秘密の蜂蜜
この百年の経済発展で、人族の暮らしは随分とよくなっている。かつてのように、農奴もいないし、罪人や私のような超貧困の獣人を除けば、奴隷もいない。
ただしぃー、なんだかんだ言いながら、獣人ってさ、人族の亜種扱いだし、日本で言うところの「狐憑き」、うさんくさいイメージが纏わりついて、なにかにつけ差別されてる、というのは事実なのだよ。あーー、話が逸れたねー
人族において、貴族、平民の身分差はごくごく形式的なものとなった。すなわち、貴族は地球でいうところの行政官であり、王は選挙を経ない大統領、というような位置付けにある。
平民である、商人、農民、職人は働いて金を稼ぎ、行政府としての「王宮」に所得税を払う。王宮は税金を使って行政サービスを行う、というシステムが確立しているってこと。
なので、平民といってもその生活はかなり優雅なんだよねー
クエスト翌日は休養日にし、私たちは町に出た。「豊かな平民」を象徴するかのように、こんな田舎町でも瀟洒な家屋が多い。季節は常に夏、家人が丹精込めた紫のシャクヤクが揺れている。
「さってー、大金も入ったし、予定通り、もうちょい大きな部屋に越そうかねー」
「ああ、それがいいわね。ほら、三階のお部屋、空いたって言ってなかった?」
「おーー、あそこはいい、ベランダ付きのペントハウス、ってな」
「あの、当然ですが、私も半分出しますよ」
「いや、三分の一だ。これからも、それで行こう。じゃ、帰ったら早々手続きだな」
「それより先に、ほら、銀行、銀行」
「銀行?」
「そういや、昔はなかったんだな」
あーー、そっかー、当然、そりゃそうなるでしょ。
百年前に比べ、人族の生産力は飛躍的に向上し、その富は公平かつ民主的に民にも分配されている。いや、まー、地球とは大違い、インフレもないこの異世界。でもさー、個人がそれなりの大金を持てば、防犯上の問題が生まれる。
そこで、魔法世界の渋沢栄一、いたんだねー、銀行というものが創始された。仕組みは地球のそれと同じ。お金を預かり投資に回し預け主に利子を払う、以上。
一行は町の中央付近にある一際立派な石造の建物に入った。
「いらっしゃいませ。プライメイト・バンクにようこそー」
「え! これ……」
入れば驚きの光景が待っていた。
ファミレス店員のように声を掛けてきた銀行員。一応、キッチリしたスーツ姿だが、その実体は朧げなホログラムだ。21世紀の地球を知らなければ、腰を抜かしていたかもしれない。
あっ! いや、そうでもないかー、幻影を生む魔法などというものは、昔から当たり前に存在していた。ホログラムはその応用に過ぎないよね?
クロードの説明によると比較的新しくできた銀行は頭取と一部役員を除き、ほぼ全ての業務が無人で行われているらしい。すなわち、魔法AIが管理している。
そうそう、そうなのだよー、魔法と人工知能は相性抜群じゃないですかっ! そもそも、そもそもですよ、魔法というものは「思考」「想い」によって発動するのですよ。
だから、こちらの異世界の方が「脳科学」の研究は進んでる、ってこと。ニューラルネットワークと同等の考え方は、百年前からあったんだなー
人族の発展は、「伝統墨守・唯我独尊」のエルフ族、「用意周到・動脈硬化」なドワーフ族に比べとても柔軟で、新しい技術を積極的に取り入れたという点に負うところも大きいんだろね。
親切な受付AI「銀子ちゃん」のガイドに従い三人はそれぞれ自身の口座を作って、ATMに白銀貨を入れ、銀貨数枚を引き出した。
当然だが、通帳などない。各自の虹彩認証でシステムにログイン、残高や利率がATM画面に浮かび上がる仕組みだ。画面といっても最新鋭のホログラムディスプレイだよ。
えええええ、利率五パーセントだって!!
日本のバブル期のようじゃーないか! 一億ほど預けておけば一生遊んで暮らせるのでは? ちなみに、この銀行、国を跨り人族共通であるばかりではなく、多種族にも広く門戸が開放されている。
魔族を除く世界中の金を集約するテラバンクとなっているってことだけどさ、あのねー「霊長類銀行」ってねー、ネーミングセンスに、人類の不遜さを感じてしまうんですが……。
とはいえ、世界銀行を人族が抑えてるってことは、ねー、まっ、狡猾という意味で聡いよね。
「さって買い物でもして帰ろうかな」
「そうそう、スノウちゃんの普段着がほしいわねー」
この世界の衣類には清浄の魔法が掛かっており、好みの衣服を着たきりでも十年ほどは新品のような風合いが保たれる。だから、魔法の賞味期限が切れたら捨てて買い替える、というのが普通なんだけどね。
私のスク水みたいなSSランクモノなら百年持つんじゃないかな? 人族なら一生物ということになる。とはいえ、仕事着と普段着くらいはあっていいかも。
今日のクロードは白のTシャツに、やっぱり黒のリネンジャケットとパンツ、ダィーネの方は涼しげなクリームイエローのワンピに白のサンダルという出立ちだ。
に比して、私はスク水セーラー、人目を引くというか、どうしても悪目立ちしてしまうし。
さっきから、白いお洒落な建物にある洋品店のショーウィンドウを熱心に眺めているダフィーネ。「秘密の蜂蜜」って、なんか、どこかで聞いたことがあるようなネーミング……。
「このお店、可愛い服ばっかりじゃない! スノウちゃんにピッタリなのが、きっとあるわ」
って、思い出した!! 日本にいたころ、三十路で死んだ私には遠い存在だった。気になってはいたが、恥ずかしいという感覚もあって、着たことはない。
マネキンが着ているフリル装飾過剰なピンタックヨークシャーシャツ、大きな赤のリボン、「可愛い」とは、思うけどさー、ここは、#地雷系の専門店だろね。
「あ、あのー、ちょっと、ここは」
「なに言ってるのよ、あなた、まだ十五歳でしょ? 獣人の寿命って二百年くらいだったかしら。ってことは、まだティーンとも言えない年齢じゃない。可愛いお洒落をするべきよ!」
と、ダフィーネに腕を抱えられ、店に連れ込まれた。
「いらっしゃいませ」
「あ、お姉さん、これと、これと、これ、試着していいかしら?」
ダフィーネの強引さに負けて、ウィンドウに飾られていたシャツのリボンを白に変更、ハードバックル付きで柳腰を強調するバッスルスカパン、というチョイスになった。
黒のメリジェーン履は魔法の関係で外せないが、ニーソをオフホワイトのフリル付きに変え、ピタリのコーデとなってるんだけどさ。
「これ、スカートに見えてパンツだから安心ね、えーーっと、リボン、リボンは黒がいいかしら」
黒のリボンを二つ購入したダフィーネはブラシを借りて、私の髪を猫耳の後ろでハーフツインにまとめる。
「素晴らしい! まるで絵本の国から出てきた妖精さんのよう、よーーーく、お似合いです」
店員のお世辞を聞きつつ、#量産型女子の出来上がり。これなら、目立たなくていいのかな? いやー、むしろ逆な気もするのだけど。
払うという私をこれも強引に遮って、金貨一枚を出したダフィーネ。十万円! いや、ちと高いのでは? クロードは終始、ニヤニヤ笑って店の隅で様子を見ていた。
ちなみに、この世界の通貨はとてもシンプル、全世界共通で、青銅貨、銅貨、銀貨、金貨、白銀貨の順だ。またしても、無理矢理の日本円換算で百円、千円、一万円、十万円、百万円くらいに考えれておけばいいんじゃないかな。
今度はPixAIでやってみました。こちらは、少しセクシーな感じになりますねー




