お金が無いって悲しいことなの
異世界に飛ばされ? てから、おおよそ1ヶ月程経っただろうか。僕は今、元気に奴隷をやっています。
いや、別に最初に会ったあのおっちゃんが悪い奴だったとかそういう話では一切なく、聞くも涙、語るも涙の長〜い話があったわけですよ。
まあ短くまとめると金がないってだけの話なわけですがね。持ってる資本が身体しかないんじゃ、身売りするしか無いというだけの話ですよ。
とはいえ実際には奴隷と言ってもやれボロ雑巾みたいになるまで働けだのやれ今日の飯はパンのクズだけだのと言った過酷な労働環境ではない。
むしろ生活は保障されてるし、お給金も出る至れり尽くせりな労働環境だ。いやそこまででも無いか。風呂無し、娯楽そこまで無し、休みもそんなにあるわけでもなし。現代人にとって慣れても辛いものがある毎日です。
あの後人の暮らす文明圏にやって来た僕は、どうも市民権的な物も社会的信用というやつも持ってない人間にできる仕事は冒険者か奴隷の二択だという現実を突きつけられた。
冒険者? 馬鹿抜かせあんな化け物と戦ったり古代文明的な遺跡の罠を掻い潜ったりなんて出来るわけないだろいい加減にしろ。異世界に行けばチートな才能? んなもんねぇよハゲ!
と言うわけで実質一択だった僕はめでたく奴隷という社会的身分を手に入れ、この酒場で働いている訳だ。実際基本賃金で考えても何年かで自分の買い戻しが出来るくらいは貰えてるし、更にチップがドンって感じで1年も経たない内に自立することができるだろう。
「はい、エールと今日のおすすめお待ち!」
「おう、あんがとさん。……いやぁ、ノゾムが来てからここの飯も旨くなったなぁ! どうだ、解放されたら家で働かんか?」
「バカ抜かせ! これだけ自頭が良いし学問も出来るんだ、俺の伝手で家庭教師しないか?」
「あはは、いやぁ、まだまだここの奴隷ですんで」
愛想笑いをしながらおっさんたちの誘いを遠回しに断る。払いが良いからとちょっとした仕事の話を聞いたり、聞いたことがあるような料理をそれっぽく作っただけで良い評価がもらえる。実際この世界で生きていくだけならばなんとかなるんだろうし、上手くやればよっぽどいい暮らしだって出来るだろう。だが。
「聞いたか? 迷宮に潜ってた騎士団がまだ帰ってこないんだと」
「はー、いくら騎士様だからって迷宮相手じゃ無理だったわけだ。いくらどんな望みを叶えるなんて話でも、最奥なんぞ無理な話だろうに」
「今度の闘技場の覇者はいくら飲んでもなくならない酒を望んだそうだよ」
「そりゃぁうらやましい話だなぁ。前がいくら食っても無くならない肉だったか?」
酒場ではいろんな話が出回る。迷宮では死んだらそれまで、ただの一般人である僕がいくら望んだところでどんな望みも叶える迷宮の秘宝とやらは手に入らないだろう。しかしだ。
「しっかし神様の闘技場たぁすげぇよなぁ! 勝者には栄光を、敗者だってその奮闘を称えて命は失わないってんだから」
死なないなら、僕にもなんとか出来るのではないだろうか? 100勝すれば実際に神様が願いを叶えてくれるという話は、僕が元の世界に帰る希望の一つだ。帰るためなら、きっとなんだってやってやる!




