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雪待つ花は死の香り〜ノマド転生者の姉妹は幸せになりたい  作者: 里井雪
冒険者ギルド

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11/13

ミゼリコルド

「いや、まー、スノウちゃんに武器など不要な気もするけど、得物を腰に差しておくだけでも威圧感が違う、さっきのような絡まれ対策にいいかな、と思ってさ」


 彼は十字の形をしたダガー、ミゼリコルドというタイプだろう、を取り出して私に渡す。


「こっちが、シース。サイズは大丈夫かな?」


 黒っぽいベルトを腰に巻いてシースを背中の方に回し、ミゼリコルドを挿した。


「ピッタリです! 何からなにまで、ありがとうございます」


 さっとダガーを抜き、指でくるりと一回転、ホルダーに戻すまでの時間が約一秒。目を丸くしている二人。私は殺し屋だったんですよ? 武器の心得があって当然じゃないですか? まー、武器で人を殺したことは一度もないけれど。


 うーーん、どーしよっかなー、さきほどから考えていた。地球で観たアニメの異世界転生モノ、転生者は特に意味もなく自身の出自を隠す設定が多い。なぜなんだ?


 あまりにも不条理な話をすると、正気を疑われるばかりか、何かよからぬ裏の意図があるのでは? と痛くもない腹を探られる、ってことかな?


 でもさ、魔法もあるファンタジーワールドで輪廻転生はそこまで驚愕の物語なの? とはいえ、転生を何度も何度も繰り返してます、とか、天界で女神様に会ってミッションを授かり……、まで来ると、さすがに荒唐無稽色が強くなるんじゃないかな?


「不思議でしょ? ただの性奴隷がダガーを扱い慣れてるなんて。そもそも、いくら嫌なことだったとしても、男の手をあっさり切り落とす手並み、異常だと感じますよね?」


 二人は、黙って首を縦に振る。


「私は転生者、前世の記憶があるのです。百年前、私は殺し屋だった」


「ああ、なるほど! そういうことか、納得いったよ。もちろん、スノウちゃんはわけありだとは思っていた。だが、『前世殺し屋だった』なんて、言いたくない秘密を打ち明けてくれたんだ、むしろ俺たちの信頼は増した、と考えてくれよな」


「ありがとうございます」


「クロード、ここで黙っているのは公平じゃない。私たちもちゃんと秘密を打ち明けるべきじゃないの?」


「そうだな」


「秘密ですか? クロードさんの治癒魔術の腕前から察するに、教会を破門されたという点はどうも納得いきませんが」


「そうかい。ま、答えは簡単さ、俺たちは実の兄妹だが、同時に恋人でもある。分かるよな?」


「インセストタブー……」


「百年前ならそうだったかもしれんが、今、子供は人工授精で生まれる。すなわち、セックスと生殖は全く別のものだ」


「あーー」


 なるほど! インセストタブー、近親相姦が禁忌とされていた大きな理由は生まれてくる子供に遺伝的な悪影響がある、ということだろう。


 もちろん、親がその立場を利用して子に性行為を迫るなどということは、あってはならない立派な犯罪行為だ。だけどさ、『オイディプス王の悲劇』をどう解釈する? お互い対等の立場で愛し合い、たまたま血が繋がっていた、となれば「話は別」という考え方もアリなんじゃないの?


 すなわち、新しい価値観、倫理観を是として二人は結ばれた。


 が、時代遅れの倫理観に固執する教会はこれを許さず、彼を破門した。ギルドの中でもクロード兄妹は微妙な立場ということだろね。白い目で見られつつも、安い値段で治癒魔法を施してくれるクロードには一定の敬意を払わざるを得ない。


「これを聞いて、やっぱりパーティに入るの辞めるとスノウちゃんが言っても引き留めはしない。親切に見せかけて、下心ありありだった俺たちだ、それは心得ている」


「うん、私もそれでいい、スノウちゃん、遠慮は無用よ」


「いいえ。それはないです、あり得ません、これからもよろしくお願いします」


「いいの?」「いいのか?」


「殺し屋だった私は、感情を廃し常に冷静でいられるよう訓練されています。すなわち、すべての物事は情ではなく理屈で判断する癖がついているのです」


「私たちが愛し合うことも?」


「ええ、人工授精の魔法が確立しているのですから、そういうことがあっても、当然かと」


 そういえば、人工授精魔法は百年前にも存在した。寿命が長い分、子供を成せる確率が低いエルフ族が開発したものだった。魔帝との戦いにより人口が激減した人族の窮地を救うため、エルフ族が秘伝を人道的観点で教えた、というのが始まりらしい。


 ところが!


 人族というのは、やっぱねー、狡猾なんだよねー。この技術を使って、産めよ増やせよ政策を推進しだした。


 ちなみに、人工授精という言い方をしたんだけどさ。


 まー、魔法世界ですからねー、マロルムというエルフ族にとって神聖な木に、髪の毛を捧げると、赤ん坊の入った赤果(せきか)、実が生るのですよ。


 要は、エルフ族は人族にマロルムの木の株を与え、これを人族は挿し木して、ガンガン増やしちゃったってこと。


 その結果、王族や貴族、一部の金持ち以外について「家族」という概念が崩壊した。子供は工場で生まれ、施設で育つ。成人後、独立するか? 親の家業を継ぐか? は、子供と親が相談して決める、というのが現代の常識となった。


 さらに、このことは女性にとっての妊娠、出産、男女ともに子育て、という重労働から解放するメリットも含んでいる。


 この点も相待って人族の経済力は爆発的に向上、人口はこの百年で約十倍、九億となっちまった。


 その結果、全世界でそれぞれ一千万程度しかいない、エルフ系種族である、エルフ、ダークエルフ、フェアリー、ドワーフ系のドワーフ、ハーフリング、ホビット、獣人系の猫、兎、犬、狼、熊、リザードマン……、そして魔族、を大きく引き離す結果になっているらしいのだ。


 当然だけど、数のパワーは経済成長を加速する、日本の戦後高度成長期に匹敵、いんや、これをも凌ぐだろろうねー、人族全体を国に見立てたGNP比は百年前の約五十倍。人族は名実ともに世界の支配者となった。


 今では魔獣蠢く東の大陸へも開拓団を出して、その支配領域を広げているらしい。


「ま、理屈はいいや。俺たちの邪心を知ってなお、一緒にいてくれるスノウちゃん、その心の広さに乾杯だ!」


 いつのまにかクロードは袋の中から赤ワインを取り出していた。どうやら、遅くなったのは、これを調達していたかららしい。


「じゃ、準備しましょうか。おつまみは、っと? あーー、チーズがちょっだけしかないけど。って、スノウちゃん、お酒大丈夫なの?」


「あーー、アハハ、こう見えて私十五歳、もう大人ですから」


 NPCの記憶を検索したが、だいたいそれくらいの歳ということしか分からなかった。お酒を飲んだ経験はないようだが、獣人の体は随分丈夫そうだし……。


 と、思ったら、私、全然、全くの下戸だった。おそらくこの体にも肝臓というものが存在するのだろうが、アルコール分解酵素がほとんどないらしい。


「ふぁ、ふぁたしふぁぁ〜 あのふぇすねえ じつわぁ〜 いもうと、妹、妹をさがしてましてぇ〜」


 なんか、さすがに、まだ、言わないでおこうと思っていた何かをペラペラ喋った気もするんですがー、あっさり白河夜船に堕ちていった、私。

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