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『悪役公爵令息は、穏やかな余生を望む』   作者: はたとうばん


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守護者たちの秘密会議

その夜。

 王都の一角にある、ルヴェリエ大公家の離宮。

 外から見れば、静かな邸宅にすぎない。

 しかし、地下の一室には、限られた者だけが集まっていた。

 シャルロット。

 アリエ。

 リュシアン。

 レオン。

 そして、ギリアム。


部屋の中央には、魔法によって映し出されたヴィンセントの姿があった。

 図書室で本を読む姿。

 廊下を歩く姿。

 誰かに話しかけられ、警戒しながら返事をする姿。

 シャルロットは、その映像をじっと見つめていた。

「今日も、彼は何かを疑っていたわ」

「俺にもだ」

 リュシアンが苦笑する。

「友達になろうと言ったら、まるで暗殺の依頼でも受けたみたいな顔をしていた」

「私が護符を渡したときも、罠を疑っていたわ」

 アリエが頬を膨らませる。

「私は本当に心配しているだけなのに」

「仕方がありません」

 ギリアムが眼鏡の位置を直した。

「彼は、すべての親切を自分への攻撃の前兆だと考えているのでしょう」

 レオンは、両手を膝の上で強く握った。

「兄上は……また、一人で全部背負うつもりなのでしょうか」

誰もすぐには答えなかった。

 一度目の人生。

 ヴィンセントは、周囲から悪役と呼ばれながら、陰で多くの人間を救っていた。

 弟の毒殺を防ぐために、自ら毒を飲んだ。

 リュシアンを守るために、敵国との取引の罪を被った。

 アリエの聖女としての力を利用しようとする貴族たちを牽制した。

 ギリアムの妻を救うために、禁忌に近い魔術へ手を伸ばした。

 シャルロットを守るために、彼女が知らないところで婚約破棄の責任すら引き受けた。

 そして最後には、誰にも真実を告げないまま処刑台に立った。


彼は、誰かに感謝されることを望まなかった。

 誰かに理解されることも。

 ただ、すべてが終わればいいと思っていた。

 その結末を知る者たちは、二度と同じ未来を繰り返さないと誓っている。

「今度は、彼に何も背負わせない」

 シャルロットが言った。

 紫水晶の瞳には、静かな決意が宿っていた。

「彼が何をしようとしても、私たちが先に対処する。彼が自分を犠牲にする必要のない状況を作るの」

「賛成」

アリエが頷いた。

「今度は私が、彼の前に立つ。敵が来たら、全部ぶっ飛ばすわ」

「物理的な解決に偏りすぎでは?」

 ギリアムが苦言を呈する。

「でも、効果はあるでしょう?」

「否定はしません」

 リュシアンが笑った。

「俺は、ヴィンセントの周囲を調べる。彼に近づこうとする連中がいれば、早めに気づけるようにする」

「私は家令様たちにお願いして、兄上に余計な仕事が回らないようにします」

 レオンが小さく手を挙げた。

 シャルロットは、彼を見て微笑んだ。

「ええ。あなたは、あなたにできることをなさい」

「はい」

 レオンは真剣に頷く。

まだ十歳。

 大きな権力も、領地を動かす権限もない。

 けれど、彼は学び始めている。

 将来、兄を支えられる人間になるために。

「問題は……」

 ギリアムが、映像の中のヴィンセントを見つめた。

「彼が、我々の行動をすべて疑っていることです」

「それは、時間をかけるしかないわ」

 シャルロットは静かに答えた。

「彼が再び、自分の命を軽く扱わなくなるまで」

 誰も反論しなかった。

 そのとき、映像の中のヴィンセントが、本を閉じた。

 そして、誰もいない部屋で呟く。

『……死ななければ、それでいい』

 その言葉を聞き、全員の表情が変わった。

 レオンは唇を噛む。

 アリエは拳を握る。

 リュシアンは、笑顔を消した。

 シャルロットは、静かに目を伏せる。

(違う)

 彼らは、心の中で同時に思った。

(あなたには、生きているだけでなく、幸せになってほしい)

だが、その願いをヴィンセントに直接伝えることはできない。

 真実を知れば、彼はまた自分を犠牲にしようとする。

 だから今は、隠す。

 過剰なほどに守る。

 彼がそれを罠だと疑っても。

 死亡フラグだと誤解しても。

 今度こそ、彼を生き残らせるために。

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