第1話『スキル』
この世界の人間は、全員『スキル』を一つ持って生まれる。
それは『農業強化:農作速度+10%』みたいな地味なものから『超火力:筋力+100%』なんてブッ壊れスキルまで、様々だ。
誰だって、みんな強くてカッコいいスキルが欲しい。
だから16歳の誕生日を心待ちにするのだ。
16歳を迎えるその日『スキル解放の儀』を行うことで、自分のスキルを知り、能力を扱えるようになる。
まだ未熟な子供がスキルを暴走させてしまわないように、そういう仕組みになっている……らしい。
俺、ロイド・アベルもその中の一人だった。
スキル解放の儀を行うため、その日、聖堂の広間に集まった16歳の中の一人だ。
平民の生まれで、裕福ではないが食うに困るほど貧乏でもない。
どこにでもいる、ただの人間だ。
神スキルと呼ばれる優秀な能力を持っている事が判明すれば、国中からスカウトがかかる。
人生が一変するのだ。
この場にいる全員がその期待に胸を躍らせ、瞳を輝かせている。
そして、スキル解放の儀が始まった。
同じ日に生まれた国中の少年少女が順番に名前を呼ばれ、前に立つ。
未解放のスキルを解放出来る能力『スキル解放』を持つ神官が、一人一人の頭に手を翳し、宣言する。
「『使役強化:意思疎通』!」
「おお、動物やモンスターと会話出来るという……! きっと優秀な魔獣使いになるぞ!」
「『制作強化:制作品質+20%』!」
「ふむ……悪くない。仕立て屋にでも就職させるか」
宣言と同時に拍手が起こり、その子の親だと思しき男女が一喜一憂する。
「ロイド・アベル」
「はい!」
俺の番が来た。
周囲を囲うように立つ人影の中に両親の姿を見付け、力強く頷く。
母親は祈るように指を組んで、父親はその母を勇気付けるように肩を抱いていた。
……実の親ではない。捨て子だった俺を拾ってくれた、育ての親だ。
(強いスキルが欲しい! 国から直々に声が掛かるような優秀なスキルが! 戦闘でも机仕事でもいい、何だってやる! 金を稼いで、母さんと父さんに楽をさせてやるんだ!)
震えるほど強く拳を握り締め、神官の前に立つ。
神官は俺の頭に手を翳し、そして告げた。
「『解錠』!」
しん、と会場が静まり返る。
「……施錠された鍵を開けるという、あの……?」
「泥棒に多いスキルよね……」
可能な限り声を押さえた耳打ちでさえ響くような静寂だった。
少しの間を置いて、気まずそうな、空気を読んだ拍手がぱらぱらと起こる。
それからのことは覚えていない。頭が真っ白だった。
気付けば自宅にいて、両親が俺の肩を抱いて励ましてくれていた。
「冒険者のパーティに入れてもらったらどうだ! 宝箱を開けられる能力だ、重宝されるぞ!」
「そうよ、それがいいわ!」
必死の激励も耳に入らない。
(そんなの無理なの、知ってるよ……)
高名な冒険者のパーティはもうお抱えの専属解錠士を雇っているし、その席はほとんど空かない。
無名のパーティは解錠スキル持ち一人に金を払うのを嫌がる。鍵さえあれば開くからだ。
わざわざ戦えない解錠士を一人守る手間に加え、金まで払う意味はほぼ無い。
運良く新たに結成されたパーティに入れたとしても、結局解錠士だけは分け前をもらえなかったなんて詐欺みたいな話もよく聞く。
戦闘能力がないのだ、反発したって殴られて終わりだ。
街の隅っこでは、開かなくなった戸棚や鍵を無くしてしまった小箱の解錠を請け負う小さな解錠屋を営んでいる者もいるが、稼ぎなど知れている。生きるのでギリギリの生活しか出来ない。
だから多くの解錠スキル持ちが、泥棒などの道に進むと聞く。
どんな扉も、宝箱も開くのだ。さぞかし簡単だろう。
「……うっ」
思わず喉が引きつる。
途端に、両の目からぼろぼろと涙が零れ落ちた。
「ごめんなさい……父さん、母さん……っ、ごめんなさい……!」
俺を抱き締める温かい腕。
二人に恩返しをしたかった俺の夢は、こうして途絶えた。
◇◇◇
数年後。
俺は自室に一人閉じこもっていた。
「ふざけるな、犯罪者! 憲兵に突き出してやる!」
そう怒鳴られて殴られた頬が痛む。
母は少し前から、病に倒れている。
父は仕事だ。母の薬代も稼がなくてはならない。
今朝は母の体調が悪化したので、医者を呼びに行きたかっただけだ。
だが、俺のスキルが邪魔をした。
――突然だが、この世界のスキルは二種類に分けられる。
『アビリティスキル』と『パッシブスキル』だ。
アビリティスキルはいわゆる『使おうと思って使うスキル』だ。
例えば攻撃魔法や回復魔法。呪文を唱えたり、魔力を操ったりしてスキルを使う。
一方でパッシブスキルとは常時展開型のスキルだ。
例えば能力増加など。いつ何時でも、勝手に発動し続けているスキルのことを指す。
俺のスキル『解錠』は、パッシブスキルだった。
俺の意思とは無関係に、周囲の鍵を自動で開けまくる。なんともまあ、迷惑な話だ。
当然、本来そんなことはありえない。
『解錠』はアクティブスキルである。
その常識の前で『意図的にスキルを使っているわけではない』と叫ぶ俺の主張など、通るはずもない。
まさに人生を一変させた、魔のスキルだ。
今日は通りかかった魔獣屋の檻を全部開けてしまい、たくさんの魔獣が逃げ出していた。
慌てて魔獣を追いかけようと思って動き回るたび、またあちこちの鍵が開いた。
そしてしまいには殴られ、今に至る。
なんとか掛かり付けの医者を呼びに行くことは出来たが……。
(せっかく拾って育ててやった子供がこんなゴミスキル持ちだなんて、一体どんな気分だろう)
歩くだけで迷惑を振りまき、働きに出ることすら出来ない。
我が家の玄関だって施錠することが出来ない。俺がいるせいだ。
いつ泥棒に入られるか分からないし、そうしたら下の階で寝ている母さんは……。
『出ていけ! この街を出ろ! 犯罪者め!』
そう叫ばれた声が、言葉が、こだましていた。
「……そうするか」
両親に少しでも恩を返そうとするなら、それが最適解であることは分かっていた。
だが一度も俺を責めない二人の腕の中が、この家が恋しくて離れがたかった。
だけど、もう限界だ。
俺のせいで近所からも陰口を叩かれてるのを知っている。貧乏神のように、いつまでも両親を不幸にすることは出来ない。
「さようなら。父さん、母さん。俺は幸せでした」
そう短い手紙だけを残して俺は家を出た。
◇◇◇
「なんかちょっと、自害するみたいな雰囲気出ちゃってなかったか?」
街を出て、宛てもなく街道を行く。
手紙に残した言葉の選び方がまずかったのではと今更ながらに気付くものの、もう戻るわけにはいかない。
「でも、似たようなことになるかもしれないな……」
街道を辿ったところで、街には入れない。
同じような『事故』が起きるからだ。
かといって戦闘能力を持たない俺が、一人で街の外にいるのは危険すぎる。
いつモンスターが現れ、襲ってくるか分かったものではない。
だから戦えない人々は護衛を雇って街を出る。
だが俺の手元にあるのは、長年両親が与え続けてくれた小遣いを掻き集めた分だけだ。
護衛を雇うには到底足りない。
どうしたものか、と項垂れる俺の前に幸運が舞い降りた。
偶然通りかかった四人の冒険者のパーティが声を掛けてくれたのだ。
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