漢達の聖戦
「二年一組男子諸君。
これから行われるのは『体育大会』などという、
汗がきらめき笑顔が弾けるような生温いお遊びじゃない。――殺し合いだ」
「圭吾よ。
お前はこの授業に、家族でも人質に取られているのか」
本日は特別授業、体育大会。
全学年が参加する体育祭とは少し違う。
学年単位で行われる、
やや規模の小さい行事だ。
指定ジャージに身を包んだ二学年全員が、
整備されたグラウンドへと駆り出され、各種目に備えている。
スポーツを通じて各クラスの親睦を深める――
それが、このイベントの建前なのだろう。
だが、有無を言わさぬ強制参加という時点で、
その目的には大いに疑問が残る。
せめて選択肢は「Yes」しかなくていいから、
招待状くらいは用意してほしいものだ。
最初の競技には、俺たち男子が出陣するため、
女子は各クラスごとに設営されたテントの下で待機していた。
そして、俺たち二年一組男子はというと――
テントから少し離れた場所で座談会、もとい決起集会を開いていた。
クラス代表を務める友人・圭吾が、皆の前で演説を続ける。
「俺たちが最初に参加する競技はドッジボールだ。
だが、今回は特別ルールが設けられている」
一拍。
「各クラスから大将と副将を一名ずつ選抜。
その二名が相手チームを撃破した場合、
ボーナスポイントが一ポイント加算される」
一息置いて、圭吾は周囲を見回した。
「まずは誰が大将に相応しいか、みんなの意見を聞こう」
――そんなルールだったのか。
知らなんだ。
とはいえ、大将はすでに皆の総意で決まっているだろう。
案の定、クラスメイトたちの声が続く。
『やっぱ、大将は圭吾だろ』
『運動能力は一番だしな』
『四天王の中なら誰でもいい』
『異議なし』
……ん。
四天王って、なんだ。
まあいい。
俺も適任者は圭吾しかいないと思う。
「決まりだな。
圭吾よ、今日はお前が今年一番輝ける日だ。
セミのように短い人生を、精一杯謳歌するといい」
「よし、みんなありがとう。良い声で鳴かせてもらう。
じゃあ次は副将だ。
俺的には、四天王の中から決めたいと思うんだが、どうだ?」
――だから、四天王って何なんだよ。
気持ち悪いな。
だが、クラス内では当たり前の共通認識らしい。
誰一人としてその言葉に疑問を挟まないまま、話は進んでいく。
『俺たちのクラスで、特別運動できるのは圭吾くらいだしな』
『ド平均の清継、殺戮の獣・五里、美少女データベース・上野。
誰が副将でも文句ねえだろ』
――文句を、言わせてほしい。
「待て。そいつらが四天王だとして、
なんで俺だけ肩書きが“一般モブA”みたいになってるんだ」
誰にともなく投げた問いだったが、案外すぐに答えが返ってきた。
『いや、清継は異名が多すぎて、定まってないんだよ。
この学校じゃ、愛の伝道者、体力テスト・ド平均、猿飼い、ヒーロー……
他にもあるけど、そう言われたら大体お前のことだ。常識だろ?』
――なんだ、その顔は。
学生相手に、いちいち社会常識を疑ってくる、
嫌なバイト先の店長みたいな顔をしやがって。
おそらく『猿飼い』の“猿”であろう五里が、
誇らしげに鼻を鳴らす。
「さっすが清継さんだ。
この学校の常識を書き換えていく、男の中の漢だぜ」
「黙れ」
「へい」
……いつの間に、そんな常識が根付いていたんだ。
最近は恋花ばかり見ていたのは、
まあいつものことだが。
それに加えて笹本のことにも気を配っていたせいで、
クラス全体への関心が薄れていたらしい。
俺としたことが。
もう少し、心の余裕を持つべきだったな。
俺は、オタクモブこと上野へと視線を向ける。
「上野。お前も、いつの間にこっちの世界に来てしまったんだ。
元いたバーチャル世界に、早く帰った方がいい」
上野は丸眼鏡をぎらりと光らせ、悲鳴じみた金切り声を上げた。
「君たちのせいだろう!?
あの『人物デッサンすり替え作戦』以降、日陰者だった僕が四天王扱いだぞ!?
周りから“K”のメンバーだ、気をつけろって、畏怖されるようになったんだ!」
「サイン入りブロマイドで同意したのは、お前だろ」
「それが地獄への片道切符だなんて、思わなかったんだよ!
もう僕は、平穏な二次元世界に帰れない……!」
……なんというか。
心から、お気の毒に。
せめて、あれだけの作戦を共に成功させた名誉ある犯罪組織――
『K』の一員として、丁重にもてなすとしよう。
「そうか。だが、心配するな。
俺たち『K』は――仲間を売らない」
「僕は買われたけどね」
「合意の上だろ」
「いや、そうなんだけどさ!
止めてくれよ!
また僕が、いかがわしい話に巻き込まれてるみたいじゃないか!?」
どうやら上野も、なかなかに面白い奴らしい。
俺は思わず笑い、話題を本筋へと引き戻した。
「それで、副将だったな」
軽く咳払いをしてから、俺は続ける。
「皆も知っての通り、俺は新学期最初の体力テストで、
堂々たるド平均を叩き出した男だ。
ドッジボールに至っては、真面目に遊んだ記憶すらない。
――副将は、流石に俺じゃないだろ」
そう言って、俺は頭を振る。
「かといって、上野を選抜するわけにもいかない。
彼は四天王に欠かせない参謀だが、あの眼鏡には三次元の物体が映っていない」
「酷い言われようだね」
「事実だろ」
俺は淡々と続ける。
「PC画面に流れる弾幕なら、アニソンを熱唱しながらでも避けられるだろう。
だが、ドッジボールではその才能を発揮できない」
そこで、俺は五里へと視線を向けた。
「よって、今回俺は五里を推薦したい。
的はデカいし、人相も悪いがゴリラの如き腕から放たれる烈火の一投は、
相手チームにとって十分な脅威だ」
一拍。
「副将として“存在するだけ”で、相手を萎縮させる効果も期待できる。
皆は、どう思う?」
問いかけると、クラス中から次々と同意の声が上がる。
『確かに、ゴリケンが副将なら狙うのも怖いな』
『なんか、勝てる気がしてきた』
『やっぱ四天王がいるうちのクラス最強だろ』
――ふふふ。
我ながら、なかなか説得力のある演説だったと思う。
もっとも、本音を言えば。
俺が副将をやって、
チームの足を引っ張るのが怖かっただけだ。
だって、ドッジボールなんてやったことないし。
突き指とか、普通にしそうだし。




