表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
72/114

託されたバトンの責任は結果よりも重い


清継きよつぐさん、

 昼飯どこに陣取りますかい。

 一番目立つ、グラウンドの中心なんてどうでしょう?」


「お前は俺を晒し者にしたいのか」


 一拍。


「皆見るだろ。

 なんで学年中の視線を浴びながら、飯を食わなきゃならんのだ」


「清継さんは、目立ってなんぼかと思いまして」


五里ごりよ。

 お前、動物園暮らしが長すぎて感覚が麻痺してるんだ。

 普通、食事シーンを見世物にしようとは思わない。

 早く人間界の暮らしに慣れた方がいい」


「へい」


 特別授業である体育大会も、

 残すところ種目はクラスリレーのみとなった。


 恋花れんかたち女子が参加した『二人三脚』は、

 意外にも長引かず、俺たちの競技よりも早くに幕を下ろした。


 ――意外、と言えば。


 恋花と笹本ささもとによる凶悪ペア。


 通称『チーム混ぜるな危険』は、

 そのレースで二位という好成績を収め、クラスの得点に大いに貢献したのだ。


 それだけでも驚きだというのに、

 スタート直後は大きくリードし、そのまま一位を独走。


 だが、ただでは終わらないのがあの二人だ。


 ゴール間際――


 まるで示し合わせたかのように。


 あるいは、最後に笑いを取りに来たかのように、

 見事なまでに派手に転倒。


 学年中の笑いを、きっちりかっさらっていった。


 その結果での二位。


 ゴール目前、恋花はほとんど屍と化した笹本を引き摺り回していたが、

 それでも十分すぎる見事な走りだったと言える。


 少なくとも、見ている側の記憶には一番残った。


 各種目が終わり、残すは一種目。


 その前に、五十分間の昼休憩が挟まれる。


 俺と五里は、

 グラウンドのどこで昼飯を食うか――


 わりと真剣に頭を悩ませていた。


圭吾けいごの奴、遅いな。

 あと一人連れて来るって言ってから、もう随分経つぞ」


「実はもう一人で飯食ってる説、ありますね」


「いや人格破綻が過ぎるだろ。

 もしそうなら、俺は明日から関わるの辞めるよ。

 怖すぎる」


 軽口は、風に紛れてどこかへ消える。


 ――と。


 ようやく圭吾の姿が見えた。


 待たせていたという自覚があるのかないのか、

 あいつは殴りたくなるほど晴れやかな顔で、こちらに手を振っている。


 ――しかも。


 小脇に、オタクモブ上野うえのを抱えたまま。


 圭吾は、実に楽しそうに言った。


「すまんすまん、遅くなった。

 野生の上野を捕獲するのに手間取っちゃって」


「圭吾よ。

 あと一人“連れて来る”って言うから何事かと思えば……

 誘うとかじゃなくて、ガチの拉致じゃねえか」


「だから“連れて来る”って言っただろ?」


「お前の出身地、北の方角にないか?」


 上野は羽交い締めにされたまま、

 魂の取っ手でも掴まれているかのような顔で、叫ぶ。


「離せええ! 僕を三次元に勧誘するな!

 君達と関わると、ろくな目に遭わなそうなんだよおお!」


「おいおい上野よー。

 ボッチで飯食おうとしてたから、

 仲間に入れてやろうと思っただけだぜ?」


「余計なお世話だよ!

 僕は一人に見えて、

 画面の向こうには沢山の仲間がいるんだい!」


「何言ってんだよ。

 三次元でボッチを許容する奴は、

 二次元でもボッチになるに決まってんだろ」


 ――圭吾。


 その発言は駄目だ。

 禁止カードだ。


 不意のダイレクトアタック。


 心のライフポイントをゼロにされた上野は、

 音を立てずに崩れ落ち、抜け殻のようになってしまった。


 五里が、溜め息をひとつ混ぜて言った。


「圭吾、そこまで言わなくても良かったんじゃないのか?」


「あれ、悪りぃ。

 言いたいこと、間違えた」


 何をどう間違えればそうなるんだ。


 砂糖のつもりで掴んだのが塩――

 いや、塩どころか塩酸だったのか。


 圭吾は上野を解放してから、少しだけ調子を落として言う。


「いや、本当に嫌だったら無理は言わねえけどよ。

 上野も一緒に来ないか? 俺達、結構お前のこと気に入ってんだ。

 俺はアニメとか詳しくねえけどさ、教えてくれよ」


「板橋……」


「圭吾でいいよ。

 同じ四天王だろ」


「その括りは嫌だ」


 ――こうして。


 圭吾の、雑でいて、少しだけ不器用な誘いによって。


 この日から、俺達いつもの三人に、

 上野が時々混ざるようになった。


 俺も、上野は気に入っている。


 また、そのうち絵を描いてもらおう。


 さて――腹が減ってきた。


「そんじゃ、そろそろ飯食う場所決め――」


 言いかけて、五里が首を傾げる。


「……清継さん?」


 俺の視線の先。


 ――恋花だ。


 しかも、今は一人。


 何故。どうして。ホワイ。


 思考が、三か国語で同時に転ぶ。


 俺としたことが。


 こんな冴えない男共とつるむより先に、

 やらなければならないことがあったはずだ。


 こんな好機、逃す理由がない。


 四天王メンバーに告げる。


「悪い、ちょっと振られてくる」


 ――あれ、今なんて言った?


 振られ続けて、脳が結果を先告知しちゃったよ。  

 負け慣れた豚野郎のマインドセットだ。


 まあ、いい。

 問題は――圭吾達が当たり前みたいに、


「おう、待ってるわー」


 と返してきたことだ。

 誰一人「頑張れ」とも言わないのが、逆に胸に来る。


 とにかく恋花を追う。


「恋花、今一人か?」


「二人に見える?

 まあ清継君の曇った目には、二人にも三人にも見えてるかもね」


「いやそれはもう、変なきのこ食ってるだろ。

 病院行くわ」


「それで、何の用なのかしら」


 ――さあ皆さん、お待たせしました。


 本日も元気に、

 声を張り上げて参りましょう。


「一緒に昼飯食おうぜ」


「はいはい……

 じゃあ行きましょ」


「いや、流石に『豚の方がマシ』は言い過ぎだろって――はあん!?」


 あれ、僕は既に、変なきのこを食べていたのかも知れない。

 幻聴が聴こえた。


 いやそんな馬鹿な。


 僕は負け慣れ続けた豚野郎。

 敗北し続け幾星霜。

 最近既に心守る為、薄く快楽すら見出せるようになったミジンコハート。


 ――いや、狂った詩を綴っている場合じゃない。


 聞き返すか?


 いや、これでやっぱり「豚の方がマシ」って言われてたらどうする。


 今すぐ神様に、

 来世は豚にして下さいって懇願しなければならな――


「ねえ、誘っておいて黙らないでよ」


「……俺は豚じゃないが、良いのか」


「え、本当に気色悪い。

 私、もう一人で行って良いの?」


「いやいやいや、待ってくれ。

 まさかお前が断らないとは思わなくて」


「うーん……どっちかというと、待ってたくらい。

 だから他の子の誘いは断ってたし。

 むしろ今日に限って清継君が来なかったら、どうしようかと思ってた」


 ――待ってた。


 その一言が、妙に引っかかった。


「え、何。

 お前やっぱり、俺の事好きなの?」


「その言い方、中学の時から大っ嫌いだったんだけど。

 ちょっと話したい事があったの――

 笹本さんの事」


「笹本?」


「そ。じゃなきゃ清継君と一緒にご飯食べる訳ないじゃん。

 場所考えるの面倒だから、教室で良い?」


「あ、ああ……」


 俺は恋花の後ろを、

 半拍遅れて追いかけた。


 すぐに振られて戻ってくるだろうと信じて疑わなかった圭吾たち。


 その光景を見て、

 揃って目玉をひん剥いているのが視界の端に映る。


 ――当の俺も、この展開をまるで想定していなかった。


 心臓が胸の内側で、

 節操もなくディスコを踊り始めている。


 ――昼飯なんて、きっと喉を通らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ