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第2話『冒険者たち』


 途方に暮れる俺に声を掛けてくれた冒険者パーティ。

 愚痴半分に話をするとその四人は各々の反応をくれた。


「解錠スキルがパッシブ!?はははは、聞いたことねえよ!」


 腹を抱えて笑う戦士の男性。


「いや、興味あるわ!ちょっとこの箱開けてみてよ!……って、もう開いてる!?」


 一人で驚いている魔術師の少女。


「本物か……すごいな」


 驚きを宿しつつも冷静な剣士の青年。


「けれど、なんとお労しい……」


 眉尻を下げ、俺に同情してくれる治癒師の女性。


 そんな四人は一頻り盛り上がった後、こう言ってくれた。


「儲かってないせいで金は出してやれねえが、身の安全と食事だけは確保してやろう。どうだ、一緒にダンジョンに来ないか?安心しろ。俺達は基本野宿してるんだ、街には入らない」


 渡りに船とはこのことだと、俺はすぐに飛び付いた。

 素直に金は出ないと言ってくれることも信頼出来る。

 今の俺に必要なのは金じゃない。命の保証だ。


 

 そしてその夜、言葉通りに近くの森で野宿の準備をしていた。

 獣の皮を敷いただけの簡易的な寝床に、唯一の光源である焚き火。

 

 すぐそこの川で、今は魔術師と治癒師の二人が水浴びをしている。それを遮るように、木の枝に括り付けられた布がカーテンの役割を果たし、目隠しをしていた。


 とはいえそちらを見ないように背を向けて、男三人で焚き火を囲み、他愛もない会話をしている。


「ただでさえ解錠とかいうハズレスキルなのにパッシブとはね。ついてないな、お前」


「おいおい、言い方ってものが……」


「いえ、良いんです。本当のことですから」


 苦笑するしか出来ない。紛れもない事実だ。

 肩を竦めたその時、背後から魔術師の悲鳴が響いた。戦士と剣士が武器を引っ掴んで振り返る。俺も急いで視線だけで追った。


「み、見ないで!あっち向いてて!」


 そこには慌てて川に肩まで沈み、一糸纏わぬ素肌を隠す魔術師の姿があった。隣の治癒師も同様だ。

 目隠し用の布を固定していたロープが全てほどけていた。役目を果たせなくなった布は地面に落ちてしまっている。


 首を傷めそうな勢いで焚き火に向き直る。

 同じようにそうしていた戦士が汗を垂らしながら問う。


「おい、カーテンも『錠』に含むのかよ!?」


「扉が開くのだ。カーテンもそこに含まれないとは言い切れない、か……」


「わ、分かりません……!ごめんなさい……!」


 意図的ではないが、自分のせいだということは身に沁みて知っていた。

 こういうトラブルの原因は、大体いつだって自分だ。

 背筋に冷えた汗が伝う感覚があった。


 ◇◇◇

 

 翌日、人生で初のダンジョンへと踏み込む。

 

 世界各地に点在する不思議なゲートを通ると行き着く異空間、それがダンジョンだ。

 中には様々なモンスターが生息し、冒険者達に襲いかかる。

 その危険を越えて、倒したモンスターの素材を回収し金に替えることこそが、冒険者の主な収入源だ。


「まあ、そう緊張すんなよ。お前は宝箱の鍵だけ開けてくれればそれでいい。安心してついてこい」


「はい、お願いします……!」


 宝箱とは、そのダンジョンに突然現れるものだ。どういう理屈なのかは分かっていない。

 ダンジョンのどこかに鍵があり、それを鍵穴に挿せば開くギミックだ。

 中には何かしらの品が入っている。それは安い回復薬だったり、金貨だったり、木の枝一本だったり、モンスター素材だったりと様々だ。

 

 考えてみれば何とも怪しいものだが、それでも利益を目当てにダンジョンを訪れる人々は後を絶たない。

 『そういうもの』という認識で、世界は動いている。


 幾度かの戦闘を終えても、四人は無傷だった。治癒師の出番もほぼ無い。

 四人は明らかにこのダンジョンに対して格上だった。

 その理由を問うと。


「お前はダンジョンに入るのが初めてだろう?勝手を知っておいたほうがいい。今後のためにな。最初から強いところに入るとビビっちまうだろうが」


 そう言って戦士は笑った。

 俺のために難易度の低いダンジョンを選んでくれたのだ。


「ま、レアドロがあるかもしれないしねー」


 魔術師もそう言った。

 レアドロとはレアドロップの略だ。ごく稀にダンジョンの難易度に見合わない貴重な報酬が、宝箱やモンスターから出てくることがある。それを略して、そう呼んでいるのだ。


(俺のためだけど、申し訳なく思う必要は無いって言ってくれてるんだよな……)


 もう家族以外から受けることはないと思っていた優しさに不意に触れてしまい、胸が疼く。

 自分が開ける宝箱がレアなものであることを祈りながら進むだけだ。


 不意に、剣士が短く声を上げた。


「どうした?」


 戦士が振り返る。

 剣士の手の中にはロケットペンダント――小さな小物入れの役割を兼ねたペンダントがあった。


「いつからだろう、これが開いていた。……中に入れていた物を落としてしまったようだ」


「ああ、大事にしていたっていう――」


 魔術師が言葉の途中で口を閉ざした。

 その気遣うような沈黙が、かえって針のむしろだった。指先が凍ったように冷たい。


(俺の解錠が、また――!)


 俺は顔を青くして叫んだ。


「す、すみません……!すぐ戻って探してきます!」


 戦士がそれを止める。


「ダメだ、一人で離れることは許さない。落としたモノは帰り道に探す。それでいいな?」


「……ああ。無くしてしまったものは仕方がない」


「申し訳、ありません……」


 細かいものを含めれば何度目になるか分からない謝罪だった。


 ◇◇◇


 それから少しして、重い物を引きずるような音が響いた。

 ゴゴゴ……と、岩を転がすような音にも聞こえた。

 全員が同時に足を止め、警戒し、耳を澄ませる。


 直後、数えられないほどの数のモンスターが通路の先から現れた。

 そのどれもが、今までのモンスターより大きく、禍々しい姿をしている。

 各々が叫ぶ。


「このレベルのダンジョンで、この数――!?」


「裏ダンだ……裏ダンが開いた!」


「ありえない!だって裏ダンが開く条件は……!」


 裏ダンとは、裏ダンジョンの略だ。

 本来のダンジョンの難易度より遥かに高難易度なモンスターが生息しているという、非常に危険な区域。

 勝手に開くことはなく、本来は希少なアイテムを揃え、特定の場所に捧げてようやく開くものだ。


 だが。

 四人の視線が、一斉に俺へと向いた。

 俺も、同意見だ。


(俺が……開けた……!?)


「走れ!走って逃げろ!」


 緊迫した声で戦士が叫ぶ。

 魔術師が急ぎ詠唱した魔法で放たれた炎の渦が通路を埋めた。だが、モンスターはその炎の中を突っ切ってくる。

 近付くモンスターを戦士と剣士が払うように武器でいなすが、その体には一つ二つと傷が増えていく。

 治癒師も必死に回復魔法を使っているが、走りながらでは万全の魔法は使えない。


 最後は全員で転がるようにしてダンジョンを出た。

 ダンジョンを一歩でも出れば、モンスターは追って来られない。

 俺以外はみんなボロボロだった。何もしていない、出来ない俺だけが無事だった。


 各々が呼吸を整えるだけの時間を要した後、戦士は立ち上がって言う。


「悪い……ロイド。お前のその『解錠』は、俺達の手には余る。あまりに、危険すぎる」


 それが彼らの総意であることを、沈黙が教えていた。

 当然だ。


「ご迷惑を……お掛けしました……」


 街でも幾度となく繰り返した謝罪を、また紡ぐ。

 立ち去っていく彼らの姿を見送り、俺はいよいよ途方に暮れた。


 見上げた空は、皮肉なほど雲一つ無い美しい星空だった。


 

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