アリーナ
チュン、チュン♪
うん? 鳥の鳴き声、これはコマドリか? あれ、私……?
レースのカーテン越しに差し込む明るい白い光は、第一の太陽A星のものだろう。私はベッドに寝ている自分を見つけた。
ハッ!
あーー、私、なんだかTシャツのようなモノを着ている。
「いや、悪い悪い、スノウちゃんがあんなにお酒に弱いとは。それ、俺のお古だがパジャマ代わりに使ってくれ」
「大丈夫よ。変なことしないようクロードは、ちゃんと見張っていたから」
「なーーに、言ってんだ、危ないのはお前の方だ!」
どうやら私はツインベッドの一方を占有していたらしい。
「ごめんなさい、不覚にも……」
「いいのよ、いいのよ、どうせ一つは余ってるんだから」
「って! あーー、そのー、そういう際には、私、表で時間潰してきますから」
「あはは、でも、そんな心配をしなくて済むよう、これから三人でガンガン稼いで、家を買う、ってどうだい!」
「ですね! お世話になりっぱなしのお二人に、恩返しをさせてください」
「またぁ〜 いいのよ、いいのよ、スノウちゃん可愛いから♡」
「最後の理由は意味不明ですが」
「あっ、香りで分かるでしょ? クロードがコーヒー淹れたから一緒に朝ごはんしましょ?」
「二日酔いとか大丈夫かい?」
「うーーん、少し頭が重い気がするくらいで……」
「さ、さ、じゃ冷めないうちに」
三人で食卓を囲む。こんな暖かい光景はいつぶりだろう? 前々世、病気がちだった妹と朝の出勤前にトーストを食べたっけ。思わず涙が溢れて……はこない、私の心はもう生来の殺戮者、そのレゾンデートルが揺らぐことはないようだ。
「お砂糖は?」
「なしで」
そう、この異世界、中世風には見えるが、魔法があるお陰でその実、文明はかなり進んでいる。砂糖なんて、百年前から魔法で大量に生産できたし、生物を腐らせない魔法も存在する。だから、この世界のお菓子は地球となんら変わらず、とーっても美味しいのだよ。
「さって、朝飯食べ終えたところでギルドに行ってみるか?」
「昨日の続きで冒険者登録する必要がありますもんね」
三人は揃って「溺れる人魚亭」を出て、冒険者ギルドに向かう。クロードは昨日と同じ黒のシャツにジャケット、デニムのパンツ、これまた黒のウエスタンブーツという出立だ。僧侶の癖にダガーを二本背中の方に挿している。
一方、ダフィーネは魔導士スタイル。モスグリーンのフード付きローブ、ブラウンのショートブーツ、なんだけど、腰にはやっぱりダガーを挿している。
私、私わぁ〜 スク水セーラー姿ですぅー♡
今の時間は午前八時ごろかな。これも、きっと、女神様の趣味なんだろねー、この星の自転周期は二十四時間、公転周期は三百六十五日、地軸の傾きはないが、ちゃんと四季というものも存在する。
この惑星の二つ目の太陽、B星は八十年周期で公転している。A星の惑星である、この星との距離次第で春夏秋冬の季節が巡る。80÷4=二十年ごとだけどね、ってなんか「ゲーム・オブ・ス●ーンズ」みたいだねー
そのB星が昇ってきた。この時間帯から夏の気温は急上昇するんだけど、魔法下着の効果は絶大だ。長袖を着ていても、汗ばむことすらないのだよ?
君、あのねー、猫耳セーラーの擬似JK汗まみれ、クンクンしたいってかっ! 体臭? 確かに私、猫っぽい匂いがしないではない。だけどさー、人の嗅覚が感じられるレベルじゃないと思うよ?
ちなみに、今朝着てたTシャツ、言われる前に「クロードのだ」って気づいてたけどね。まー、さすがに、猫だけに、そこまで気にしてたらやってけないのですよ。
ギルドに入りカウンターに向かう三人、十人ほどいる冒険者たちから好奇の視線を浴びてしまうのはいたしかないところ。昨日と同じ受付嬢が座っていた。
「おはようございます。そちらの」
「スノウと申します」
「可愛いお名前、真っ白いお姿にお似合いですわ。ああー、そういえば、昨夜、自己紹介を失念しておりました。アリーナです」
「まー、スノウドロップのスノウなんですけどね」
私の記憶には引っかかっているが、この子の記憶をどう検索しても「スノウ」なんて名前、欠片もない。あそこで「スノウドロップ」が浮かび、女神様の何か? を感じたわけだから、きっと、この名は彼女がくれたヒントなんだろね。
ならば、妹の手がかり? 彼女の名はドロップ? 名前にしては違和感がある。日本語風にシズクだな。しっかし、コレ、女神様の皮肉かな? スノウドロップ、その花言葉は「あなたの死を望みます」なんですが。
「まずは、スノウさんの冒険者登録ですね。では、魔力測定から。こちらがドレーツァールメッサーとなります」
「ドレーツァール……?」
「ああ、そうかスノウちゃん知らないんだな。これは魔力を測る機械さ」
こんな機械もできたんだ! 魔法の力といえば、この異世界ではいわゆるMPではなく魔法加速度のことだけど、微分して計算するより、計測開始から一定時間後の回転数(RPM)=魔力を測定すればいいってことかな? なーる、タコメーターね!
ちなみに、この異世界の共通語は人族が話す英語っぽい言葉だが、魔道具生産など技術に秀でたドワーフ族はドイツ語っぽい言葉、魔法や弓に長け何より長命で美しいエルフ族はフランス語っぽい言葉を使う。
ということもあり、魔道具はドイツ語、魔法はフランス語っぽい名前であることが多いし、人族も、なーーんか、日本人が西洋に憧れる感じ? エルフ族風の言葉を使うこともある。
ということだから、この測定器は、名称からしてドワーフの技術によるものなんだろねー
でも、どうする? 私は過去へ詠唱を飛ばせるスキルにより、どんな回転数でも叩き出せるわけだが、大きすぎるのはダメだろうけど、あんまり小さくてもねー
「では、こちらに手を置いて。魔力を込めてください」
なんかコレ、タブレット端末みたい。手を置いてっと、こんなもんかなー
「え、えええええええええええ!!!」
あ、やっば! 異世界転生最強モノのお約束? やり過ぎたかも? タコメーターがレッドゾーンを超え振り切っている。
「N/V、ニヒト・フェアフーグバー (Nicht verfügbar)なんて、初めてみました。しかも無属性って……」
英語ならN/A、計測不能って意味だぞ。
「あ、あの私」
「スノウさんのオーラから予想してはいましたが、さすがにここまでとは。えーっと、こちらにサインを」
「はい」
「Snow」と筆記体でサインした。前世の記憶で字は書けるみたい。
「少々お待ちください」
オフィスの奥に下がったアリーナは銀のペンダント? あー、ドッグタグだね、を持って戻ってきた。
「こちら、ギルド登録の証です。身分証明書代わりにもなりますので、首から掛けておいてください。本来のギルド規定によると、初登録のスノウさんはランクFから初めていただくことになるのですが、人並み外れた魔力を認め、特例としてシルバータグをご用意しました」
ドッグタグは昔と同じ、兵士のそれと同様だ。個人の名前が彫り込まれており、ダンジョンなどで死亡し、死体を持ち帰ることが不可能な場合、仲間がこれを預かり帰還する、という風習もある。
町外れにある冒険者の墓、その大多数は遺骨ではなくタグが埋まっている。それが冒険者という職業の宿命でもある。
ちなみにギルドの冒険者ランクは、よくあるS〜Fの七階級。クロードたちはAランクのようだが、タグについてはSがゴールド、Aがシルバー、B以下はブロンズとなっている。昨日の事件を見ていたアリーナが私に気を使ってくれたんだろね。私の実力を認め、クロードたちと同格とみなす、ということだと思う。
まー、「この子、見た目で判断してはダメですよ」と他の冒険者に牽制し、無用のトラブルを防ぐ、というギルド管理者としての配慮もあるんでしょうけど。




