命あっての物種
カケラも幸いじゃ無い状況だが、あえて幸いにもと言わせてもらうと化け物の速度は軽いジョギング位の速度だった。少なくとも走っていれば追いつかれずに済みそうな速度のお陰で未だに僕は生きている。
とはいえ僕の体力も無限にある訳ではなく、逆に後ろから追っかけて来ているモンスターは果たしてスタミナ切れとかあるのだろうかって位元気そうに唸り声を上げている。ワンチャン大人しい草食動物でじゃれてきているだけという可能性を考えない訳でも無いが、その可能性に命を賭けれるかと訊かれたら100%誰だってノーと答えるくらいには3メートル近いサイズと造形が命の危険が危ないと教えてくれている。
「だれかーーー!! たすけてーーー!!」
「ギシャアアア!」
命懸けの追いかけっこは、しかし唐突に終わりを告げた。グチャリというか、ブシャリというか、まあともかくあまり耳にしたく無いぞわりとする音が後ろ聞こえて来たのは、つまり振り向いたらアレな感じの光景が広がるような何かが後ろで起きたという事なんだろう。唸り声というより断末魔っぽいのも聴こえたし。
問題はそんな生き物が潰れるような音がした原因が何か、という事だ。具体的には助けてくれる味方なのかよりあかん系の何かがただ大きい獲物を狙っただけなのか辺りの情報が知りたい。
恐る恐る振り返ってみると、化け物の頭と思しき部位にでかい槍のような物体が突き立っており、倒れ伏した状態で色々とぶちまけられている。少なくともよりでかい化け物の出現でない事に安心しつつも、目の前のスプラッタな光景に酷く気分が悪くなる。
しかしどうやら道具で殺している所を見るに何らかの知的な生き物が助けて来れたに違いないとおそらく槍が飛んで来たと考えられる方を見渡すと、どうも2〜3kmくらい先だろうか、人影のようなものを発見する。
どうもこっちに歩いて来ているみたいだが、手を振ると振り返してくれる様子から友好的な存在だと思う。大掛かりな機械のような物は見えないがもしかしてこの槍は手で投げたものなのだろうか?
人間かはだいぶ怪しいが取り敢えず他に何か手がかりがあるわけでも無いし、とりあえず第一村人発見とか言えば良いのだろうか?
「で、突然こんな所にいたと?」
「はい、気がついたらこの格好で」
いかつい顔のおじさんとのファーストコンタクト、異世界から来ましたテヘペロなんて頭のおかしい奴と思われるだけだろうし、取り敢えずは現状をありのまま伝えてみる。
「しかしまぁ、こんな所に坊主みたいなのが1人ってのはおかしな話だが」
「最初に遭遇したのはそこで倒れてる奴です」
誰かに連れてこられたというのであれば僕がその誰かを一番に探したいものであるが、ひょっこり何かあると近づいてみれば化け物である。厳しいってもんじゃないせめて靴をくれ。
「お前さん、何処でどんな暮らしをしてたか話せるか?」
「いやぁ、それもさっぱりなんですけども」
言葉が普通に通じるのはとてもありがたかったが、それ故に明らかに異世界だとわかる。何故小説の主人公が大半記憶喪失を騙るのかが頭でなはなく心で理解できた気がする。だって楽だもん。
「こりゃ話に聞く精霊のいたずらってやつかぁ」
「精霊のいたずら?」
どうやら上手く誤魔化せるような民間伝承的何かがあるらしい。
「ある日突然人がいなくなっちまった。探してみたら他の国に現れてたって話だ。どうも同じ人間らしいんだが、さてどうした事か記憶がさっぱり無い。喋れこそするんだが常識まで無くしちまったんで、きっと精霊に悪戯をされたに違いないなんていうよくあるおとぎ話なんだが、……さていざ現実となると困ったな」
実際あっちもこっちも困っているわけだ。向こうとしては厄介事な訳だし、こっちとしても異世界ヒャッホウどころか今すぐ帰って風呂入って寝たいまである。こんな化け物のいる世界に居られるか、俺は元の世界に帰るぞ! というやつだ。
「とりあえず、申し訳ないんですけども人里まで連れて行ってもらってよろしいでしょうか?」
「あー、まあそれはいいがちょっと待っててくれな。そいつを解体しちまうから」
あ、やっぱり獲物的なあれなんですね。ただでさえ見た目と臭いでやばいんだが。
「手伝えるか?」
「多分無理です」
確実に吐きます。




