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雪待つ花は死の香り〜ノマド転生者の姉妹は幸せになりたい  作者: 里井雪
王都

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王都の姫君

 五勤二休のペースでギルドクエストこなした三人。ずっと夏なので「今、何月か?」と聞かれても、答えに窮するんですが、カレンダーによると、私がこの異世界に来たのが一月、それから、半年、七月になっているはず。


「あの、ブランシュ=ネージュの皆様、ちょっと別室に」


 朝、適当なクエストを探すため、冒険者ギルドに顔を出した三人を見るや否や、いつになく真剣な表情のアリーナが手招きした。


 小さなギルドだが、受付カウンターの奥に応接室くらいはある。入り口から入って、一番近い一人掛けの黒皮ソファーにアリーナ、その奥の一人掛けに私、向かいの二人掛け手前がダィーネ、奥がクロード。この異世界にも長幼の礼、上座下座という区別があるんですよ。


 ねー、君がもし、リーマンならよーく覚えておくように。上司より先に名刺出しちゃダメだぞ。


「一月、スノウさんが来られた直後の盗賊捕縛クエストですが、王宮でお宝を確認したところ、なんと! 王家の秘宝が含まれていたらしいのです」


「え? もしかして、あのエメラルドですか?」


 宝の仕分けをしていた時の記憶がある。三センチ四方百カラットはありそうな、豪華な緑の宝石だったけどさ。「これが本物だったら国宝級の品、イミテーションに決まってる」と全員一致でガラクタに混ぜて送ったはず。


「王様がお怒りで?」


「いや、アリーナの顔色から、そういう話じゃないなー」


「はい、『秘宝をよくぞ取り戻してくれた、冒険者に褒美を遣わす』と姫君からの書状が届いておりまして」


「ふん! あの姫君だろ? 腹に一物あるに違いない」


「クロード知ってるの?」


「知ってるも何もねー」


 この百年で、王政は維持しつつも民主的な国家形態が出来上がってきたのは前に説明した通りだ。


 ただ、「民主的な王政」なーーんて言ってもさ、王宮側はどうすりゃいいの? すなわち、急速な社会システムの変革にキャッチアップできない王も多数いる。この国の王アンリ・ド・ナヴァールは、その典型のような人らしい。


 ところが、その子、王位継承権一位の内親王ジュスティーヌ・ド・ナヴァールは、まさに鳶が鷹を生んだ大天才だった。


 弱冠十五歳にして王の補佐役となり五年、21世紀地球の民主政治を熟知しているがごとく、その辣腕を振い出した。実質上、この国の行政は彼女が動かしていると言っても過言ではない。


 クロードの言いようでは「腹黒姫」になるんだけどねー、策謀術数に優れ、うまく王である父を立てながら、ジワリジワリとその影響力を増してるんだって。


「まーー、民の幸せを願う、という根幹には同意だが、目的はあらゆる手段を正当化する、あの考え方には少々ついていけない」


「あら、先生を見習ったんじゃなくって?」


「バカやろー、俺は情に厚い男だ」


 どうやらクロードは破門前に教会から派遣され、姫君の家庭教師をしていたようだ。


「あの、お話を続けていいですか?」


「あーー、失礼」


「早々、王都に来いと、支度金まで寄越してきました。クロードさんが仰るように、何か裏の意図もありそうですね」


「大方、スノウの噂を聞きつけたんだろ?」


「殺し屋をご所望で?」


「あーー、あのやり口なら権力を得るにともない、敵の数も増えてるんだろ、傍におけるボディーガードが欲しいって話かな? いやいや、あの姫のことだから、アサシンとして使うからってことかもしれん」


「いずれにしても、私の十八番ではありますが……」


「あのなー、言っとくがなー、あの姫、君みたいな可愛い女の子が大好物なんだからな」


「って、ああーー、なるほど」


「いや、スノウ、ここは、『ええええ!!』とかのリアクション欲しいわよ?」


「私、Hは、され慣れてるますし、お姫様ですよね? そんなに酷いプレイはなさらないかな? って」


「お前ねぇ〜」


「あ、あのーー、お願いします。私のお話を最後までお聞きください」


 アリーナによると、かなり訳ありではあるが、姫自らの召喚を断る訳にもいかず、「注意して行く」しか選択肢はないだろう、とのことだ。


「ま、大丈夫ですよ。どうしても気に入らないオファーを受けたら、王都ごとバラバラにして戻ってきますから」


「ちょっと、スノウさんなら、本当にやりかねない。あなた、いいですか! 『注意して』は、どうかお心を抑えて、という意味ですよ?」


 と、その時。


「王都からの急使です!! 誰か、誰か、いらっしゃいませんか?」


 受付の方から男の大声がする。あわてて、アリーナが部屋を出た。そのアリーナの顔を見るなり、って、ことじゃないかな。男は、またしても大声で、


「スノウさんという冒険者はおいでですか? 勅命です。至急王都への召喚に応じるように、とのことです」


 って、私、ご指名?


 しかたがないので、三人とも応接を出ようとしたら、急使の若い兵士を伴いアリーナが戻ってきた。ひとまず、私の席を譲り、着席してもらう。


「こちらの小柄な方がスノウ様ですね」


 と言った瞬間、金髪碧眼、イケメンの兵士はソファーを降り、片膝を立て儀礼のポーズをとった。


「私は飛龍騎士団団長、ジェームズ・リンドバーグと申します。我が敬愛する姫君、ジュスティーヌ様よりのご伝言でございます。『貴女様の偉大なる魔法で我が王都アネモスをお救いください』」


 彼「敬愛する」と言ったな? クロードの言う通り、やり手の姫君なんでしょうねー、王宮内の要職の男は全て籠絡済みってこと? でも、王都をお救いください、ってどういう意味?


「ちょっと待て、その慌てよう、戦争でも起きる、ということか?」


 クロードが割って入った。


「わ、私の口から申し上げることはできません。ですが、飛龍で来ておりますので、まず、スノウ様のみ先にお越しいただければと思います」


「よほど急ぐ案件ということですね」


 ダフィーネによると、本来魔獣である飛龍を手懐けるのは至難の技。王都、いやリーフ全体でも、騎乗できる飛龍は十に満たないらしい。


 飛龍を軍事目的に使う飛龍騎士団は精鋭中の精鋭のはずだ。その騎士団長を伝令に寄越すなど、普通ではあり得ない。戦争、暴動などの事件が王都で起きているに違いない。


「王都に変事あれば、当然、全国の冒険者ギルドにも連絡があるはずですが……」


「そ、その、申し訳ありません。私の権限でお答えするわけには参りません」


 うーーん、魔法ITとでも言えばいいのかな、遠話や幻影の魔法、遠隔通信については、むしろこちらの異世界の方が古くから進んでいた。地方ギルドとはいえアリーナはギルドマスター、王都異変の情報がないというのは不自然極まりないんだけれど。


「ま、でも、行けば分かるということですよね」


「お越しいただけますか!」


「ええ、ですが、ジェームズさん、姫君から私の魔法のことはお聞きでしょう? 私が救いの神となるか破壊の邪神となるかは、あなた方次第ということです。いいですね?」


「心得てございます」

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