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雪待つ花は死の香り〜ノマド転生者の姉妹は幸せになりたい  作者: 里井雪
オーク侵攻

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24/61

決戦

 翌朝、小鳥の声は聞こえないけど、まぁ、なんだか起きれちゃうんだよ。


 支度をして表に出る。A星が今、東から昇ろうとしている。だっけどさー、薔薇の香りがちょっとウザい。無意味に長い階段を降りると、私が騎乗する馬が準備されていた。師団長自ら引いて来てくれたようだ。


「よい馬ですが気性が荒く乗り手を選びます。ですが、スノウ様なら問題ないかと」


 馬? 私の耳や尻尾に似て光り輝く白妙(しろたえ)の毛並み、超レアものの白毛の馬ったってここまでじゃーない。


 ツノがあるんですが? おまけに目が紅いじゃない。アルビノってわけでもなく、魔獣であるユニコーンの類じゃないかな? でも鞍を載せさせているということは、人が騎乗できるよう訓練されてはいるんでしょ。


「魔力で威嚇すればいいのでしょうか?」


「はい」


 こんなところで、魔力をケチる必要もなかろう。私は、百年分の魔力を無意味に空中放出した。


「お、おおおおおお!!」


 師団長、あんたが驚いてどうする? ユニコーンは、ちらと畏怖の目を私に向ける。うん、OKかな?


「あの、この子の名前は?」


 猫のしなやかな動作で、ひらりと馬に跨り。鹿毛の戦馬に乗る師団長ハグマイヤーに問う。


「シュレグと言います」


「あら、私と同じ名前ねー」


 シュレグは地球のヘブライ語で雪、まーー、いろんな人が転生してきてるんだろねー、首を軽くなでてやる。


 ブルブルブル


 これは馬が嬉しい時に発する言葉のはず。あっという間に、私はシュレグを手懐け、ハグマイヤーと沓を並べ城の北門を出た。


 王都はその最北端に王城をいただき南に向かって市街地が広がる。すなわち北門を出るとしばらく農地が続く。さらにその先、開墾されていない平原を挟み深く大きな黒い森がある。


 北門から平原への道には、近衛師団三百騎。平和なリーフの常設軍全てということだろう。


 冒険者を徴兵し歩兵をつけることも検討されていたようだが、結局、私の魔法に頼る以外、この事態への打開策はなく「歩兵を連れても足手纏いになるだけ」という姫の意見により却下されたらしい。


「では、いくぞ!!」


 師団長の掛け声にプレートアーマーの完全装備、槍を構えた騎兵隊が続く。十分ほど行くと道は開け、森を背に展開する魔族軍、その数五万のオーク、ってことはさー、ブヒブヒーの豚軍団が待っていた。


 魔族の中でもオーク族は古式伝統に拘る亜種族だ。形式的にも人族軍と対峙し、名乗り、宣戦布告をした後、刃を交え、これを破る、というプロセスについて、この異世界に古来から伝わる為来りに固執しているようだ。


 だが、そこからが、魔族なんだよねー


 一旦、敵軍を打ち負かしてしまえば、略奪、蹂躙、虐殺、に歯止めがなくなるってあたりも、おそらく百年変わってないだろう。


 あまりにも規模が違い過ぎる両軍だが、一応、正面から対峙する。一旦、騎兵を待機させ、私一人で前に進む。


「ブ、ブブ、ブヒーー」


 豚どもの嘲るような笑い声が聞こえてくる。って、無駄に鋭敏な猫の嗅覚は、独特の獣というか豚臭い臭いを嗅いでしまう。あーー、もう、臭いんですがー、さっさと終わるに如くはない。


 私は矢の射程範囲外、ギリギリの位置でシュレグを止めた。


「やあやあ、遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ! 我が名はスノウ。魔帝の側近ブロー(処刑人)の生まれ変わりなり。義により人族に助太刀申す」


 ピンマイク状の魔法拡声器を借りてきたのだが、ボイスチェンジャー忘れたよー、幼女のようなハスキー気味ロリボイスでは、威嚇もなにもあったものではない。


 だが、ブローの(あざな)は百年後の今も、それなりの効果があるように思った。将軍らしき一際大柄なハイオークが一人、巨大な魔馬に乗って進み出てきた。


「伝承によると、ブローは兎の獣人、驚くほど小柄だったと聞く。その姿に惑わされるほど、我ら愚昧ではないぞ。ならば、どうじゃ、そのブローの再来の力、今、ここで見せてもらおうではないか?」


「よかろう。だが、古例に習い、名乗っていただこう」


「我が名は、キュウエモン・イザカなり。五万の前にただ一騎で進み出る、貴君の蛮勇に免じ、お相手申す」


「いざ」「い……」


 彼は「ざ」という言葉を残すことができなかった。あっさり首が飛び、血が噴水のように噴き出し、馬を大地を真紅に染める。一瞬、凍った後、動揺した魔馬は棹立ち、猛スピードであらぬ方向に駆け逃げた。


「ブ、ブブブブ……」


 兵士たちも、動揺の唸りを上げる。


「な、何をしている弓……」


 と言いかけた将校の首が飛ぶ。矢の雨はやっかいなので、前衛の後ろに展開している弓矢隊千名ほどの首も飛ばしたら、私はシュレグを駆って一気に五万の方陣に突っ込む。


 これに呼応し、突進しようと構えた騎馬隊五千ほどを血祭りにあげた。


「あら、あら、あら〜」


 後ろで控えている近衛師団の皆は、戦慣れしてないんでしょうねー


 吐き戻す甘酸っぱい臭いが漂ってきた。宜なるかな、普通の人なら、こんな光景を目の当たりにしたら平常心を保てるはずもない、そりゃそうだよね。だけど……私、普通(**)じゃないんだなー


 ま、もういいか、ここでバラシちゃうけどね、私には「感情」がない!


 これは魔帝による感情破壊の魔法に起因する。感情の破壊は魂の傷、転生しても癒えることなく、私は永遠にこれと付き合って行くしかない。


 だけどね、このことに救われた面もある。復讐のため人を殺しまくっていた前世、私の精神は崩壊寸前だった。感情を無くしたお陰で、殺し屋として、さらに殺戮を繰り返したが、私はPTSDに罹患することはなかった。


 淡々と数を数えながら首を飛ばしていく猫獣人、その姿が幼く華奢でるあるが故、未知なるもの、得体の知れぬものへの言いしれぬ恐怖が生まれ、その波動が伝播していく。


 五万の大軍は、突如、水を打ったように静まり返った。


「撤退、退去せよ!!!」


 おおおーー、これは、これは、肝っ玉が据った指揮官がいるんだねー、すんごいよ!


 全く想定外の事態にも、その最適解を瞬時に導き出す冷静さ、この軍の司令塔はとてつもなく優秀だ。

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