す全ての臣下を慮る気持ち。そして、父への苛立ち。


 誇り、義務、不安、焦り、がないまぜになった、その激烈な感情に、頭がぐらぐらする。


「私のこと知ってもらいたくて……。でも何だろう、いつもの精神感応とはちょっと違うような気もする。って、なーに、乙女な顔しちゃって。ひとまず、今夜かここまでよ」


「は、はーー」


「あなたの最初は妹さんとになさい」


「え? 実の妹ですよ?」


「あら、意っ外、スノウをして、カビの生えた考えに囚われているなんて」


 クロードとダフィーネの関係で学んだことじゃん。父と母が性行為をして母の腹から子供が生まれるという私の常識は、すでにこの異世界には存在しない。生殖活動と切り離されたセックスは、信頼、親密の証となっているはず。


 理屈は分かる、嫌悪感もない、だけど、それで本当にいいの? とも思ってしまうのは、私が地球から持ってきた倫理観のなせる技、かもね。


「で、もう一つ。明日のことだけど、私の妹を勉強のために同行させて欲しいの」


「え?」


「入りなさい」


「はい、お姉様」


 扉を開けて入って来たのは、ジュスティーヌを当社比九十パーセントで等倍縮小したような容姿だが、まだ幼い、少女と言ってもいい可憐な娘が立っていた。


「こっちに来なさい」


 って、私、二人にベッドで挟まれてるんですが……。すっと顔を寄せられるラベンダーの香りが漂ったと思ったら、妹にもキスされていた。


「スノウって女の子との経験、全然ないみたい、耐性がなさすぎて笑える」


「あのですねー、真摯な性行為に慣れていないだけですから」


「申し遅れました、ジュリエットです」


 この子からも生真面目に国を思い、姉を補佐せんという必死な気持ちが伝わってきた。


「分かりました、そのようなお心を見せられては断れませんね」


「ま、将来、彼女には我が諜報機関LIA(Leaf Intelligence Agency)のトップになってもらわないとね」


「はい、心得ております。お姉様」


 って、まさに情報は力、権力への道、軍でも財務でもなく、諜報機関の(おさ)に自ら最も信頼できる実の妹を置く。凄みすら感じさせるジュスティーヌらしい選択だ。


「私と違って、この子、剣の腕前も確かよ」


「スノウ様にご迷惑はお掛けしません。自分の身は自分で守れます」


 妹ということはジュスティーヌより年下、幼さの残る彼女は十五歳くらいだろうか? この異世界では成人だが、日本で言えば中学三年ってことか。


 にも関わらず、しっかりした物言い。姉妹揃って天才というか英傑というか。女神が仕組んだ運命なのだろうけれど、強い仲間がどんどん増えるのは、RPG、いんや、アメリカ産のエピックファンタジーみたいだ。


 ということなんだけどね、君、そこの君、百合3なんとかを期待したのかい? 古式ゆかしい王朝の遊び、貝なんとかとか? あのねー、残念ながら、お二人とも節度ある行動をとってくれたのですよ!


 って、ことで、私は、無駄に大きなベッドで一人熟睡した。


 翌朝、私とジュリエットは沓を並べて北門を出る。妹姫は純白のゴシック風ブラウス、黒の乗馬パンツにブーツ、姉を真似たのか王族にしては質素で実用的な出立だ。


 腰には刃渡り五十センチほどだろうか、レイピアを手挟んでいる。柄と鞘に施された螺鈿の飾りは、この剣が大変な技ものであることを物語る。彼女が「自分の身は自分で守る」というのは大言壮語でないかもしれない。


 輝く金髪をポニーテールに纏め触覚ヘアを垂らすスタイル、ちょっと中性的で可愛いかもねー


 決戦の平原では敵軍戦死者の埋葬作業が始まっていた。いっぱい殺しちゃったから大変だよね、ごめんよー


 と手を合わせつつ、通り過ぎてた私たちは例のゲートから魔族領に入る。


「こ、これは……」


「なんとなくだけど、この草、元は牧草だったんじゃないでしょうか?」


「魔素ですか?」


「でしょうね、濃いのが分かるのは、さすが!」


「そんなぁ」


 このあたりは、チモシーあたりが群生し、牛や馬が草を食んでいたところだろう。その草は紫色で捩じくれた奇怪な植物に変わってしまっている。


 奇怪な魔性植物は、おそらく魔毒を含むだろう。こんなものを食した家畜は、ひとたまりもない。この種の魔毒は、一瞬で全身に回るのが常だから、うっかり死肉を食べたヒューマノイドや肉食獣もただでは済まない。


 困窮し、本来敵同士の人族に膝を屈して援助を乞うたオーク族、手を差し伸べぬ王。倫理、道徳の話をする以前に、窮鼠猫を噛む事態を想像すらしなかったリーダーは「人の上に立ち統治する資格なし」と思われても致し方ないだろね。


 オークの都市は大きな円形の城砦に囲まれている。昨日見た時は、もう少し近くだと思ったんだけど、相当、遠い、無人で獣の姿さえない紫色の荒野、早足で馬を進める二人。


 たっぷり一時間掛けて二人は城砦の壁を見上げた。


 高い、高いねー、三十メートルはあるだろう。隠れてるようだが、城砦の上に数人、兵士であろう者の臭いがする。


「開門願いたし、我ら、リーフ王の使者、ザフラ王マモンに降伏を勧奨すべく罷り越す者なり、開門! 開門願いたし!!」


 返事はない。君たち「ただの屍」じゃないよね?


「返答なくば、押して参る」


 一応、警告はした。一分待って、私は、南に面した高さ十メートル幅五メートルの鉄門をバラバラ……、にするのは、姫のご意向に背くかな? 馬二頭が通れるくらいの長方形に切り取った。

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