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雪待つ花は死の香り〜ノマド転生者の姉妹は幸せになりたい  作者: 里井雪
王都

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飛龍



 急いで、宿屋に戻り、身の回りのものだけをリュックに詰めようとした、私。


「こんなことも、あろうかとさー、買っておいたのよ。コレ、皮製だし、リュックより丈夫かなー、って」


 うん? って、なんですか? ダフィーネさん、その赤いリュック? いやー、それ、日本ではランドセルって言うのですが……。


 まー、折角の好意だしねー、てことで、私はセーラー、スク水、赤ランという、めっちゃくちゃ、マニアックな姿で王都に向かうこととなった。


「町中に降りると大騒ぎとなりますので、外れに待たせております」


 町外れにある小高い丘に飛龍が待機しているとのこと。後日合流することになったクロードとダフィーネが付き添ってくれた。冒険者ギルドに「準備中」の看板を出してアリーナも加わった。


 到着すると、いたいた! 飛龍君。頭から尻尾まで約十メートルほどか、大きな翼のあるワイバーン型の魔獣は、深い青、群青色をしている。


「セイリュウと言います」


「魔族の言葉ですか?」


「ええ、スノウさん、よくご存知で」


 あーー、そうか、今までなぜ気付かなかった? 魔族の言葉は、他種族と大きく異なる。「基本、すべての音が母音で終わる」「子音の連続はほぼない」「『リュ』のような拗音」……。そう、日本語にそっくりなのだ。


「よし、よし、大人しく待っていてくれたんだな。感心、感心」


「グルルルル」


 爬虫類のように下から上に閉じる瞼をしばたかせ、金色の瞳でこちらの見つめる飛龍は、首の後ろのところに一人掛けの鞍が縛りつけられているだけ。確かに、その体つきからも大量輸送には向いていないようだ。


「じゃ、早速行きますか?」


「はい! 失礼ながらスノウ様は、私の前に相乗りとなります」


「ああ、大丈夫ですよ。お気になさらず」


 私は赤ランを満員電車に乗る時みたいに、前で抱えた。


「では失礼します」


 ジェームズ君、イケメンの優男に見えたが、さすが兵士、私をお姫様だっこし、飛龍が広げた翼の根元を踏み台する。主翼の根本を踏み台にしてコックピットに乗る、かつて地球に存在したレシプロ戦闘機にパイロットが乗る要領で鞍に飛び乗った。


「少々、狭いですが我慢してください」


 イケメン飛龍団長は、私を股の間に挟む形で二人まとめて、クロス型のシートベルトを締めた。おそらくこの子が性奴隷にされていた時の「残留思念」だろね、今の私は直近で嗅ぐ男の臭いがちと苦手だ。あまり強いと吐きそうになる。


 でもね、ジェームズ君は身だしなみにも注意を払える紳士のようだ。猫の嗅覚をもってしても、気にならない程度の男臭さは、さすが。


「それじゃー いってきます」


「おう、俺らも後から行くからなー、気は進まんが」


「今の『気は進まん』は、スノウのことじゃないからねー」


「つまらん、フォローすんな」


「スノウさん、くれぐれも、お気を付けて」


「はい! アリーナさんの『気をつけて』というご意志、重々、理解しておりますから、ご安心ください」


 飛龍は翼を広げ大きく羽ばたく、一回、二回、三回……、次第、次第に風圧が増し、羽ばたきが揚力に変わるのは何かの魔法だろねー、まるでドローンのよう、垂直に上昇を始めた。


 そいや、今まで言ってなかったかな? これもあの女神様の作為で、この異世界の度量衡はメートル法なのですよ。瞬く間に高度は一万メートルに達した。この鞍にもなんらかの魔法が掛かっているのだろう、寒くもなく、息苦しくもない。


「では、いきます」


 飛龍は水平飛行を始め速度を上げる。ジェットコースターに乗っているみたい、ぐっと後ろに引きつけられるようなGを感じる。百キロ、二百キロ、……、千キロ、音速は超えたようだが、光速超えを経験した私には、どうということもない!


 フルールから王都までは、直線距離で約三百キロ、あの黒い森を踏破して行かねばならないことを勘案すると、肉食馬をもってししても三日は掛かる。それを飛龍はものの二十分ほどで飛行してしまう。


 やがて飛龍はスピードを落とした。


「見えてきました。あれが王都、アネモスです」


 おおお!!! いやーー、大きい、百年前では考えられない広さの都だ。


 金持ち喧嘩せずなんだろねー、魔法で豊かになった人族の間での戦乱は皆無だ。で、あるが故、王都であっても城砦など存在しない。


 市街地の広さは縦横四十キロ四方はありそうだ。日本で言えば札幌市かな? その人口は五百万を超えると言われている。


 街の中心に位置する四本の青い屋根、白亜の尖塔が囲む、巨大なドーム状の建物が王宮だろう。北部には広大な森林……。アレ?


 多数の人? いや、多数の魔族が集結しているように見える。


「あの森に続く開けた丘の人たちは? なんだか、軍隊のように見えますが」


「お気付きになられてしまいましたか。全く不可解な出来事なのです。二日前、彼らは突如、あそこに現れ、戦の準備を始めました」


 いまひとつよくない猫視力で見ても、ざっと数万の魔族軍。そりゃ、危急存亡の(とき)は宜なるかな。平和ボケと非難されれば、その通りかもしれないが、リーフの常設軍は数百の近衛師団止まりらしい。


 仮に「年」という単位で余裕があるのなら、予備兵を招集し、さらには徴兵、訓練もできるよね? 人族全般にこれだけ人口が増えているのだ、十万の兵力だって準備できたはず。だけどねー、突如現れた大軍に抗すすべなど無に等しい。


 仮にこの兵団が、リーフから最も近い魔族の国ザフラ軍だったとして、両国には約五千キロの隔たりがあるはず。行軍してくるのなら最低でも一年はかかるだろう。そんな大軍を動かせば、リーフの情報網にかかるのは必定。隠密裏に事を進めることなどできないはず。確かに不可解ですよねー


 だけど、アレ? なんか、引っかかるな。「突然」って言ったよね? 待てよ? 「突然、長距離をワープ(***)したように大軍が現れ……」ってこと? なにぃぃ! 「ワープ」だとぉぉ!!!!!


「あ、ああああああ!!!!」


「どうかされましたか?」


「いえ、『突然、大軍が現れる』という現象に思い当たることがあります。この件は、ジュスティーヌ姫に直接お話ししたいと思います」


 こんな奇跡を為せる者は、我が妹、シズクをおいて他にない、そうだよ、間違いない!!


 アストリアの言う通り、時空魔導士は稀有な存在。加えて、空間魔術に特化し、五千キロのワープ路を作れる者……。もしかして、シズクは魔族に加担した?


 いや、違う、彼女は脅され、無理矢理協力させられているに違いない! クッソ、魔族のヤロー。


「では、後ほどお聞きかせください。あの紋章のある王宮庭園に着陸いたします」


 確か、ヘリポートは丸にH、こちらは丸にDの文字、ドラゴンのDなんだろねー

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