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漢達の聖戦④

 

 腕を組んだ圭吾が言う。


「そのなんとかプロジェクトは知らんけどよ。

 アイドルなら、美少女データベース上野が詳しいんじゃないか?」


「もう聞いた。

 三次元は専門外だってさ」


「なら向崎は?

 あいつ、アイドル好きだろ」


 ——なんてこった!

 そう言えば、恋花は実はアイドル好きであった事を忘れていた。


 専門がローカルなのか、地下なのか、韓国なのかは知らないが、

 聞いてみる価値はある。


 いや、それ以上に――話す理由が出来る。


「圭吾、それだ。

 恋花なら、何か知ってるかもしれない」


「役に立てたなら良いけどよ」


 圭吾は少しだけ真顔になって、言った。


「お前、向崎と笹本、

 どっちかを選ばなきゃいけなくなったら、どうすんだ?」


「どんなシチュエーションだよ。

 あいつと話すなら私は死ぬ、ってか?」


「まあ、それでもいいや」


「そんなの――

 どっちも取るに決まってんだろ」


 俺はボールを貰い受けるため、

 勇敢を装って前へ出る。


 ボールを持つ相手チームの、

 名前も知らない体育会系の男子が、俺を狙って構えた。


 両手を広げた、その瞬間。


「お前さ」


 圭吾は呆れたように、しかし妙に静かな声で言った。


「そんなやり方してると、

 いつか――どっちも拾い落とすぞ?」

 

 その直後だった。


 凄まじい勢いで、ボールが飛んで来る。


 ろくにドッジボールなんてしてこなかった俺だが、

 この短時間でだいぶ目は慣れたはずだ。


 大丈夫。

 受け止めるだけだ。

 最悪、上に打ち上げて圭吾にカバーしてもらえれば――セーフ。


 そう、思っていた。


 向かって来た剛速球は、

 俺の両手をすり抜け――


 そのまま、股間に命中した。


「へゔぁっ……」


 どこが、どう痛いのかも分からない。


 振り子のように、

 玉と玉が互いに弾け合う、鈍く重たい衝撃。


 吐きそうだ。


 そのまま、力なく地面に倒れ込む。


 俺の醜態を嘲笑うかのように、

 甲高い笛の音が鳴り響く。


 圭吾が叫ぶ。


「先生!

 清継の清継が大変です!

 早く手当てを!」


「何やってんだよ……」


 体育教師は呆れたように息を吐く。


「汐森、お前もうテントで休んでろ。

 誰か、運んでやれ」


 俺は五里の肩を借り、

 女子たちのいるテントへと引きずられていく。


 皆、心配してくれているのだろう。

 だが――

 周囲から注がれる視線が、別の意味で痛い。


 お願いだから、見ないでくれ。

 今の俺は、青春どころか人間としての尊厳が瀕死だ。


 そんな哀れな男に、

 真っ先に声を掛けてくれたのは――恋花だった。


「ねえ……大丈夫?」


「駄目かも」


「ダサすぎて、ちょっと笑っちゃった」


「戦場から帰還した戦士に掛ける言葉とは思えんな」


「送り出した戦士が、芸人になって帰ってくるとは思わないじゃない」


 無様な俺を見て、楽しげに笑う。


 その無邪気な表情を見られただけで、

 玉砕した甲斐もあったかな、なんて――思ってしまう。


 ……いや、さすがに言い過ぎか。


 それはそれとして。

 止まらぬ冷や汗を拭いながら、俺は切り出した。


「なあ、恋花。

 一つ訊きたいんだけどさ」


 一拍。


「『蜜色プロジェクト』っていうアイドルグループ、知ってるか?

 三日月天使レイラちゃんの主題歌、歌ってた」


「え、なに急に。

 ……知ってるけど。メンバーみんな好きだったし。解散しちゃったけど」


「その元メンバーに、笹本がいる」


「……は?」


 恋花の表情が、完全に固まる。


「解散した理由で、何か想像できることないか?

 メンバー同士が険悪だったとか。

 方向性の違いがあったとかさ」


「ちょっと待ってよ……本当に今、頭パニックなんだけど!」


 間の抜けた声を上げた、その時だった。


 噂の本人――笹本が、こちらに近づいて来る。


 それを察した恋花は、

 まるでバトンを渡すように、そそくさとその場を離れていった。


 もう少し、話を聞いていたかったのだけどな。


 笹本が、蒼白な俺の顔を覗き込む。


「汐森、生きてる?」


 まずい。

 過去を嗅ぎ回っているなんて知られたら、

 また余計な火種を生む。


 俺は出来る限り平静を装う。


「どうだった。俺の活躍は」


「あんた、金玉潰して帰って来ただけじゃない」


「馬鹿野郎!

 ちゃんと圭吾のアシストもしてただろうが!」


「ふふ。まあ、それはそうだね。

 おかげで勝てたみたいよ。ほら」


 笹本が指差す先。

 たった一勝で大騒ぎする二年一組男子たちと、

 この世の生き物とは思えないほど可愛い近島先生の姿がある。


 何にせよ、初戦敗退じゃなくてよかった。

 俺は、ようやく胸を撫で下ろす。


「笹本。

 女子も、そろそろ準備じゃないのか?」


「うん。二人三脚。

 たぶん私、引きずられてくと思う。

 汐森と同じくらい、無様だと思う」


「自分に保険掛けるついでに、俺をディスるなよ」


「ふふ」


 笹本は小さく手を振り、その場を静かに去っていった。


 取り残された俺は、

 テント下のパイプ椅子に深く腰を沈める。


 凱旋する男たちを、

 指を咥えて眺めながら。


 ――寂しすぎて、笑えてくらあ。


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