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雪待つ花は死の香り〜ノマド転生者の姉妹は幸せになりたい  作者: 里井雪
王都

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ジュスティーヌ

 ということで、姫の応接室にて。


「紹介が遅れました。近衛師団長のエッケンハルト・ハグマイヤーと申します。どうかお見知り置きを」


 と、近衛師団長が丁寧に挨拶した。うーーん、賓客扱いだねー


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 自分で言うのもなんだが、得体の知れない猫獣人の小娘、胡散臭い目で見られて当然だ。いわんやプライドの高い王族や武官、官吏においておや、のはず。いろいろ問題はある、いや、あるように見せている姫様だが、彼女の言葉、情報への信頼は篤いということだろう。


「戦時故、お茶も出せぬご無礼どうかお許しください」


「いえ、そのようなことを、ジュスティーヌ姫様がなさらなくとも」


「格式ばった言葉遣い、なんだか疲れたわ、あなたのことスノウでいいかしら?」


「は、はい」


「ま、同じ転生者でしょ? 気楽にいきましょう」


「え、転生者とは?」


「あら、とぼけるつもり、私の諜報機関を甘くみてもらっては困るわ」


 諜報機関! なるほど、「知識は力なり」、彼女はベーコンを知っている。プーチンがKGBだったことを知っている。姫は地球からの転生者だからこそ、民主主義に対する知見があった。さらには、情報戦略の重要性を知り尽くしており、この国にCIAのような組織を作った、ってことだね。


「前世の記憶はある、といういうことなら、お察しの通りですが」


「魔帝の側近、ブロー(処刑人)の生まれ変わり、ということでいいかしら?」


「そこまで調査して、私を召喚したのですか?」


「ええ、もちろん」


「あなたにとって、魔族軍五万を皆殺しにすることなど、容易いのでしょう? だけど……」


「ほどほどに威嚇して、彼らと交渉したい、のですか?」


「その通り、さすがに鋭いわね。彼らの侵略目的は明らか、食糧難だからよ」


「ほう、ちなみに、あの魔族軍は、いずれの国の?」


「ザフラのオークどもよ。直近の魔族国、と言っても五千キロ離れてるけどね」


 魔族というのは一つの種族だが、犬に似ている、と言えばいいかな? セントバーナードからチワワまでみーーんな犬だよね?


 魔族もそう、同じ種族の亜種なのに、ゴブリン、オーク、トロール、から、バンパイヤ、ラミア、サキュバス……。その外見風貌、能力は大きく違う。だからさー、魔族ったって、あまりに違い過ぎて、亜種間の仲は決してよくないのですよ。


 魔帝の死は、それらを強制的に束ねる主柱が消えたってこと。今、彼らは亜種ごとに国を作り、相互の交流もほとんどない。


 今、ここリーフに攻め入らんとしているザフラにしても、他の魔族国が食糧難を助けてくれる、なんてことはない。しかたがないので、枯渇した食糧を略奪するため侵略を企てたということらしいのだが……。


「何度も使者を送って来てたのよ。恩を売って、ザフラ産の炎の魔石を安値で輸入する、無妄之福(むぼうのふく)ともいえるビジネスチャンスを断るバカ、あの愚王、処置なしね」


 まー、遠い親類より近くの他人ってことなんだろねー


「姫の前で、自身の過去を取り繕っても無意味と分かりましたので、率直に申し上げます。今のお話、全く同意です。経済力さえあれば平和は買える。逆に、経済を破壊する戦争ほど愚かな行為はないと、私は前世で思い知りました」


 戦争そのものではなく、戦乱による人的、経済的、破壊行為が悪なのだ、と私も思う。


 だが、クロードがああ言うのだ。この姫君は、その逆も真なりとも考えてるかも。経済的価値ありと判断すれば人殺しだって躊躇しない。全てのメリットとデメリットを秤に掛け、功利的に判断をする人なんだろねー


「ま、だけど、魔族が攻めて来てくれて、助かった面もあるのよ。なんの策もとれぬバカは、すでにレームダック状態になっちゃったから」


「あーー」


「うふ、スノウはとても聡明だけど、残念、私には敵わない。あなた、地球のことも知ってるわよね? 一度きりではない、何度も転生を繰り返してきたんじゃない?」


「なんのことだか」


「この期に及んで、とぼけるつもり? あなたは、転生を繰り返しているから、その言葉がどの世界のものか記憶が曖昧になっている。『レームダック』は『死に体』を表す地球(**)の言葉よ」


「一本、取られましたね。特に秘密にしているというわけではありません。荒唐無稽過ぎる話だ、と解釈されるのを恐れていただけです」


「ま、そうかもね。なら、あなたの信用を落とさぬよう、黙っておいていてあげる。エッケンハルトもいいわね」


「御意」


「ところで、一点、どうしても気になることがあります。姫は、それほどの諜報機関を持ちながら、なぜ魔族の進軍に気付かなかったのですか?」


「それは、当てつけ? 皮肉かしら。でもね、本当に何の前触れもなく、大軍が現れた、そう、そう、地球のアニメであったでしょ? ワープってやつ」


「そのワープ、私の妹が関与した可能性があるのです」


「どういう意味かしら?」


「私たち姉妹は時空魔導士、私の魔法は物を切っているように見えていますが、その実、空間をずらせているのです」


「なるほど。地球の物理学を知らないと理解できない話ね。エッケンハルト、まー、そんなもの、って思っておいて」


「一方、私の妹は空間魔法に特化した力を有しているはずです。おそらく我が妹は心ならずも魔族に協力させられています」


「もし、その可能性があるのなら、この戦いに決着がついたら、あなたが魔族領を訪問(**)できるよう、取り計らいましょう」


「ありがとうございます。では、それが、私が力を貸す対価ということにしましょう」


「もちろん、一生遊んで暮らせるような褒美も考えていましたのよ♡」


「それもいただきましょう。私は殺し屋、殺しのプロです。無償で仕事をお受けするわけにはいきませんから」


「うふふ、可愛い、可愛い、子猫ちゃん(pussy)が、眉字ひとつ動かさず殺し屋だなんて、ちょっとシュールね」


「では、さっきのお返しです。姫は、西洋、英語圏からの転生者ではないですね?」


「なぜそれを? 確かに私は日本という国から来たわ」


「おお、同郷ですね」


「どうして、分かったの?」


「な・い・しょ です」


 そうなんですよー、「プッシー」というのは、英語で「子猫ちゃん」だが、スラングでは女性性器を意味するんだぞ、気をつけろよー


「だけど、お約束しておきます。魔族を皆殺しにして妹を奪還などとは、毛ほども思っていません。そこは姫のご意向を尊重いたします」


「それは、そう、お願いするわ」


「では、早速、明日の作戦ですが、私が騎乗できる馬を準備してほしいのです」


 私もこの数か月、魔獣の首を落とすだけの簡単なお仕事に終始していたわけではない。ちゃーんと、ダフィーネから乗馬を学んでいた。


 馬という動物はとても聡い、乗り手の「格」を敏感に感じるようだ。十年分詠唱した魔力を無意味に放出してやるだけで、大人しく指示に従ってくれるのよー


 姫、師団長と詳細を詰め、明日五時、A星が昇ると同時に、私を先頭に「決死隊」が魔族軍と正面戦を行う、という手筈になった。


「姫、そろそろ寝ようと思いますが、夜伽は必要ですか?」


「ま、一段落したら、ゆっくりね」


「死亡フラグという、日本のスラング、ご存知ですよね?」


「私は死なないわ、あなたが守ってくれるもの」


「あーー、昔話は尽きませんが、おやすみなさいませ」


 ということで私は猫が十人並んで眠れそうな巨っ大なベッドでぐっすりと眠った。






 ジュスティーヌも『悪徳の栄え』より。ジュリエットも出てきますが、シェイクスピアではなくマルキ・ド・サドの方です。姉妹逆ですが……。

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