肉食馬
冒険者ギルドに寄って明日のクエストを探しつつ、遅めの昼食をとる。「溺れる人魚亭」に戻ったら、早々に部屋の変更をクロードが申し出た。
すでに清掃済みとのことで、引越し、といっても家具もカーテンも全て備え付け、タンスやら食器棚から中身を出して上階に運ぶだけの簡単なお仕事。ものの三時間で新居の整備が完了した。
あーー、ここはいい!!
東向きの窓の外のベランダから、北に黒い森が眺められる。トウヒの森は低山帯に広がっており、最高峰、標高千五百メートルのモン・シャンが聳えている。
「この部屋狙ってたんだよ。だけど、ちと資金不足でね。なにもかもスノウちゃんのお陰さ」
「そうそう、その通り」
「いやいや、私のような獣人で殺すことしか能のない者を、仲間にしていただき、『ありがとう』はこちらの方ですよ」
「ま、いつもスノウちゃんは奥ゆかしいなぁ〜 それはそれでいいところだけど。でも、今、俺たちのことを仲間って言ったよな? なら、もう敬称はやめようぜ」
「そうね、そうしましょう」
「はい。では、クロード、ダフィーネ」
「おう」「うん、それがいいわ」
「さって、明日のクエストなんだがな、ちょうどA級の『葬式の宴』があってさ、どうだろ?」
「今までは無理だったけど、スノウいれば大丈夫かな? 脱出アイテム忘れずに、で、やってみましょうか?」
「名前からして凶悪な感じのダンジョンですねー、面白そうですから、是非!」
ダンジョンを説明する前提として、今、私がいる異世界の有り様を語るべきだろう。この星の時の流れは地球とほぼ同じだと前に説明した。だが、四季が一年で巡るところまでは同じではない。
おそらく、女神アストリアは自身のテリトリーで、知的生命体が住むに相応しい惑星を見つけ、可能な限りその環境を改善した。神によるテラ・フォーミングということ、なんだろね。
まー、地球にも女神の「作為」が満ちているはずだから……。あー、「テラ=地球」は変かな? ゴッデス・フォーミング?
だが、彼女が認めているように神は万能ではない。地球に魔法はない、魔獣もいないし、ダンジョンもない。その代わり、ゲーム、RPGの世界に、これらは厳然として存在する。
RPGから異世界が創造されたのではない。異世界を知る転生者が、その存在を地球人に知らしめるためRPGを作った。いや、そうするよう、神がしむけたに違いない。すなわち、この二星は100パーセント「アストリアの作為」で錬成されている、ってこと。
分かったかなー??
ダンジョンの中の魔獣は定期的にポップする。地球の物理学では説明できない、魔法法則によってどこからともなく現れる。
ただ、そのポップ間隔はRPGとは大きく異なる。一度、ダンジョン内の魔獣をボス含め全てを狩ってしまえば、数か月から一年に渡る長期間、そこは安全な魔石発掘鉱山となる。
当然、ダンジョンの難易度が高いほど、希少な魔石が産出するということになる。今回のダンジョンボスは巨大なクロスサーペントらしいが、通称『葬式の宴』などと呼ばれているのは、挑んだ冒険者に多数の犠牲が出てる、ということだろうねー
「ま、あそこがヤバイのは、毒蛇が巣穴に隠れているってところだろうけど、スノウの嗅覚とダフィーネの感知があれば大丈夫のはず。いざって時は、俺、本職は僧侶だからなー」
そんな話があって一行は、冒険者ギルドの夕食ついでに、クエストを受注することにした。
そして翌朝。
「二泊三日の行程だな。馬とキャンプ道具を借りに行くか」
「ああ、そうね」「了解です」
こは冒険者の拠点だ。当然のこととして馬や道具をレンタルする店も存在する。町外れの森へ抜ける道端に、馬の運動場を完備した牧場風の店ベツレヘムがあった。
「おおお! クロードの旦那、お久ぶりですねー、あー、それが噂のアタッカー嬢ちゃん?」
「初めまして、スノウと申します」
「馬とキャンプ道具ってことは、『葬式の宴』ですかい、くれぐれも気をつけてくださいね」
「えーーっと、馬は……。あれと、あれがいいなー」
「さすが旦那、お目が高い」
クロードが指さした二頭の馬、一頭は芦毛、やや小ぶりなので牝馬だろう、足の速そうな馬だ。もう一頭は黒鹿毛の大きな馬、荷物運搬用なのかな、いかにも丈夫そう、多分、去勢馬だと思う。それぞれ、なーーんか、人族がカッコつける時はエルフ語なんかな? 白い風、黒い風という名だそうだ。
だけど、あれ? この馬、口を開くとワニのように凶悪な歯が埋まっているのですが……。
「ああ、こいつらの主食は肉だが、性格は大人しいから」
すごい! すっごいなー、これも魔法による遺伝子工学の成果なんだろねー
そりゃそうだ。草食である馬は極めて「燃費」が悪い。
地球の中世で馬の旅は飼い葉確保が重大事、食べさせる時間もあって、効率の悪い行程となっていた。これを解決するため、人族は自動車を開発する代わりに、肉食の馬を作ってしまったってことだね。
これなら、魔法フリーズドライで軽量化した餌を携行すれるだけでいい。川があって水が確保できれば、馬に食事を与えるのはとても簡単だ。「本当」の馬も反芻はしないが、食べるのは燃費が悪い植物燃料、鯨飲馬食というように、たっくさん食べないといけない。これに比べて肉食馬は、お肉だからさー、食べる時間も短いわけですよ。
いやー、百年大昔だねー
「じゃ、借りていくな。こちらが半金」
「へい、まいどあり」
馬に乗れない私はダフィーネの前で二人乗りとなった。三十キロそこそこの私と細身のダフィーネだから「白い風」の負担になることはないだろう。
「黒い風」の方はキャンプ道具も運ぶ。テント、グランドシート、フリーズドライの食糧、飼い葉桶、鍋、コンロなどの装備、小さく折りたたむ魔法でダッフルバッグに収める。これを鞍に縛りつけたクロードは、ひらりと馬に跨った。
各自のリュックには水筒と身の回りの物を入れ、準備万端! いざ、ダンジョンへ。
馬屋→厩戸→ベツレヘムです。




