葬式の宴
トウヒ(みたいな木)の高木が生い茂る森、日光が届きにくく下草や低木は少なめ。なーーんか、変な苔っぽいのが多いみたい。馬たちは、この手の場所に慣れているのだろう、狭い登りの街道を並足で順調に進んでいた。
「さて、どうだい、スノウ、水場あるかな?」
「えーーっと、あそこから街道を外れ、少し下ったところに川が流れていると思います」
「うん、じゃ行くか」
馬二頭を引いて急な斜面を下る。このあたりまで来ると、魔獣のレベルも随分と上がっている。ああ、狼型かな? 私は、馬が動揺しないよう、感知したらすぐ、魔獣の元に走り寄り、その首を落としていく。
十五分ほど下って、一行は、清涼な水流れる川に到着した。
「水浴びもしていこうかな?」
こういう場面で、スク水はとても有用だ。セーラー服を脱いでザブン。
あっ! いきなりはマズかったのかな?
羞恥心という感覚のない私、男性の前でいきなりとか、大丈夫かい?
「理詰めの人と見えるのに、姿の通りの天真爛漫さもある。スノウって不思議ね」
と言いつつ、ダフィーネも裸になって川に入って来てるんだけど。汗を流し、馬に水と餌をやり、フリーズドライのシチューをコンロで温めるようとしたクロードに私は、
「物足りないので、兎でも狩ってきましょうか? 近くに巣がありますし」
「おっ、いいね。頼む」
少し歩くと兎の巣が見つかった。枯れ木の枝を突っ込んでみる、驚いて飛び出してきた一羽の頸動脈をバッサリ。斬り口を下にし、服が血で汚れないよう、注意して戻った。
「さすが! 血抜きもしてるのか!」
クロードはナイフで腹を割き、内臓を取り出し、綺麗に肉片を切り分けて鍋に入れていく。異世界定番、兎シチューの出来上がりだ。
「この辺りでキャンプすると魔獣が寄ってくるよな。街道の近くに戻ろうか?」
魔法のテントを張る。テントは二人用一つしかないけれど、私は子供並みのサイズだから特に問題はない。夏とはいえ森の夜は冷え込む。でも、そこは、魔法の世界、シュラフがなくとも快適だ。
このあたりの緯度は、地球でいえばヨーロッパくらいだろう。温暖化もない異世界では、蚊に悩ませられることもない。って、寒くないんだって、なぜにダフィーネ、私を抱きしめる? 抱き枕の代わりかな?
夜明けとともに、昨日の川で馬に餌をやりつつの朝食。早々に三人はダンジョンの入り口に向かった。この「葬式の宴」、構造自体は極めてシンプルな一本道で二キロほどの洞窟といったところだ。
嗅覚だけではない、猫獣人は聴覚にも優れ、誤差コンマ5度でその方向を探知する。兎の時と同じだねー、この耳、右に左によく動くよ。
「二時の方向、百メートル!」
「OK!」
私が指示し、クロードは光属性の魔法エグゾルシズムを打ち込む。苦しくなって穴から出てきた蛇の首を私が落とす、という連携だ。こうしてるのは、私の魔法唯一ともいえる欠点、「見た物」しか切ることができない、という制約によるものだ。
ちなみに、エグゾルシズムっていうのは名前の通り除霊魔法なのだけど、闇属性の魔獣にはスリップダメージを与えるんだよねー
ダフィーネは後方警戒、緊急脱出アイテムを常備、さらに毒消し薬をポケットに入れ、いつでも治療できるように構えている。
魔獣というのは本当に不思議な生き物だ。その組成は素粒子レベルまで地球の生物とは異なる存在なのだろう。
兎、狼、鹿、蛇、トカゲ、恐竜まで、地球に存在、あるいはかつて存在していた生物に似た形をしてはいるし、斬れば血が出て倒してしばらくは「死体」となる。
だけど、数分後、きれいさっぱり、どこへともなく、消え去ってしまう。討伐者が浴びた血さえ例外ではなく、雲散霧消する。
とはいえ、彼らの血は特有の悪臭を放ち、浴びるなど以ての外だよ。うまく距離を取りつつ私は、的確に処理していった。
「待って! その先にトラップ」
ダフィーネの警告が飛んだ。
そう、ダンジョンに仕掛けられた魔法の罠、誰がどうやって作るのかは知らないが、は嗅覚や聴覚で感知できるものではない。彼女は精神感応魔法を持っているはずなんだけど、それだけでこんなに確実な感知ができるもんなの? ちょっと気になるなー
まーー、それはそれとして、ここの蛇型魔獣、形やサイズはマムシ程度のものだけど、その何倍もの猛毒を持っている。「私、毒蛇ですよー」とアピールしているかのよう、黒地に極彩色、赤、青、緑紋様のそれらを百匹ほど退治して、私たちはボス部屋の前に立っていた。
いやー、ダンジョンというのは、自然のもののはずなのにどこか不自然、何者か? って、誰だか分かるよね? の作為を感じる造りだ。
「おおお! すごいな、まだ、一時間も経ってない。こりゃ、攻略タイムレコード更新間違いなしじゃん」
「ほら、クロード、そういうの、死亡フラグって言うんじゃなかったかしら?」
確かにねー、気をつけて行こう!
「じゃ、行きますよ」
「OK」「了解」
私は魔法でボス部屋を仕切る鉄の扉を切り裂く。猫のごとく、いや、私、猫だ、素早くしなやかな動作で獲物に肉薄した。真っ黒な大蛇、全長三十メートルはあるか? 鎌首を持ち上げた高さは十メートル、三メートルはある十字に開く真っ赤な口を開け、ひと飲み、されてたまるか!
速攻、魔法で素っ首、落とし……。
「待って! 首を落としちゃだめ!!」
え? なぜ? なんで、ダフィーネの警告が間に合うの?
私の魔法はゼロ秒発動、速攻、クロスサーペントの首が落ちていたはずでは? と考えつつ、私は思考を並列処理していく、すなわち、疑念と同時に行動できるのですよ。
「後ろへ!! 逃げて!!」
素早く後ろに跳びずさった私はボス部屋の天井を三十メートル角の立方体に切り取った。
ガラガラガラガラ!!
轟音とともにボス部屋の天井が崩落する。大蛇は重さ数トンの土砂に埋まり絶命した。




