使えない神器
「それじゃー、いいかな? お宝を確認しようぜ」
黙って聞いていたクロードとダフィーネ、首領と思しき男に尋問し、奥の部屋が盗品格納庫だと白状させた。尋問と言っても「質問に嘘偽りなく答えろ」と命令するだけだけどね。
「おおーー、こりゃ。すごいな、すごいぜ!!」
クロードの声が、木造のログハウスに響いている。当然のことだが、これらは盗品だ。捕縛したからといって、冒険者が勝手に処分することはできない。
人族の間に明文化された法はないらしいが、慣例上、一旦、この国の行政、司法を司る王もしくは領主の管理下に置かれ、盗まれた者の縁者に下げ渡されるということになっている。まー、こんだけ高価そうなのは、王宮直行かもね。
でも、例外があるんだなー、見つけたお宝の内、一つだけ冒険者が自由にしていい、という決まりだ。
「あああああ! これ、すごい! 神器じゃん! てか『使えない神器』ナンバーワンだけどなー」
「クロード! 違う、違うわよ、コレ、スノウちゃんが使えば、マジモンの神器だって!」
「あ、ああああああ!!!!!」
クロードの解説によると、これは、アトリブートゥ・コンヴェルティーアルング・リング、長いので略してアト・リング。ドワーフ族に伝わる伝説の神器らしい。
この異世界の魔法には、火・氷・風・土・雷・水・光・闇・無、九つの属性があるが、それぞれを他属性に変換するには非常に高度な技術を要する。これを実現する魔道具は確かに神器と言えるが、どうやら欠点が二つあるらしい。
一つ目、変換元は無属性の魔力のみ、変換先は雷魔法に限られるという制約がある。無属性魔法を持っている者は、ごくごく稀で、使える人はこの世にほとんど存在しない。
二つ目は、この魔道具は変換効率が極めて悪く、相当大きな魔力を注がないと実用に耐える魔法にならない。
でもさー、分かるよね? 私にとって、この二つは全くのノー・プロブレムなのだ!
「あっ、そうだ! 素晴らしい使い方があるわ。あのダガーにちょっとだけ雷魔法を込め魔法剣として使えば、人を気絶させることができるじゃない!」
「おおおお!!! なるほど」
「あー、それは素晴らしい!」
さっきのように絶妙のタイミングで脅しが効けばいいが、そうもいかなくなるケースも多い。そうなると、私は、殺すか、手足を切り落とす選択肢くらいしか取れなくなる。これをスタンガン代わりに使えば、無用な残虐行為をしないで済む、という理屈だ。
「って、盛り上がっちゃったけど、私が貰っていいのですか?」
「当然でしょ? 今回の最高功労者ですもん」
「ああ、その通りだ」
「うふふ、私も異論ないわ、で、さーー、ス・ノ・ウ・ち・ゃ・ん♡、ずっと気になってることがあるのよねー、その首のアザ、見目麗しいあなたの魅力が半減しちゃうじゃない」
生まれてまもなくからだと思うが、十年以上もずっと隷属の首輪を巻かれていた。獣人の回復力、クロードの治癒魔法をもってしても、首にある薄いピンクのアザを消すことはできなかった。
「ちょうど、いいものがあるのよ。コレ、どうかしら?」
と言ってデュランはポケットから赤いリボンを取り出した。
「一応、魔道具だから巻いて結べば簡単には外れない……。って大丈夫よ、呪いはかかってないから」
「あ、はい、ありがとうございます。これ? 可愛い鈴? 鳴らないけど」
いやはや、猫に金の鈴ですか? だけど、ちょっと可愛いかもね。
「その鈴ね。メモアールクロッシュ(思い出の鈴)と言って、『待ち人来たる』のお守りよ」
「って、あれ?」
「あーー、昨日な、スノウちゃんが酔っ払って、妹探してるって言ってたからさー、すまん、デュランにバラしちまったんだよ」
「可愛かったわよ、酔っ払ったスノウちゃん、なんだか年相応な感じで」
「ちょっと、揶揄わないでくださいよー、ああ、そうなんですね、私、そんなことまで喋っちゃったんだー」
「ウフフ、あのねー、スノウちゃん。私から一つ、忠告しておいてあげる。仲間を思い、余分な負担を掛けないでおこうとする。美しい思いやりではあるけれど、当の仲間からすると、とっても残念なことなのよ?」
「心しておきます」
首のアザは「私は奴隷でした」と言って回っているようなものだ。それを鑑みた深謀遠慮、さらには忠言、この人、やっぱ只者じゃないよね?
だけど、なぜ? やたら、女である私を「可愛い」と言う。実のところ彼、どうなのよ? まー、深く追求するのはやめておこう。早々、もらったリボンを首に巻いてみる。
「あ、後ろ、私が結んであげる」
ダフィーネが蝶結びにし、結び目に「解けない」魔法を掛けてくれた。
「さぁ、帰ろうか、これなら夜までにギルドに戻れるな? ああー、腹減った。まずは、持ってきたパンで軽く昼だなー」
「ですねー」
四人はクロードがリュックから出したライ麦パンと干し肉で軽い昼食を済ませた。
「じゃ、改めて、って、このお宝どうやって運ぶ? あ、そうか!」
「オラオラ! お前ら、これから死ぬまで奴隷だかんな! チャッチャと動け!」
二重人格? このドスの効いた声、デュランはとても面白い人だ。十一人の盗賊団は、分担してお宝を背負い、私たちの後に続く。殿はデュランが務めるようだが……。
彼はどこからともなく、馬に使うような短鞭を取り出し男たちの尻を叩いている。隷属の魔法により、サボることなどできない彼らなのだから、意味もなく叩いている、ということになるよね。コレ、もしや? 彼の「趣味」じゃないの?
「ヒー、ヒー」と泣き叫ぶ男たちの声に耳を傾けるデュランの顔、こんな私にも「ヤバイ恍惚感」が手に取るように伝わってくる。
日暮前、一行は冒険者ギルドに到着した。目を丸くするアリーナと冒険者の面々。カウンター奥の部屋にお宝を運ばせた後、デュランは、
「じゃ、いいですね? コイツらは私が貰い受けて行きますからねー」
死刑以外の刑はなく刑務所もないこの異世界では、私刑が横行している、ってことだよね。
「では、よろしくお願いします」
アリーナは当然のことのように答えた。彼らの犯罪は「奴隷に堕とされるに足る」ということだろう。百年前にもあったのかなー、デュランがアリーナに断ったのは、ギルマスという社会的地位のある者に確認を求めることで、行き過ぎた復讐行為を抑止する、という意味合いがあるのだろう。
この異世界、明文化された法律はなくとも、慣習によって秩序が保たれている社会ってことになるねー
「さて、では、こちら報酬になります」
白金貨三枚。魔法文明下のこの異世界、前にも言ったけど、何が高くて何が安い、地球とは大きく異なる経済状況なのですよ。無理矢理、ほんと無理矢理、日本円換算すると三百万といったところかなー、犯罪取締りは王宮の依頼クエストとなっている関係もあり、高額の報酬が出る。
「盗品は整理して、明日王宮に送ろうと思いますが、クロードさん、ダフィーネさん、仕分けをお願いしていいですか?」
「いいけどさぁ〜 よさげな短剣があったんだよねー」
「ああ、分かりました。分かりました。お三方に一つずつはギルマス判断で差し上げますから」
「あっ、私はコレ、貰いましたから」
「それって!」
クロードの説明にアリーナはにっこり笑って、
「どう表現したらいいのでしょう? ああ、そうだ! 神の配剤! スノウさんがこの町に来られた、それが全ての始まり、ほんとうに運命ですわ」




