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雪待つ花は死の香り〜ノマド転生者の姉妹は幸せになりたい  作者: 里井雪
王都

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トパーズの王宮

 飛龍を降りると白髪に白髭、初老の執事らしき人が待っていた。


「では、スノウ様、私はこちらにて」


 イケメンのジェームズ君は、サッと、いなくなってしまう。


「侍従長のアーベルと申します。スノウ様、我が国の危急存亡に際し義によって立つと、ご決断くだり恐悦至極にございます。さ、王と姫君がお待ちです。こちらへ」


「魔族の大群は空から見ました。ですが、まだ、助力すると決めたわけではありませんよ?」


「これは失礼いたしました。姫君様から、あなたのお噂は予々聞いております故、つい軽率な物言いをしてしまいました。どうかお許しを」


「ま、あの大軍を見れば藁にもすがる気持ち分かりますけれど……」


 そんな話をしながら、王宮の庭、無駄に広い、花壇には姫の趣味か? 四季咲きの薔薇、ライムライトグランディローサ、パフュームドレス、エデンローズ……、香りで品種まで分かってしまうのは猫なるが故だが、その嗅覚にとっては、かなーーり芳醇過ぎて辟易しないでもない。


 上空からはその巨大さが分からなかったが、トパーズブルーの屋根を抱く白亜のドームは直径二百メールくらいあるだろう。高さも五十メートルってところかな。人族の栄華を象徴するような「ドーム球場」の階段を上がる。数えたくもない、延々と上がる、上がる、上がる。


 やっと踊り場らしきところに到着したら、まった巨大な鉄製の扉。蝶番が内側にある、すなわち内開きになるところを見ると、そこまで平和ボケはしていないということかなー


 大理石の床と壁、血のように赤い緞子の絨毯が敷き詰められた大広間から、国会議事堂の倍、人が十人並べそうな階段が続く。天井には豪奢なクリスタルシャンデリアが魔法の炎を揺らしていた。


 その正面、オーク材の扉を開けると、いやー、ここも巨大な謁見室があった。一段高い、王族の席を取り囲むように二階席まである。並んで座れば千人収容できるシューボックス型コンサートホールみたいだね。


 その、ど真ん中をスク水セーラーを着て赤ランを背負った小柄な猫獣人が老執事にエスコートされつつ進む。


 段の上、金色の玉座には王が、その上手にはアッシュ材だろう見事な曲線と複雑な紋様の椅子に座る女性、輝くブロンドの髪、トパーズ色の瞳、この若く美麗なレディーが噂の姫君だろう。


 通常の異世界モノでは、ここに王妃も並ぶのだろうが、この異世界はちょっと違う。人工授精で子供が生まれるようになって以降、王室などは「計画的に」その子孫を残すのが通例となった。


 すなわち、王のお相手の女性は内密に選ばれ、当人もこれを知ることはない。まーー、そうだよね、こっそり髪の毛抜かれても気付かないってこと。


 王の後継者である子供も、跡目争いが起きぬよう多くて二人、一人の場合もある。万一、王とその子に何かがあったとしても、王の髪の毛からその跡取りを作れば(***)いいだけのことなのだから。


 という理屈で、この姫様は間違いなくこの国のナンバー2。なのに、わざわざ、ハデハデじゃない木の椅子に座っているし、着ているドレスはウエディングのような白いサテン地、リボンやフリルはごく控えめだ。クロードの話だと彼女はまだ二十歳のはずなんだけど。


 これ、でも、多分、彼女の対外向け演出だよね? 椅子もドレスも、あえて質素に見えるものを選び、イメージ戦略まで完璧にこなしているということだろう。腹に一物かもしれないけれど、彼女が大変な切れ者であるのは間違いない。


 侍従長も、


「では、私はこれにて」


 と引っ込んでしまった。一人舞台の下に取り残された私は、段の下左右に十人ずつほど並ぶ、大臣、武官らの、胡散臭そうな視線にさらされている。


 んなことは当然、想定内ですよ?


 私はいつものように全く表情を変えず、カーテシー風の挨拶をした。と言ってもミニスカをちょっと摘んで膝を折った程度だが。続いて、跪こうとしたら姫から止められた。


「いや、そのままお聞きください」


「これ! ジュスティーヌ、此奴、見れば、獣人の小娘ではないか? いくら魔力があるからと言って甘やかすでない」


「お父様は黙っていてください」


 おおーー、ズバリ言うか? 凡庸で思考が硬直化した王と聡明な姫ねー、なるほどねー


 なんていうか、まー、見た目は、あまり変わっていないように見える、この百年の人族文明なんだけどさ。その構図は日本の高度成長期と二千年以降のネット社会の発展に譬えれば分かりやすいかもしれない。


 新幹線、高速道路が整備され変革が目に見えた前者、人は時代の移ろいに容易く気付けたはずだ。だが、後者、直接目に見えないネットはどうだろう? 変革に気付かず取り残された人が多いんじゃない? って意味。


「いずれにせよ、よろしいですね、皆様、こちらのスノウ様のご助力を得て、決死隊が明朝出陣ということにいたします」


 おいおい、姫様! 物事には進め方ってものがある。儀礼的に見えても段取りってものがあるんじゃないの? 私と出陣とか、いきなり過ぎ、短兵急にも程がある。隣の王様は、苦虫を噛み潰したような顔をしてるよ?


「失礼ながら姫君、私、ご協力させていただくと、まだ申し上げておりませんが」


 ハッとした姫君、いきなり椅子から立ち上がり、私の前に駆け寄ったと思ったら、跪くだと!!


「こ、これは、大変失礼したしました。改めて礼を尽くし、お願い申し上げます。どうか、どうか、ご慈悲を持って、我が国にをお救いくださいませ」


 いや! 違う、違う、この姫、やっぱ、とんだ食わせ物だわ。あえて、世間知らずな我儘姫を演じ、その危うさを私に見せつけた。私が「しゃーないな」と言わざるを得ない状況を意図的に作り出したんだ!


「一国の姫君がそこまでされるのは、私から『断る』という退路を断った、ということですね」


「皆の者、喜べ! ここに救世主様が降臨された」


 なに言ってんだか、と思う私、姫は私にだけ見えるよう、ニヤリと笑った。


「こんな席ではゆっくりお話ができません。我が私室にて明日の作戦を。近衛師団長、同行せよ」


「はっ!」


 姫の横に立っていた金髪碧眼、髪を刈り込み、口髭を生やした大男が敬礼をした。


「では、これにて御前会議は終了とさせていただきます」


「フン! よきに計らえ」


 王アンリ・ド・ナヴァールは、吐き捨てるような一言を残し退場していった。だけど、この緊急事態に何の策も出せなかったであろう王、その権威は失墜したとも言えるだろう。


「さて、スノウ様、行きましょうか」


 と姫に促され、まーしょうがない、付き従う、私。でもさ、この王宮、広い、広い過ぎ、どこをどう歩いたのかよく分からないのですが。


 彼女の私室と言うからベッドルームなのか? と思ったが、そこにサイドルームがあって応接セットが置かれている。姫は私に上座を進め、自身の隣に近衛師団長を座せた。

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