第四章 口笛を吹いた男
ガレス・ドーンは、法廷で笛の音を聞いた瞬間、自分の舌を噛み切りたくなった。
一度短く、二度長く。
十八年前、彼が考えた合図だった。炉仔計画の飼育舎で、三頭の幼竜に第三弁を開かせるための合図。幼竜は言葉を理解したが、人の命令には従わなかった。そこで銅の口輪に弁をつけ、笛と痛みを結びつけた。短い一音で首の針が刺さり、長い二音で顎の枠が開く。火を吐けば針が戻る。
ガレスはそれを「調教」と呼んだ。
王は戦争を終わらせる兵器を求めている、と当時の上官は言った。まだ戦争は始まっていなかった。
彼は傍聴席から逃げるように出たが、廊下で法院吏に呼び止められた。
「ガレス・ドーン殿。王立獣舎の元飼育官ですね」
「馬の係だった」
「召喚状です。明後日、証人として出頭を」
紙を受け取る手が震えた。吏は気づいたはずだが、何も言わなかった。
ガレスは王都南区の借家へ帰り、床板を剥がした。油布に包んだ笛と、銅の小さな弁がある。何度も捨てようとした。だが捨てれば誰かに拾われる気がして、十七年間持ち続けた。
笛は黒ずんでいた。吹き口には、若かった自分の歯形が残っている。
最初の幼竜が王都へ運ばれてきた夜を、ガレスは覚えている。荷箱を開けると、犬ほどの赤い竜が翼を釘で板へ留められていた。兵は三人死に、幼竜は顎を砕かれていた。それでも箱の隅で、残る二頭を翼の下へ隠そうとした。
ガレスは傷を洗い、肉を与えた。だから自分はほかの兵よりましだと思った。
口輪の設計図を引いたのも、喉の柔らかい場所を教えたのも、火を長く吐かせれば肺が裂けると知りながら弁を広げたのも自分だった。
ケルン渡りへ運ぶ命令が出たとき、彼は用途を知らないふりをした。王都から遠い実験場だと聞かされていた。だが村へ着く前、荷車には竜の爪と鱗が積まれ、兵たちは「襲撃後に撒け」と命じられた。引き返す機会はあった。ガレスは引き返さなかった。
記憶の男の声――「第三弁を開けろ」と命じたのは、近衛隊長ベランだった。すでに死んでいる。笛を吹いたのはガレスだ。
白い火が広場を三度なめた。一頭目は二度目で喉を裂き、二頭目はガレスの腕に噛みついた。三頭目は火を吐かず、針が目の奥まで入って死んだ。九十七人の村人のうち、どれほどが火で、どれほどが逃げ道を塞いだ兵に殺されたか、彼は数えなかった。
その後、戦争が始まった。
ガレスは酒を飲まずに眠れなくなった。王から銀章をもらい、兵器計画は成功した。捕獲された幼竜は十二頭に増えた。竜たちは報復で砦を焼いた。人の村が焼けるたび、ガレスは最初に火を放ったのはどちらだったか考えないようにした。
灰鐘市へ三頭を移送した日、最後の成竜オルヴァスが現れた。
あの日については、記憶を切り離していた。熱、鐘、荷車の下の子どもの手。オルヴァスと交わした言葉。全部を、朝になれば消える夢のふりにしてきた。
床下の笛を握り、ガレスは法廷で話す筋書きを作った。
自分は馬の世話係だった。炉仔計画の名は戦後に知った。笛は誰でも使った。ケルン渡りには行っていない。灰鐘市にもいなかった。
記録は王家が消した。隊長は死んだ。生きている飼育官は自分だけだが、だからこそ一人の証言でしかない。鱗の記憶にも顔は出ていなかった。
翌朝、彼は笛と弁を油布のまま炉へ入れた。
火が布を舐め、煙が上がった。銅の弁は赤くなったが燃えない。笛も形を残した。
ガレスは火箸で取り出した。証拠を消せなかったのではない。最後の一片まで失えば、自分が本当に何をしたかを、自分まで嘘にしてしまう気がしたのだ。
それを悔恨と呼べるほど、彼は正直ではなかった。
召喚の日、笛をまた床下へ隠し、もっとも上等な服を着た。
法院へ向かう道では、竜の処刑を求める群衆が叫んでいた。
「灰鐘の仇を討て」
ガレスも一度だけ、声を合わせた。
自分の声を隠すには、大勢と同じことを叫ぶのがいちばんだった。




